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異世界で仲間を作れ! 農村で情報と信頼をゲットする方法とは?【転生レベル5】

平松 ケン

ライター:

連載企画:就農≒異世界転生?

異世界で仲間を作れ! 農村で情報と信頼をゲットする方法とは?【転生レベル5】

自分の常識が通用しない異世界のような農村で新規就農した僕、平松ケン。さまざまなトラブルはあったものの、だんだんと農村の人々にも受け入れられるようになった。しかし農村はベテランだらけで、友と呼べる人はおらず、心細さを感じていた。そこで、行政の担当者からの勧めもあり、若手農家のグループに加入することに。しかし、親睦会で飛び交う言葉はまるで外国語⁈ メンバーは話が全く通じない異世界人⁈ 僕は彼らと仲間になることができるのだろうか……。

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本記事は筆者の実体験に基づく半分フィクションの物語だ。モデルとなった方々に迷惑をかけないため、文中に登場する人物は全員仮名、エピソードの詳細については多少調整してお届けする。
読者の皆さんには、以上を念頭に読み進めていただければ幸いだ。

前回までのあらすじ

「初対面の人が僕の全てを知っている」という状況に愕然としつつ、「個人情報ダダ洩れ」の農村地帯で、どうにか生きるすべを身に付け、地元に根を下ろし始めた僕。

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しかし、孤軍奮闘を続ける僕には、決定的に足りないものがあった。それは、未知のトラブルが頻発する異世界を共に生き抜く「仲間」の存在である。

市の担当者の誘いで入った若手農家グループだったが……

RPGの勇者に頼れる仲間がいるように、新規就農者にも仲間がいれば心強い。しかし、僕が新規就農した地域には60代以上のベテラン農家が多く、互いに悩みを共有したり愚痴を言い合ったりするような仲間は皆無だった。

「同世代の仲間と、悩みを相談し合うことができれば……」
そんな思いを漠然と抱いていたところ、ある日、市の就農支援の担当者から電話が入った。

「平松さん、よければ若手農家のグループに加入しませんか?」
「え? 若手農家のグループって何なんですか?」

詳しく聞いてみると、この若手農家のグループは市町村ごとに組織され、主に45歳前後までの農家が加入するものらしい。定期的に打ち合わせをし、一緒に地域貢献活動に取り組んだり、視察旅行に出かけたりしながら、互いの親睦を深める会のようだ。
「最近、グループに加入する若手も減ってきているので、ぜひ平松さんに参加してもらいたいんです。平松さんも、若手と知り合う良い機会になると思いますし」
と、担当者は熱心に誘ってくる。
「それはありがたいですね。ぜひ参加してみたいです!」
僕は仲間づくりができるならと、期待を込めて返事をした。
「じゃあ、加入する方向で進めますね。今度、親睦会があるので、平松さんもぜひいらしてください」
「はい、分かりました! よろしくお願いします!」

そして迎えた親睦会当日。中華料理屋の一角を借り、市内の若手農家20人ほどが集まって宴会が行われた。

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会の冒頭、グループの代表らしき人が簡単な挨拶をした後、すぐさま乾杯が行われ、豪快にジョッキが空けられていった。お酒がそれほど強くない僕は、顔見知りの行政担当者としばらく会話していたが、30分ほど過ぎた頃、行政担当者が立ち上がって僕の紹介を始めた。

「こちらが平松さんです。新しくこのグループに入ることになりました。平松さん、ご挨拶をお願いします」

すでにだいぶお酒が入っているからか、20人はいるであろう農家のほとんどが話を聞いていない様子だ。3~4人がこちらを一瞥した程度で、明らかに反応が薄い。
僕は立ち上がり、会話を続ける農家たちに向かって声を発した。
「平松です。先日、新規就農しました。よろしくお願いします」

しかし、挨拶の後に待っていたのは、まばらな拍手のみ。半分以上の農家がこちらには目もくれず、旧知の農家との食事や会話に夢中になっていた。

「なんだ、このアウェー感は……」

彼らの反応を見て、僕は急に異世界に放り出されたような不安と孤独に襲われた。担当者の話から、むしろ諸手を挙げて歓迎してもらえると考えていたのだが……。僕の淡い期待は、のっけから裏切られる形となったのである。

若手農家のグループはマジで異世界!

