県内でトップクラスの高価格品目の『鳥取西瓜』
大山山麓の肥沃な黒ボク土が広がる鳥取県。この豊かな土壌に加え、春から夏にかけて日照時間が長く風通しが良いという条件は、糖度の高い大玉のスイカを作る上で最適な環境となっています。ブランドスイカの代表格『大栄西瓜』のほか、市場評価の高い『倉吉すいか』、『とまり美人』、『琴浦がぶりこ』など、まさにスイカの宝庫です。それぞれ特徴が明確で希少価値が高いため、年々単価も上がり、鳥取県内の園芸品目の中でも、トップクラスの高価格帯商品と位置付けられています。
いずれの産地も、JA、県、市町などと連携を組み、スイカ栽培の新規就農者の受け入れ体制を強化。農業で生計を立てることができるよう、技術面のみならず、初期コストなど資金面でも新規就農者をサポートしており、昨今、若い世代の就農者が目に見えて増えています。
研修制度も充実しており、鳥取県立農業大学校(以下「農業大学校」)では職業訓練として農業の基礎を学ぶことができる「アグリチャレンジ科」、品目別によりしっかりと学べる「スキルアップ研修」があります。さらに、(公財)鳥取県農業農村担い手育成機構(以下「担い手育成機構」)がコーディネートする「アグリスタート研修」では、先進農家のもとで実際に農作業を行いながら、実践でスキルを身につけることができ、座学研修で就農準備の進め方等も学べるため、農業経験の有無に関わらず、スムーズにスイカ栽培が始められるような体制を確立しています。
「脱サラするにしても、県外移住するにしても、大きな不安を抱えるのは当たり前です。まずは現地を見て、農家と話をすることが一番だと思っており、鳥取県内ではそのための様々なイベントを開催しています。11月に開催予定の「とっとり農業人フェア」(鳥取県内の合同就農相談会)には県内各産地の生産者が多く参加されますので、実際に就農した人から直接話が聞ける場でもあります」と、鳥取県農業経営・就農支援センターの前田香那子さんは話します。
スイカ栽培はもちろん、農業もまったくの未経験からのスタート
「家庭菜園さえやったことがなかったのに、今農業をやっているなんて。人生何があるかわからないですよね」と笑顔を見せる秋山祐子さん。生まれは北海道北西部に位置する留萌市。道内で介護士として働いたのちに上京して出会ったのが夫の竜一さんです。
40歳を機に地元・鳥取県に戻りたいと考え、移住を真剣に考えていたという竜一さん。
2人で一緒にできる仕事に就きたいと(公財)ふるさと鳥取県定住機構で相談したところ、勧められたのが北栄町での農業でした。雄峰・大山の恵みによる美味しい野菜が栽培できることと、鳥取県の就農支援が充実していることが、2人の背中を押すことに。
農業の経験はゼロだったため、まずは北栄町内の地域おこし協力隊に応募。活動の中で、移住地の妻波地区にはスイカ農家が多いことと、この地域で栽培される『大栄西瓜』はブランドスイカとして人気が高く、単価も高いことを知ります。「何よりスイカに愛を注いでいる農家に憧れました。こんなカッコイイ農家になりたい!と心が決まりましたね」と、祐子さんは振り返ります。
協力隊の任期最終の3年目に、祐子さんは、農業大学校の「スキルアップ研修」でスイカ栽培の専門的な知識と技術を学び、竜一さんは、担い手育成機構の「アグリスタート研修」で、先進農家のマンツーマン指導を受けて技術を習得。2021年1月、晴れてスイカ農家としてスタートを切りました。
「1年目は苦労の連続でした。張り切って、最初から栽培面積を広げすぎてしまったんです。つるが被って日が当たらず、低糖度になってしまったり、中身が未熟だったり。研修中のようにはいきませんでした」と祐子さん。一昨年と昨年は、土壌病害による大きな被害が。心が折れそうになりながらも、祐子さんは県の農業改良普及所やJAの営農指導員と共に懸命に土壌の消毒にあたり、原因についても専門家から学びました。そして4年目となった今年、ようやく納得のいくスイカが出来上がり、順調に出荷も進んだそうです。
「10年以上栽培しているベテラン農家さんでも、“毎年1年生だよ”と言っているのを聞いて、本当にその通り。それでも皆さん楽しそうに作っているんですよね。最近、その楽しさがわかってきた気がします。近所の方から “甘くて美味しかったよ。腕を上げたね”と言われた時は嬉しかったですね」(祐子さん)
そんな祐子さんを励ます、もう1人の小さな味方がいます。北栄町妻波で生まれた5歳になる愛息、波琉虎(はると)君です。
「保育園に入る前は、近所のおばあちゃんたちが日中の面倒を見てくれていました。両親は北海道在住でサポートを頼めなかったので本当にありがたいですね」。
祐子さんは、家族を温かく迎えてくれる地域の人たちのために、何か協力したいという思いから地域の夏祭りの企画運営担当の一員となり、妻波に群生する竹を活用した流しそうめんを行うなど、地域の人たちにはもちろん、波琉虎君にも楽しい思い出を作ってあげたいと精力的に活動しています。
「緩やかでも右肩上がりに成長していることをモチベーションに、持ち前のチャレンジ精神で頑張っていきたいと思っています。夢は“これが秋山家のスイカ”と言えるこだわりのあるスイカを作ることですね」。大きく育っているスイカを見ながら、祐子さんは満面の笑みで答えてくれました。
