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大和証券のグループ会社が手掛けるトマト栽培。1ヘクタール規模の従来型ハウスで収益を出すカギは「日本型のハード」と「オランダ型のソフト」

山口 亮子

ライター:

大和証券のグループ会社が手掛けるトマト栽培。1ヘクタール規模の従来型ハウスで収益を出すカギは「日本型のハード」と「オランダ型のソフト」

大分県の中西部に位置する玖珠(くす)町の標高850メートルの山あいに、約1ヘクタールの連棟ハウスが建っている。冷涼な気候で、近隣の産地で出荷の難しい夏も含め、安定した供給ができる。そんなメリットを生かしてトマトを栽培し、売り上げを伸ばすのが、大和証券グループに属する株式会社みらいの畑から。軒高が2メートルほどの従来型のハウスを活用しており、6メートルほどあるオランダ型のハウスとは条件の面で開きがある。いかに生産効率を高めているか聞いた。

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日本型の施設、オランダ型の環境制御

「従来からある日本型の施設というハードの設備に対し、ソフトの面でオランダ型に近い環境制御の技術を入れて、どれだけ収益を伸ばせるかチャレンジしています」
みらいの畑からの農場長、濱里亮平(はまざと・りょうへい)さんは、同社の経営の特徴をこう言い表す。
キーワードは、「日本型のハード」と「オランダ型のソフト」。まずは前者から解説したい。

約1ヘクタールの連棟ハウス

現在、国内外でトマトで高い収量を出すのは、軒高が6メートルを超えるようなオランダ型のハウスとなっている。その特徴は、曲線を描くアーチ型の屋根ではなく三角形の角屋根で、骨材が細いため日陰になる部分が少なく採光性が高いこと。軒の高さを生かしてトマトの主幹を3メートルほどの高さまで伸ばし、採光性の高さによって光合成を促進し、収量を高めるというものだ。

従来型のハウスで工夫しながら儲かる農業を

同社のハウス群はというと、もともとは2014年にある大手企業が農業参入し、トマト栽培を始めた。その後、諸々の事情から手放すことになる。2020年に株式会社大和証券グループ本社(東京都千代田区)の子会社・大和フード&アグリ株式会社(同)が、みらいの畑からを買収し、事業の再建に着手。大和フード&アグリの社長である久枝和昇(ひさえだ・かずのり)さんが、みらいの畑からの社長も兼ねる。

久枝さんは、施設園芸の業界でよく知られた農業コンサルタントで、大規模なオランダ型のハウスの設立や運営に携わってきた。みらいの畑からと同様に大和フード&アグリが買収した静岡県磐田市の株式会社スマートアグリカルチャー磐田(SAC磐田)では、オランダ型のハウスでパプリカを効率よく栽培する。

久枝さんはこう話す。「我々は、SAC(サーク)磐田のような、国内だけでなく世界で見てもハイスペックな施設での栽培もする。一方、ここは日本でよくある従来型のハウス。すでにある設備を使って、工夫しながら儲かる農業を目指すという、また違った意味がある」

大玉トマトを栽培するようす

夏に安定して出荷できるという希少価値

自ら「儲かる農業のビジネスモデル」を実現するというのが、大和フード&アグリのコンセプトだ。そのために重要になってくるのが、2つ目のキーワード、「オランダ型のソフト」である。

環境制御や自動かん水の装置を導入し、ハウスの環境を「見える化」、自動化している。「ハウスは連棟なので、一括で管理できる」と濱里さん。
大玉トマトの「麗妃(れいき)」と、縦長でプラム型のミニトマトをロックウール(鉱物由来の繊維)の培地を使って養液栽培(※)する。自前の選果設備も持つ。
大玉トマトは、大手量販店やハンバーガーチェーンなどと取引がある。赤くなってから収穫するため、「糖度が5度前後で、安定したよい食味です」とのこと。

大玉トマト

出荷は6月上旬に始まり、3月中旬まで続く。
「生産量が長期にわたって安定していて、ムラなく供給できることが強み。とくに、夏場の平均気温が25度を下回るため、暑い8~10月に安定して出せるという希少価値があります」(濱里さん)