「入会すべきじゃなかったかなあ……」
家に帰って会を振り返りながら、僕はもう退会したほうが良いのではと思い悩んでいた。その日はほとんど話の輪に入れず、会場の隅で行政担当者に相手をしてもらうことになってしまったのだ。

誤算だったのは、グループのメンバーのほとんどが、地元の有力農家の息子だったことだ。よく考えてみれば当たり前なのだが、僕のように他地域からU・Iターンして新規就農する人は、ごくごく少数派。「ほぼ初めて」といっていい存在だ。であれば、若手農家のグループのメンバーは、必然的に「農家のせがれ」ということになる。
地元の農業高校などを出て、そのまま親元で就農している人も多い。要するに、ここにも僕が暮らしてきた都会とは異なる異世界が広がっていたのだ。

さらに困ったのが、ほぼ全員が自分より年下という点だ。すでに40歳近い僕は、若手農家グループの加入上限ギリギリで、ほとんどが年下になる。なかには僕とひと回り以上年の離れた農家もいた。栽培する作物の違いだけでなく、ジェネレーションギャップも加わり、話している言葉の意味が分からないのだ。もう、通訳を必要とするレベルだ。

しかも今後、地域貢献活動、親睦会、視察旅行など、さまざまな行事が続いていくという。行事のたびに、農作業ができなくなるだろう。農家の息子であれば、親に仕事を任せることが出来ても、一人農業の僕はそういうわけにはいかない。そのうち「なんで加入したんだろう……」という後悔の念が、大きく膨らんでいった。

思いがけず役員になってしまった!

しばらくして、グループの次期役員を決めるための会議の案内が来た。僕が出席したところで、メンバーの顔と名前もほとんど一致しておらず、役員なんて選べるわけもない。だが、一応会員であるという義務感だけで、出席することにした。まあ、入ったばかりの僕に役員のお鉢が回ってくることなんてないだろう、と高をくくっていたこともある。

しかし意外なことが起こった。

「平松さん、役員を引き受けてくれませんか?」
会長の指名を受けた農家から「副会長をお願いしたい」と打診されたのだ。
「え? 僕ですか? 会に入ったばかりで右も左もわからないんですが……」
僕が戸惑っていると、次期会長は
「農家としての経験は浅くても、社会でいろんな経験をしていらっしゃるみたいなので」
と持ち上げる。
実際、僕はグループ内では最年長。年上を立てて……といえば聞こえはいいが、内実は「面倒な役職を押し付けられた」というのが正解である。次期会長の提案を、周りの農家も「それがいい」と後押しした。ほとんど話したこともないのに、「平松さんは適任だ」という声も聞こえてきた。困っている僕をかばってくれる人はおらず、外堀を埋められた僕は
「分かりました……。頑張ってみます」
と答えるしかなかった。

通常の会員であっても、イベントの準備などで多くの時間が割かれる。役員となればなおさらだ。これまでは自由参加だった行事も、準備も含めて必ず出席しなければならない。しかも、副会長に就任したら「次は会長」というのが規定路線になっていた。

「これで2年間は、農作業以外にもいろいろと忙しくなりそうだ……」

仕方がない。異世界に溶け込むための試練だと思い、僕は覚悟を決めた。

サラリーマン時代の経験が仲良くなるきっかけに?

僕は本腰を入れてグループの活動に取り組むことにした。それにつれて、苦手意識のあった若手農家とも積極的にコミュニケーションを取る機会が多くなった。ちゃんと話してみると、「農家のせがれ」がほとんどの若手農家の中にも、一度は異業種での経験を積んでいたり、サラリーマンを経て家業を継いだりした人も結構いることが分かってきた。

また、僕がサラリーマン経験が長く、農家の世界のことを全く知らないこと、逆に言えば「農家が知らない世界を知っていること」も、徐々に理解してもらえるようになった。

僕が副会長になってすぐ、若手農家グループが主催して農産物直売イベントを行うことになった。そのイベントでは、僕のサラリーマン時代の営業経験が生きる形となった。売り場は地元の百貨店。当初先方が提示した売り場はそれほど集客の見込める場所ではなかった。そこで僕はバイヤーと交渉し、より有利な場所に出店させてもらえるようにしたのだ。これをきっかけに、少しずつ周囲の目も変わっていき、いろんな相談が寄せられるようになった。
「平松さん、こういう時ってどう販売するのがいいですかね?」
「少しでも商品が売れるように、きれいに写真を取ってもらえませんか?」
ほかにもお客さんへの声掛け、POPの作成、陳列方法……。栽培技術とは全く関係のない分野で持ち味を発揮することで、僕は彼らの仲間として認められていくことを実感していた。