自分が一番自分らしくいられる場所がここだった
鳥取県が誇る、ブランドスイカ『倉吉すいか』を作り始めて、4年目となる川瀬悠さんもまた、農業経験ゼロから始めたスイカ生産者です。前職は大手自動車部品メーカーのエンジニア。時に億単位のお金を動かすようなプロジェクトの主要メンバーでした。
やりがいのある仕事で充実していた毎日でしたが、次第に次の人生を真剣に考えるように。40歳までに仕事も生きる場所もすべてリセットしようと、移住先を探し始めます。神奈川以西の全県を周り、ここだ!と心が動いたのが鳥取県でした。
「とにかく視界が広い!目の前に遮るものが何もないんです。広々とした空と山と畑。この景色がこれまでの自分の心をすべて浄化してくれた感じでした」と川瀬さんは振り返ります。
移住に向け、大阪と東京で2カ月に一度、鳥取県の(公財)ふるさと鳥取県定住機構が主催する移住相談会「鳥取来楽暮(こらぼ)カフェ」に通い、先輩移住者に仕事や生活について直接話を聞いて情報を収集。ここでスイカ生産者と出会い、『倉吉すいか』に魅力を感じ、就農を決意します。「単価も高いので、収入面の不安もなさそうでしたし、短期集中型の栽培が凝り性で熱中してガス欠を起こしやすい私に合っていると思いました」(川瀬さん)
2018年6月から農業大学校のアグリチャレンジ科で4カ月間農業の基礎を学び、10月から5カ月間、スイカ農家でアルバイトを経験。翌年2月から2年間、『アグリスタート研修』に参加し、スイカ栽培の技術や経営のノウハウなどを学んだ後に独立。45アールの畑を借りて生産をスタートします。
しかし1年目の収穫直前に豪雨被害に。為す術もなく、4L以上に仕上げた100玉を越えるスイカが水に浮いてしまい出荷できなかったと言います。
「今年で就農して4年目ですが、今までで一番ショックでしたね。ただ、こうした経験を経たからか、昨年、99%の高い収穫率を上げることができて大きな自信になりました」(川瀬さん)
たった1人で縁もゆかりもない鳥取県にやってきて農業を始めた川瀬さん。この4年間で寂しさや不安を感じたことは一度もないと語ります。「農業大学校での研修中に、西瓜生産部会の部会長が倉吉青壮年部の管理する畑の収穫に誘ってくれたり、先輩農家の皆さんが惜しみなく情報交換をしてくれるなど、新規就農者を生産部会全体で支えていこうとしてくれています。農家同士の様々な集まりがあり、同年代の飲み仲間もでき、つながりは広がる一方。みんなで協力していこうという風土が根付いていると思います」と、笑顔で語る川瀬さん。
「新たなチャレンジとしては、『極実(ごくみ)西瓜』(倉吉すいかオリジナルブランド)を手がけることです。限られた農家だけでしか生産できない、まさに究極のスイカです。もちろん手間もかかりますが、スイカ本来の味と食感を実感できます。あとは100歳まで続けること。100歳の時に「スイカ仙人のスイカ」として売り出すことが目標ですね」。日に焼けた顔をクシャクシャにして笑う川瀬さん。この地でのスイカ栽培に、人生で最大の生き甲斐を感じていることが伝わってきました。
『鳥取県で農業をしよう!第2回とっとり農業人フェア』を11月2日(土)に開催
鳥取県で新規就農を考えている方に向けて、県内各地の生産組織や関係機関、団体などが集まり、就農に関わるさまざまな情報を提供する場が「とっとり農業人フェア」です。今回は2回目となり、11月2日(土)『エースパック未来中心』にて開催されます。
会場には、1.産地・市町村PRブース 2.就農支援ブース 3.雇用紹介ブース 4.移住・定住相談ブースの4つのブースを設置。産地・市町村ブースでは、県内各産地の生産者や市町村の担当者などが対応にあたります。また、セミナーでは本記事でも紹介している『大栄西瓜』生産者の秋山さんと『倉吉すいか』生産者の川瀬さんが登壇。就農者の生の声を聞くことで、鳥取県での就農の具体的な道筋が見えてくるはずです。
「移住して就農したいと思っても、すぐに始められるわけではありません。しっかりと研修を受ける必要があります。だからこそ、ぼんやりとでもやってみたいなあと思った段階でイベントに参加して、相談することが大切だと思います」と語るのは秋山さん。
一方の川瀬さんは「脱サラの場合は、初期コストなどがハードルとなり一歩踏み出せないという方が多いかもしれません。ただ、今は補助金制度が充実しているので、想像しているより農業を始めやすくなっています。農業はサラリーマンとは違って、頑張れば頑張った分ダイレクトに収入に繋がるところもやりがいになっています。百聞は一見にしかず。現地に来て、見て、話を聞くことをお薦めします」。
記事に関するお問い合わせ
鳥取県農業経営・就農支援センター
(鳥取県農林水産部農業振興局経営支援課内)
TEL:0857-26-7388(担当:前田・橋本・糸原)
E-mail:keieishien@pref.tottori.lg.jp
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