常に時代のひとつ先を見据えて事業展開 コロナ禍でも揺るがないそのニーズ
遺伝子組み換えでないこだわりの飼料に、乳牛にストレスのかかりにくい牛舎。
徹底的に高品質の牛乳を追求するのが、三重県の『あのつ牧場』です。おいしさで評判の低温殺菌牛乳は、安心・安全に関して厳しい基準を持つ企業・組織に選ばれて、コロナ禍にあっても販売量は増加しています。
このあのつ牧場で経営を担うのが、牧場の二代目で複数の牧場や製造・加工会社をグループに有するファーマーズホールディングス株式会社の代表取締役CEOの太田誠治さんです。
30年ほど前、太田さんが40頭の乳牛を飼養する同牧場を継いだ頃は、牛舎内の一定の場所に牛をつなぎ止める〈つなぎ飼い牛舎〉が一般的でした。
しかし、よりよい牛乳づくりのためにと、太田さんは酪農に先進的な海外の情報を積極的に収集し、当時国内では珍しかった〈フリーストール牛舎〉をいち早く導入。頭数も250頭に増やしました。
フリーストールは牛たちが牛舎内を歩き回れるため、牛にストレスがかかりにくく、乳量が増えるといわれます。一方で、蹄の病気になりやすいなどの問題が。他にも最適な飼料の検討や分娩後の低カルシウム血症など、太田さんを悩ませる課題は次々と生じましたが、まだインターネットが普及していない中、獣医と協力したり海外派遣を行ったりして最新情報の収集に努め、課題を解決してきました。
人にも牛にもストレスを少なく 高品質を求め続ける「あのつ牧場」
「人と牛に愛され続ける酪農」を実践し、成長してきたあのつ牧場。
2015年には四日市市水沢地区にあった別の牧場も引き継ぎ、『あのつ牧場株式会社・水沢牧場』として運営を開始しました。およそ2.5haの牧場で、200頭あまりの乳牛と仔牛たちを飼養しています。
ここでは、環境にも牛にもやさしい〈コンポストバーン牛舎〉を採用。牛の飼養エリアに堆肥(コンポスト)を1mほど積み上げ、水分調整のためにおが粉を混ぜながら朝夕攪拌することで、牛のふん尿を牛舎内で堆肥化します。堆肥化が順調に進むと牛舎独特の臭いは抑えられ、やわらかい堆肥は牛の体への負担を軽くして、牛たちはストレスフリーに。衛生面も向上して乳房炎が減少するなどの成果があり、より健康な牛に育ちます。
2017年のファーマーズホールディングス設立後は、ホールディングス全体としてIoT技術を取り入れた〈革新的スマート牛舎〉の実現にも積極的に取り組むことになりました。水沢牧場でも複数のカメラを設置し、飼育管理の最適化・省力化を進めています。
さらに、増加し続ける需要を見据え、自動搾乳機を備えた新棟と新牛舎の建設も推し進めることに。
新牛舎ではコンポストの攪拌や餌やりなどの作業を自動化するとともに、パナソニック環境エンジニアリングが推進する『次世代閉鎖型牛舎』を採用することにしました。
築かれていた信頼関係をベースに、最適な提案とシミュレーション
次世代閉鎖型牛舎の最大の特長は、牛舎の壁面に給気用と排気用の換気扇を配して、舎内を横断するように全体に風を流す〈Push&Pull横断換気システム〉。風の流れを一方化し、より快適な牛舎環境を実現します。
現在の牛舎の主流は、天井に順送ファンを設置して順送りに送風する順送方式を採用した開放型牛舎です。しかし、順送方式の場合はファンの直下にしか風が流れず、舎内によどみができることで温度ムラが生じたり、換気ができないためアンモニアガスが滞留したりといった問題が起こりがちです。特に夏場は、暑さが牛のストレスになり、搾乳量は減少してしまいます。
一方次世代閉鎖型牛舎では、牛舎内に設置した環境計測用センサを用いた〈THI(温度湿度指数)制御システム〉により、壁面の換気扇を自動制御。牛舎内の温度・湿度・風速を均一にして、最適な飼養環境に保ちます。
あのつ牧場では、津市の牧場で牛舎に換気扇の設置工事を依頼したのがきっかけで、2014年頃からパナソニック環境エンジニアリングとのお付き合いがありました。その後も、堆肥舎建築、太陽光発電システムなどの案件を通して信頼関係性を重ねていたのです。
2020年末、太田さんが同社に水沢牧場牛舎新設について話すと、すぐに提案があり、新牛舎プロジェクトがスタート。太田さんは「風の流れについて、換気扇の設置台数や取付角度など、いくつものパターンをシミュレーションしてくれたので安心できた」とふり返ります。
より良い酪農をサポートするパナソニック環境エンジニアリング
水沢牧場では、給餌棟とその両サイドに設ける2棟の牛舎に全部で366台の換気扇を設置する計画でしたが、シミュレーションをもとに再検討し、388台に増設。IoT化された自動化設備の誤動作を少なくするためにインバータを搭載した換気扇を採用し、ノイズ対策も考慮しています。
給餌棟と牛舎1棟は2022年春までに完成し、残る1棟も夏を迎える前には完成する予定。太田さんは「今年から牛も人も、牧場の夏が快適になりそう」と期待を寄せています。
パナソニック環境エンジニアリングの下野衛さんは、「牛舎内風速を均一に保つことで、牛はどこにいても風が当たり、体感温度が下がって涼しく感じます。それだけでなく、全体換気による空気の循環でアンモニア濃度の低下も実証されています」とこだわりの技術を訴えます。
「また、閉鎖型の建屋によって野鳥の侵入を防ぎ、さらに舎内一様に2m/sの風を流すことで暑熱期に発生するサシバエ・蚊などの吸血昆虫の侵入、飛翔を抑制します。そして冬場は、最低換気による結露の対策や、フレッシュエア導入による衛生管理にも役立ちます」。自動制御で省人化できる上、状態を見ながら任意で調節も可能です。
「あのつ牧場様からの信頼にお応えすべく、牛にも、働く人たちにもより良い環境の実現をサポートしていきたい」と下野さん。「酪農家だけでなく、畜産農家さんの課題解決にも役立ちたい」と続けます。
「個々の牛舎の形状、規模に合った提案はもちろん、無料診断や相談会も実施します。建築、設備の設計、施工、改修についてのご説明や、環境改善の為の最適な提案をさせて頂きます。まずはお気軽にお問合せください」とのこと。
畜舎にお悩みを持つ酪農家、畜産農家の方は、ぜひ一度ご相談してみてはいかがでしょうか。
取材協力
あのつ牧場株式会社
三重県四日市市水沢野田町1618-20
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