かつて厚意で下げた地代。見直すよう相談も拒否

水田の地代についてご相談を失礼します。数年前に2haの水田をAさんへ貸すこととなり、借地権の賃料(地代)として、お米を現物でいただく契約を結びました。数年前、米価が下がった際に地代に関する相談をAさんから受け、厚意で地代を少し下げた経緯があります。最近、昨年からの高米価を受けて地代を見直すよう値上げの相談をしましたが、拒否され交渉が難航しています。私としては昨今の高米価に伴う正当な要求をしているつもりですが、どう話し合いを進めるべきか、また値上げに応じてもらえない場合にどう対処すべきかご意見をいただけますと幸いです。なお、賃料を一定期間増加しないというような内容の約束はしていません。
弁護士の見解「まずは農地法に基づく賃料の増額請求を」
農地法に基づく賃料の増額請求をしたうえで、再度の話し合いを行うことが考えられ、それでも話し合いが成立しない場合は、裁判所に賃料の増額を求めて提訴することが可能です。
1 農地法による増額請求
農地法では、一定の期間借賃等の額を増加しない旨の特約がある場合を除いて、賃料の額が農産物の価格若しくは生産費の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により又は近傍類似の農地の借賃等の額に比較して不相当となったときは、当事者は将来に向かって賃料の増減を請求することができるものとされています。
従って、本事例においても、上記の要件を満たす場合は、ご質問者様が相手方に地代の増額請求(以下「増額請求」といいます。)をすることによって、請求をした日以後の地代について、ご質問者様が定めた新たな金額に一方的に変更することができることとなります。
増額請求を受けた相手方としては、①増額請求を受け入れるか、②増額請求を受け入れず、あくまで自己が相当と認める額(例えば従前の地代と同じ金額)を支払い続けるかの2つの対応を選択することができます。後者を選んだ場合、のちに増額を正当とする裁判が確定したときは、既に支払った金額と裁判で認められた金額との間の不足額について、年10%の割合による利息を付したうえで、不足分の全額を支払わなければならないものとされます。従って、相手方としては、年10%の割合による利息の支払いというリスクを考慮しながら、①または②のどちらを選択するかを検討しなければならないこととなります。
以上をふまえると、本事例においても、上記の要件を満たすと考えられる場合には、ご質問者様が増額請求を行ったうえで、再度話し合いを行うという方法を行うことが考えられます。増額請求を行うことによって、相手方には上記のリスクがあることから、場合によっては増額請求を受諾し、和解が成立するということもありえるものと考えられます。増額請求を行っても、相手方が増額に応じない場合には、最終的には、賃料増額を求めて民事裁判を提起することとなります。
2 話し合いによる紛争解決を手助けする制度
上記の制度とは別に、農地に関する紛争について、話し合いによる紛争解決を手助けする制度として、下記の二種類の方法があります。
①農地法に基づいて農業委員会又は一定の例外的場合に都道府県知事に対して、和解仲介の申立てを行う
②民事調停法に基づいて地方裁判所に農事調停を申し立てる
まず、農地法に基づく和解の仲介は、手続きが簡易であり、費用が必要でなく、例外的場合を除いて手続きを主宰する仲介委員が地域の実情に通じている農業委員であるため、紛争の解決に向かいやすいというメリットがあります。一方で、当該制度のデメリットとしては、農業委員会が設置されていない市町村ではこの制度を利用することができない、この制度で和解が成立しても、確定した判決のような効力はなく、成立した和解が守られない場合は、再度和解の内容を履行するように裁判を申し立てる必要があるという点が存在します。
次に、農事調停については、一定の費用がかかるものの、農事調停で調停が成立した場合、確定した判決と同じ効力を有することとなるため、相手方が成立した調停の内容を履行しない場合、強制的に相手方に成立した調停の内容を履行させるなどの強制執行を申し立てることができるというメリットを有しています。一方で、農事調停では、法令上、調停を行う場合には、小作主事等の意見を聞かなければならいとされていたり、必要に応じて農業委員会の意見を聞くことができるとされているものの、必ずしも農業に詳しい者が手続を主宰するわけではありません。そのため、地域の実情に応じた紛争の解決は、場合によっては難しい場合もあると言えます。
本事案のポイントを整理「農事調停などの制度活用も視野に」
✅一定の場合には、農地法に基づいて賃料の増額を一方的に請求することができる。仮に増額請求を行っても相手方がこれを受諾しない場合には、賃料の増額を求めて裁判を提起することができる。
✅話し合いによる紛争解決を手助けする制度として、農業委員会等による和解の仲介と農事調停という2つの制度が存在する。
弁護士プロフィール
杉本隼与
2003年早稲田大学法学部卒業。2006年に旧司法試験合格(第61期)
2016年東京理科大学イノベーション研究科知的財産戦略専攻卒業 知的財産修士(MIP)
同年に銀座パートナーズ法律事務所を開設し、現在に至る。
銀座パートナーズ法律事務所


















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