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人口わずか1400人。高齢化が進む村で棚田を継承する理由

人口わずか1400人。高齢化が進む村で棚田を継承する理由

熊本県と大分県の県境に位置する、熊本県産山(うぶやま)村。阿蘇の外輪山と九重(くじゅう)連山に囲まれ、人口はわずか1400人という小さな高原の村で、信号はひとつもない。
村内には、国の重要文化的景観の構成資産であり日本棚田百選にも選ばれた「扇棚田」がある。およそ250年前に開墾されたという棚田で稲作を続ける農家に話を聞いた。

産山村の「扇棚田」が人々を魅了する

標高およそ820メートルの高地にある「扇棚田」は江戸時代中期に開墾され、脈々と受け継がれてきた。
2.1ヘクタールほどの広さに16枚の棚田があり、現在は3軒の農家で稲作を行っている。名前のとおり扇状に広がる棚田が連なっており、侵食された山あいの土地の形状をそのまま生かして作られたと言われている。

扇棚田

日本の棚田百選のひとつ「扇棚田」

水をはった棚田は、風のない日には鏡のように周囲の風景を映し出す。夜には一面の星空をくっきりと映すこともある。大きな建物や送電線などの人工物は周囲に何もない。その美しい景観がここ5年ほどの間にSNSなどを通じて広く注目を集めるようになり、全国からアマチュアカメラマンが訪れる名所となった。

棚田を満たす水は、1.8キロ離れた「山吹水源」の湧き水を引いて使っている。

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棚田米のおいしさの源は、山吹水源の水とも言われている

熊本名水百選にも選ばれている山吹水源からは、毎分30トンもの水が湧き出す。水温は年間を通じて13.5℃ほどで、県内各地から多くの人が水をくみに訪れる名水だ。

カーブを描く棚田

美しい弧を描く棚田

そんな独特の景観の中、名水によって生まれる棚田米は、甘みが強くおいしいと言われている。卸先は熊本県内の企業のほか、食育に力を入れている保育園からも声がかかるという。

棚田で米を作るということ

佐藤高弘(さとう・たかひろ)さんは、棚田を所有する農家の1人。この日は早朝から田植えを行っていた。
自分の棚田を多くの人が見に来てくれるのはうれしい、と話す。

田植えをする佐藤さん

こまめに方向転換を繰り返しながら田植えをする佐藤さん

観光客が増えたためにゴミが増えたり希少な植物を採取していく人がいたりという問題も一部で起きているものの、マナーを守った観光客が産山村に来てくれるのは素直にうれしく、誇らしい気持ちになるという。扇棚田が話題になる中で、さまざまな人とのつながりもできた。
代々守ってきた棚田とその周囲の風景を、これからも継承していきたいと考えている。

上から2番目の棚田の田植え

上から2番目の棚田の田植え風景

棚田ならではの苦労もある。とにかく手間のかかる草刈りには手を焼いている。
農薬や除草剤を使わず刈払機で刈り取っているが、一般的な水田と比較すると、のり面が狭く急な斜面であるため作業がしづらい。

苗を積み込み様子

急斜面から慎重に苗を下ろして積み込んでいく

この日の田植えでも、急な斜面から滑り落ちぬよう気をつけながら、ひとつひとつ慎重に苗を下ろしていく様子が見えた。独特の地形ゆえの苦労は、ほかにも多くあることだろう。

また、棚田へ水を引くための水路の管理も、重要な作業のひとつだ。

水源からの水路

水源の水を棚田へ引き込む水路

棚田を所有する3軒の農家で協力し、毎年春先に水路の手入れを行っている。水源から棚田まではおよそ1.8キロもの距離があり、水路はコンクリートでなく土で作られている部分もある。冬の間に土砂が積もったりイノシシが掘り起こして損傷していたりして、細かな手入れが必要な箇所も少なくない。おいしい湧き水を使うためには、どうしても相応の手間がかかるのだ。

わずか3農家で守る景色と歴史

現在3農家で稲作を行っている16枚の棚田のうち、佐藤さんは8枚を所有している。
長い歴史の中で何度も基盤を整備してならしてきたため、1枚あたりの面積は少しずつ広くなってきた。1964(昭和39)年には59枚もあった棚田は、複数回の農地改修により現在の16枚になった。佐藤さんの所有する棚田は、1枚あたり6アールから17アールほどの面積になっている。

お地蔵さま

棚田を見守るお地蔵様には花が供えられている

繰り返し整備されたとはいえ、棚田としての趣ある雰囲気は今なお大いに残されている。
傍らには、しゃもじを持った小さなお地蔵様が建てられているのも可愛らしい。おいしい米ができるための守り神のような存在として、棚田を見守っている。まさに日本の原風景とも呼ぶべき、のどかな景色だ。

行政としては、この棚田をどう見ているのか。
産山村役場を訪ね、企画振興課の長浜光平(ながはま・こうへい)さんに話を聞いた。

産山村役場長浜さん

産山村役場の長浜光平さん

最近では観光スポットとしての認知度が高まったことから、観光パンフレットやウェブサイトで扇棚田を紹介することが増えたという。
行政としても、扇棚田は産山村を象徴する風景のひとつとして大切に守っていきたいと考えている。現在のところ棚田は所有者によって適切に維持管理されているが、行政としてできる支援、必要な取り組みがあれば積極的に考えていきたいという。

展望スポットから見る棚田全景

扇棚田の遠景は産山村を代表する風景のひとつ

一方で、村内全体で高齢化が進んでいる。人口わずか1400人ほどの村には、後継者不足に悩んでいる農家も少なくないという課題がある。美しい棚田の風景が全国に知られることで、産山村で就農したい、移住したいと希望する人たちが増えればと願っている行政関係者は多い。棚田は単なる観光スポットにとどまらず、村のこれからを左右する大切な役割を担っていると言えるのかもしれない。

編集後記

産山村のシンボルとも言える扇棚田。
SNS時代になってにわかに注目を集めたが、知られざる山里で250年も受け継がれてきた長い歴史がある。今なおさまざまな苦労がありながらも、継承しようという思いを持った生産者の手によって維持されている。
この美しい田園風景と土地の歴史が、これからも大切に守られ、次の世代へと伝えられていくことを願わずにはいられない。

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