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社会福祉協議会がなぜ農業? 特産のニンニクを商品化し就労の場づくり

山口 亮子

ライター:

社会福祉協議会がなぜ農業? 特産のニンニクを商品化し就労の場づくり

香川県の琴平町社会福祉協議会は、田んぼを借りて作物を栽培しているだけでなく、農家から作業を手伝ってほしいと依頼を受けることも珍しくない。きっかけは、地域の特産であるニンニクの販売単価を底上げしたい生産者とともに、ガーリックオイル「ガァリック娘」を開発し、販売元になったことだった。地元特産品の商品化により、障がい者らの仕事の創出も実現している。同協議会で事務局次長と地域生活支援課長を兼ねる新原隆一(しんばら・りゅういち)さんに農業に関わる理由を聞いた。

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農業と観光業、社協の三者三様の悩みを一挙に解決

琴平町は、「こんぴらさん」として知られる金刀比羅宮の門前町として発展し、香川県を代表する観光地となっている。同町がニンニクの産地だということは、以前は地元住民にすらあまり知られていなかった。
香川県のニンニクの生産量は、青森県と北海道に次ぐ全国3位である。なかでも琴平町は、県内で最大の産地だ。

その「こんぴらにんにく」は、大ぶりで辛みとにおいが強い。販売価格の高い「秀」と「優」に比べ、それに満たない「A」「B」「加工」の価格は大幅に下がる。地元JAをはじめ生産者側には、A品以下の販路を広げて農家の所得を上げたいという問題意識があった。

また、観光業は観光業で、地元の特産品を使った土産物がないという悩みを持っていた。
一方、社会福祉協議会(以下社協)では、ハンディキャップを持つ人たちの就労の場と工賃の向上につながる仕事を探しており、そのニーズが地域の課題とうまくかみ合って生まれたのが、ガァリック娘だ。

特産のこんぴらにんにく(画像提供:琴平町社会福祉協議会)

社協でニンニクを買い取り、作業所に加工を委託

香川県小豆島の株式会社高橋商店は、オリーブオイルでニンニクを揚げて風味を染み込ませたガーリックオイルを販売していた。高い輸送費を払って青森県産を取り寄せてきたが、こんぴらにんにくを知り、スライスされたものがあれば使いたいと考えていた。
「ガーリックオイルを試作したら、非常にいいという結果でした」と新原さん。ネックは、琴平町に加工所がないことだった。そこで「社協でニンニクを買い取り、障がい者の通う作業所で皮むきやスライスといった加工をしてもらうようにしたんです」

作業所でニンニクをスライスするようす(画像提供:琴平町社会福祉協議会)

その仕組みは次の通り。

  • 町内にあるJA香川県象郷(ぞうごう)支店でニンニクを集荷し乾燥
  • 心身障がい者を対象とする小規模作業所「ねむ工房」で玉割り、皮むき、スライスをし、1キロ単位で袋詰め
  • 高橋商店でガーリックオイルを製造
  • 社協が販売元になり旅館や土産物店など町内の約35店舗に納入、ネット通販も

ガァリック娘の商品名とラベルのデザインは、隣の善通寺市にある善通寺第一高校の生徒が手掛けた。地域のさまざまなプレーヤーが連携することで生まれた商品なのだ。

新原隆一さん

「社協は何をやってもいいところ」

そもそも社協とは、民間の社会福祉活動の推進を目的とする非営利の民間組織。すべての都道府県と市町村に設置されていて、主に福祉に関わる活動を担う。
生活支援やボランティア活動のイメージが強い社協が、なぜ農業に関わっているのか。新原さんはこう説明する。

「社会福祉協議会は何をやってもいいところだと思っているので。地域に支えられているぶん、ちゃんと地域に還元し、還元したものがまた地域福祉に使われる仕組みが作れるなら、どの分野の活動をしてもいい。農業に関わるのも、そのための一つの手段」

障がい者が携わる作業というと、部品の加工や商品の包装、手工芸品の制作といった内職が一般的だ。作業の対価として障がい者に支払われる工賃は安くなりがちで、琴平町社会福祉協議会は工賃を上げられる仕事を探していた。
ニンニクの加工は、地域に担い手がおらず、実需者からの引き合いがある。探している仕事にピタリと当てはまった。販売した商品の収益は、地域での福祉事業に還元している。

ニンニクを割る作業(画像提供:琴平町社会福祉協議会)

ニンニクの栽培や農作業の支援まで

ガァリック娘の開発を皮切りに、同社協は農業に関わっていく。社協が借りた5アールの田んぼでは、ねむ工房がニンニクなどの作物を栽培している。
「琴平町も農家の後継者不足という問題があります。高齢の農家からニンニクの植え付けや収穫の手伝いを依頼されると、ねむ工房が作業に訪れています。地域からはすごく喜ばれています」

農業に関わることで、ねむ工房利用者の工賃は大幅に上がった。10倍近く上がった利用者もいる。

新たな加工品で就労訓練の場を創出

2023年には、ガァリック娘を作る過程で出てくる副産物「フライドガーリック」を粉砕して商品化し、「どこでもガァリっ子」として発売した。これまで年間2、3トンが廃棄されていたものを有効活用する。揚げた後のフライドガーリックは非常に硬いため、町内の鉄工所に粉砕機を特注で作ってもらった。
「サラダや炒め物、麺類に振りかけると、いつもの味にニンニクのアクセントをつけることができます。おいしいと非常に好評です」(新原さん)

どこでもガァリッ子は家庭での料理に使われるだけでなく、全国展開するスーパーの総菜にも使われている。
商品化は、製造業者からすればまだ食べられるものを捨てるのはもったいないという「SDGs」の観点から進められたものだが、社協からすると、就労の場を作るためである。コロナ禍もあり、仕事のない状態にあったり、生活が困窮したりする人たちに働ける場所を提供したいと考えてきた。

製造を担うのは、就労していなかったり、引きこもり状態になっていたりする人たちだ。
「製造の作業は、中間的就労の場です。この場を通して働くことに対して勇気を持って、本格的な就労に踏み出してもらえたら。引きこもっている、あるいは仕事がない状態が続いているといった人たちが気軽に働きに出てこられるツールと位置づけています」

フライドガーリックを粉砕し、どこでもガァリっ子を製造する(画像提供:琴平町社会福祉協議会)

コロナ禍で観光客が激減したこともあり、ガァリック娘の販売本数はピーク時を大きく下回ってきた。どこでもガァリっ子の製造作業がどのくらい続くかは、ガァリック娘の売れ行き次第。作業の機会を増やすためにも、その販売を伸ばしていきたいと新原さんは考えている。

「ガァリック娘」と、その製造過程でできるフライドガーリックを粉砕した「どこでもガァリっ子」

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