マイナビ農業TOP > 生産技術 > 冬のハウス栽培の味方! 視察続出の誰でもできる「断熱ハウス」

冬のハウス栽培の味方! 視察続出の誰でもできる「断熱ハウス」

伊藤 雄大

ライター:

連載企画:凄い!農家のアイデア集

冬のハウス栽培の味方! 視察続出の誰でもできる「断熱ハウス」

近年の燃料代高騰に加え、2019年10月からは消費税増税……。ますます財布事情が苦しくなるなか、果たして、これまでどおりの冬越しの仕方でいいのだろうか? 今回は、無加温ハウス内を加温設備なしでも効率的に暖める方法があると聞いて、広島県福山市を訪れた。燃料代の高騰とは無縁なそのハウスは、国内からはもちろん、海外からも視察が来るらしい。これからは「加温より、断熱の時代」!?

twitter twitter twitter

加温設備なし! ヒミツはあの資材

小高い山の上にブドウ畑が広がる沼隈(ぬまくま)地域。ブドウの作業は一段落中

県内屈指のブドウ産地である広島県福山市の沼隈地域。見渡す限りのブドウ畑は、全部合わせると約64ヘクタールにもなるという。
この地域にある1.1ヘクタールの畑で、家族でブドウをつくる久下本健二(くげもと・けんじ)さんが「これが、私の『実験ハウス』です」と案内してくれたのは、一見、なんの変哲もない10アールほどの連棟ハウスだった。

断熱ハウスと久下本さん。足元から顔を出す断熱パネルがこのハウスの特徴

中をのぞくと、ブドウやウメ、イチジクなどが植わっており、ハウスの外の地面には、古びた発泡スチロール製の板が顔を出していた。
「こういう取材の時に写真が撮りやすいよう、ここだけはあえて地面から出していますけど、ハウスの外周すべてに発泡スチロール製の断熱パネルを埋め込んでいるんですよ」と久下本さんがニヤリと笑う。
2005年からこのハウスでさまざまな実験を繰り返してきたそうで、国内からはもちろん、海を越えて、韓国からも問い合わせが来たことがあるという。あえてむき出しにした断熱パネルは劣化してしまっているが、埋設したパネルは15年たってもいまだ現役だそうだ。

久下本さんが「ECOM(イーコム)工法」と名付けたこの方法。仕組みはいたって単純で、ハウスを囲うように断熱パネルを地中に埋め込むだけ。
このハウスの場合は、90×180センチ(建材でコンパネサイズと言われる大きさ)、厚さ8センチの断熱材を使っており、地表から地下3.6メートルの深さまで断熱パネルが埋まっている。ハウスの外周に4メートルほどの深さの溝をユンボで掘り、断熱パネルを縦に2枚埋め込んでいるわけだ。
「だいたい、3メートルの深さまであれば効果がありますね」と久下本さん。
すると、なにが起きるのか?

ハウスの仕組みと植物に優しいワケ

「どんなところでも、地下の深いところでは温度が一定なんです。たとえば、このハウスの外も内も、地下3メートルのところはどんなに冷え込んでも16度前後。ところが、地表にいくにつれて、外気温や風雨などの影響で表面の地温が冷やされるわけです」(久下本さん)
ところが、ハウスを断熱パネルで囲うこの方法では、ハウス外の冷たい地温の影響を遮断することができるうえ、地下3メートルから「上がってきた」地温が地表面へと伝わり、植物の根っこ近くの土が温められるという。また、そうして温められた地温も断熱パネルのおかげで外に逃げない。
すると、外気温が0度のときに、通常のビニールハウス内(ビニール被覆済み)の地下1メートルの地温が5度程度なのに対して、断熱パネルを埋め込んだハウスでは14度と、なんと暖房なしで10度前後も地温が上がったらしい。
断熱パネルのおかげでハウス内に侵入する冷たい地温を遮断でき、地中深くにある温かい地温によって、ハウス内の表面地温や気温が上がるうえ、根っこは快適。

断熱ハウスの仕組み

「ハウスの中にウメが植わってるでしょう? ハウス内のほうが、露地よりも2週間早く開花します。イチジクなんかも、ものすごい勢いで伸びますよ」と久下本さんが笑う。
さらに、露地では3月後半に出芽するアスパラが、断熱ハウスでは1月10日頃に出芽したり、1月下旬にはもう、サンショウやフキノトウが芽吹いてくるそうだ。もちろん、無加温でのことだ。
また、暖房をたくのと比べると、農産物の育ち方も違うそうだ。
久下本さんいわく「暖房だと、熱源の周りと、そこから離れたところでは温度が違うでしょ? これが、植物にとってはストレスなんですよ。ブドウの場合だと、熱源の近くでは着色が悪かったり、糖度が低かったりする。それが、このように地熱を利用したハウスはどこも均一な温度になるので、植物もストレスフリーなんです」。
暖房代がかからず財布にも優しいうえに、植物にも優しい、ということか。
ただしこの方法は、ある程度大きなハウスのほうが効果が高いそうだ。小さいハウスは保温力が弱いうえに、ハウス外の地温の影響を受けやすい。

住宅などにも応用できる

ECOM工法でつくった建築物の温度変化の差

じつは、農家であるとともに建築にも携わる久下本さんは、このECOM工法を導入した3階建てのコーポをつくったことがある。その時に、室内温度を測定した結果が上の図だ。
「冬に雨が降ったら建物が冷えてしまって3日は戻らないんですけど、これなら1日半くらいで室温が元どおりになるんですよ。暖房もいらないくらい」と久下本さん。
ビニールハウスや建築物のほかにも、道路の凍結防止などにも使えないか、そんなことも考えているそうだ。
 

株式会社ECOM・De・SE(久下本さんの会社)

あわせて読みたい記事5選

関連記事

タイアップ企画

公式SNS

「個人情報の取り扱いについて」の同意

2023年4月3日に「個人情報の取り扱いについて」が改訂されました。
マイナビ農業をご利用いただくには「個人情報の取り扱いについて」の内容をご確認いただき、同意いただく必要がございます。

■変更内容
個人情報の利用目的の以下の項目を追加
(7)行動履歴を会員情報と紐づけて分析した上で以下に活用。

内容に同意してサービスを利用する