※ 土を使わず、生育に必要な養分を水に溶かした培養液を与えて栽培する方法。

農場長の濱里亮平さん

大規模になるほど現場管理のノウハウが重要に

大和フード&アグリは「農業の大規模産業化を推進」することを掲げ、現に大規模な農場の再建に取り組み、売り上げを伸ばしている。しかし、それは簡単なことではない。久枝さんは言う。

「1ヘクタールという規模の農場を運営するには、それなりのノウハウがいる。たとえば、10アールでできていたことが、1ヘクタールになるとできなくなるということが起きるので。大規模な農場だと、誘引(茎や枝を支柱などに固定すること)作業をしたいのに作業の効率が上がらなくて間に合わず、収量が下がるということがよくあります」

事業の創出や再建を手掛けてきた立場から、大規模な農場はまず「生産において量をとることがうまくいかないとダメ」と断言する。
収量を確保するためのノウハウには、2種類ある。現場管理と栽培技術だ。現場管理は、従業員や作業の管理に当たる。
「大規模な農場を管理した経験者がいるかどうかで、収量が半分になったり、倍になったりする。現場の人をちゃんと管理できるようになったら、今度は環境制御ですね。温度をコントロールする、適切なタイミングで葉をとる、摘果するといった技術的な面が重要になります」(久枝さん)

現場管理と栽培技術が両輪となってはじめて、収量を高められる。久枝さんによると「大規模になればなるほど、技術はあっても現場が回せないということが生まれてくる」のだ。
みらいの畑からは、社員3人、パート25人を擁する大所帯。それだけに、現場管理は極めて重要になる。久枝さんは過去に8ヘクタール、濱里さんは2ヘクタールの施設を管理した経験を生かし、作業の効率を高めてきた。

自社ブランドで利益を確保

もちろん、販売も重要になる。面積当たりのキロ単価をどうやって大きくしていくか。なおかつ、生産と販売のバランスをどうとるか。この辺が腕の見せどころだ。
同社はもともと大玉トマトのみ生産していたが、少しずつミニトマトを増やしてきた。「プリンセストマト極甘」という自社ブランドで販売する。

「プリンセストマト極甘」

糖度が10度ほどあり、フルーツのような甘さで、薄皮で食べやすい。九州はもちろん、東日本も含む全国の量販店に出荷している。
「人件費しかり、重油代しかり、生産コストが軒並み上がっています。自社ブランドとして販売することで、より付加価値をつけて、しっかり利益を確保したい」(濱里さん)

「プリンセストマト極甘」として販売するミニトマト

トマトは供給過剰気味も5年スパンで大きく変化か

大和フード&アグリは、自ら農場を取得、再生するだけでなく、コンサル事業も手掛ける。「農業参入した企業の困りごとを解決するコンサルティングを、栽培と販売の両面から行っています」と濱里さん。

最後に、そんな同社にトマトの市場全体を俯瞰(ふかん)して読み解いてもらった。
供給が過剰気味とされる一方で、生産者の数は減っている。過剰から不足に切り替わるのは、時間の問題と見られるという。

2023年の夏には猛暑の影響で供給不足に陥り、価格が高騰した。
「高い価格が何カ月にもわたって続くという、今までなかったことが起きた。気候変動という要因もあるが、人という要因も影響し、これまでにない事態が生じる時代になる。トマト関連のビジネスは、今後5年くらいのスパンで見ると、大きく変化するタイミングが来るはず。従来型のやり方ではそれを乗り越えられない」。久枝さんはこう分析する。

異常気象の影響が大きい時期にも出荷を続けられた生産者には、「我々のように数字を使ってきっちり管理している人が多かった」と振り返る久枝さん。
稲作ではすでに、大規模な生産者に農地が集約されていて、100ヘクタールを超える生産者も増えてきた。集約と大規模化は今後、野菜業界でも加速すると予測する。

「大規模になると、一定の契約に基づいて栽培するようになるので、キロ単価が設定されている分、きちんと量をとれば黒字を実現できます。経営ノウハウを持った大規模な施設園芸の生産者が増えれば、リスクマネー(リスク性の高い投資資金)を提供して農業の大規模産業化を進めるという我々の出番がもっと生まれてくると考えています」

久枝さんは、人気の高いトマトに迫る変化の時を見据えている。

画像提供:株式会社みらいの畑から

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