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イベントをするには打ち合わせも欠かせない。打ち合わせの後はほぼ毎回飲み会になった。
「平松さんて、なんか面白いよね。なんで農業を始めたの?」
と酒の力を借りて、年上の僕に親しく話しかけてくる20代の農家もいた。
「農業って大変だよね、僕らみたいに親元で就農するのも色々と苦労があってさ……」
と愚痴を言ってくる農家の息子もいた。

回を重ねるうちに、あれだけ嫌だった若手農家のグループの会合が、いつしか仲間との居心地の良い時間になっていった。そして彼らに兄貴のように接してもらえることがうれしくて、会の活動をもっと盛り上げようと力を尽くすようになった。

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そして気付いた、仲間の意外なメリット

若手農家とのつながりが出来たことは、思いがけないメリットをもたらした。「有力農家のせがれ」だけに、若手農家のグループのメンバーには、地域の人間関係に詳しい人も多い。

「Aさんは、Bさんと仲がいいみたいだね」
「あの人は結構嫌われているから、注意した方がいいかも」

地域の人間関係やパワーバランスといった「農村の貴重な情報」を得ることができたのである。これはのちに、さまざまなトラブルを解決したり、地元農家の信頼を得るのに役立った。

新たな農地を借りようと、地主さんにお願いに行った時のこと。その農地はもともと僕が就農した地域から少し離れたところにあり、地主さんとは初対面だった。挨拶を終え土地の説明などを受けていると地元の米農家、上杉さんのことが話題にのぼった。
「隣の土地は上杉さんのとこの土地だからな。もしここを貸すってことになったら、上杉さんにも話をしないとな」
と地主さんは言う。
この地域の上杉さんといえば、グループのメンバーの上杉君のお父さんだ。一度顔を合わせたこともある。
「ああ、上杉さんですか、息子さんにはいつもお世話になっているんですよ。この前も一緒に直売イベントをして……」
と僕が上杉さんの息子と知り合いであることを告げると、地主さんの表情がぱっと変わって距離が一気に縮まり、そのまま農地を借り受けることが決まった。

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その後も地元の有力農家に挨拶するたびに「いつも息子がお世話になっているみたいだね! 頑張ってよ!」と気さくに挨拶を返してもらえることが多くなった。「息子の友達」というだけで信頼を得られ、いろんなことがスムーズにいくというのは驚きだった。
心強い仲間たちを得たことで、僕の異世界での暮らしは、ぐっと楽になったのである。

レベル5の獲得スキル「仲間を作って異世界を生き抜く方法」

「異世界で生き残るには、同世代の仲間を作れ!」

最初は「農家のせがれ」というレッテルを貼り、「新規就農の自分とは理解し合えない」と勝手に距離を置いていた僕だが、こちらから積極的にコミュニケーションを取ってみると、60代以上のベテラン農家よりも分かり合える部分が多く、むしろ「別の世界のことを知っている頼れる兄貴的な存在」として慕われる場面が多くなっていった。

大きなメリットは、「農家のせがれ」である彼らの親は、地域の有力農家であり、彼らとのコミュニケーションを通じて、農村の情報を幅広く収集できることである。同じ作物の農家であれば、日々の作業の中で情報交換する機会があるが、別の作物を作る農家とは接点が薄い。作物の垣根を超えて様々な情報を得られるため、異世界での暮らしを円滑にするためにはうってつけの情報源なのである。

地域での信頼獲得という点でも、思わぬ効果を発揮した。地主さんの多くは、元農家やその息子であり、会話の中で地域の有力農家の名前が出てくることが多い。「息子さんと知り合いですよ」と話すことで距離を縮めることができ、その結果、土地探しが圧倒的に楽になったのである。

しぶしぶ参加していた若手農家のグループで、心強い仲間たちをゲットした僕。徐々に農村を攻略し始めた僕は、ついに地域の情報と信頼をゲットするための「秘策」を編み出すことになるのである……【つづく】

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就農≒異世界転生?
就農≒異世界転生?
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