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コメ価格高騰で発生した産地と品種の下剋上

コメ価格高騰で発生した産地と品種の下剋上

令和6年産米は、いわゆる「令和のコメ騒動」で、年間を通じて価格が高騰していった。しかし、そのなかで産地・品種銘柄別の価格差が小さくなったり、序列が逆転したことはあまり認識されていない。ここではその変化から、今後の品種選定を考えるヒントを考えたい。

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コメ価格の下剋上

下剋上(げこくじょう)という言葉がある。「下剋上」とは、戦国時代などに家臣が実力で主君を倒し、その地位を奪うことである。そこから転じて、現代では「下位にいたものが上位と入れ替わること」を指す言葉として使われる。

さて、ここで令和のコメ騒動である。令和6年産米は、出来秋から価格が上昇を続け、年明けには、米の店頭売価の平均が4000円/5kgを超え、前年比で2倍程度になった。当然ながら、店頭の価格上昇の裏側では、業者間のコメの取引価格も上昇していった。下のグラフは、農水省が調査・発表している米の相対取引価格(一定以上の規模の集荷業者と卸売業者間のコメの1俵あたりの取引価格)の全国平均値である。2024年9月22,700円/俵だった相対取引価格は、2025年8月には27,179円/俵まで上昇した。

ただ、この相対取引価格を産地・品種銘柄別に見ると「下剋上」が存在しているのである。以下の表は、一部の産地・品種銘柄における農水省の相対取引価格のR6年産とR5年産の平均価格である。

出典:農林水産省 米の相対取引価格

 

例えば、コシヒカリに注目すると、R5年産では最も価格が高いのは新潟県産(16,927円)であったが、R6年では最も価格が低くなっている。また、R5年は山形県のつや姫(18,745円)の方が、北海道のゆめぴりか(16,452円)よりも価格が高かったが、R6年では逆転している。
加えて価格が逆転していなくても、価格差が大きく縮まっていることにも注目したい。例えば、山形県産のつや姫と生え抜きの価格差は、R5年では4,000円程度あったが、R6年では2,000円程度まで縮小している。
なお、茨城県のにじのきらめきは、R5年のデータはないものの、R6年の相対取引価格は秋田県のあきたこまちよりも高かった。
こうした産地・品種銘柄の価格の下剋上が発生した要因は、コメが不足したため、卸売業者などが自社で必要な量が集められず、「米であれば、どのようなものでも集める」という姿勢になったことで、産地・品種銘柄に関係なく買い集めていったことであると考えられる。

産地・品種銘柄という視点では、消費者の動向にも注目したい。令和のコメ騒動において、備蓄米が放出された。競争入札で放出された備蓄米の多くは複数の銘柄や産地を混ぜ合わせた複数原料米、いわゆる「ブレンド米」として販売され、随意契約の備蓄米は生産年度だけを公表する形で、産地・品種銘柄を出さずに販売された。つまり、両方とも産地と品種が分からずとも、消費者は購入するしかなかった。さらに米価が高騰したことで、いつも購入している産地・品種銘柄以外の安価な銘柄を購入した消費者も少なくなかっただろう。こうした一連の動きから、消費者においても「産地・品種銘柄」へのこだわりが弱くなった可能性がある。

今後のコメの売買動向の予想

令和7年産米は、集荷競争の激化の影響で、全国で1俵30,000円を超える相場となっている。しかし、この相場が今後も継続的に続くとは考えにくい。30,000円/俵を超える相場のR7年産の新米の小売店における店頭価格は税込で5kgあたり4,500円を超えており、店頭価格が3,500円/5kg程度である高関税を払って輸入される台湾の米やアメリカ産カルローズと200円/kgの価格差が出てきているためだ。実際に海外の米の民間による輸入量は増加している。つまり、生産者からの買取価格の相場が30,000円/俵以上となると、輸入米との価格差が拡大し、輸入米のシェアを増やしてしまう可能性があるのである。

とはいえ、生産原価も大きく上昇している今、R4年~5年のような1万数千円/俵の相場では生産者が稲作を継続できないこと、令和のコメ騒動によって、コメの重要性の消費者理解が進んだことから、今後は平均すると20,000~25,000円/俵程度の価格相場が形成される可能性がある。これくらいの生産者からの買取価格であると、店頭価格としては3,500円/5kgとなり、単純に価格のみで輸入米のシェアが増えることにも対抗できる。また、リーズナブルに買える国産米を求める消費者のニーズは非常に強いため、消費者の品種の認知は低いものの、多収で食味が良い品種などは日常使いのコメとして重宝される可能性があり、相場の底上げも期待できる。
このとき、産地・品種銘柄によって価格差は出るだろうが、多収米や新品種であっても、20,000円/俵以上の価格で取引されるような状況になっていけば、生産者の品種選定の選択肢は広がるだろう。

コメの品種選定をどのように考えるべきか

こうした状況の中で、コメの生産者はどのように品種を考えていくべきだろうか?
今までの経営では品種の収量と販売価格の見込み、作業時期の分散などの視点で品種を一度選定すると、基本的に品種別の価格差が変わらないことから、毎年、ほぼ同じ品種構成とする生産者も少なくなかっただろう。しかし、夏場の気温が高温になるなどの気候変動が激しく収量の安定化が難しかったり、産地・品種銘柄による価格の差が縮小したり、下剋上したりする中では、利益を最大化するための自分の稲作経営のスタイルを考える場合、品種の選定は非常に重要な役割を果たす。例えば、ブランド米として地元で推奨されているコメよりも、1俵あたりの単価は低いものの、多収で高温に強い別の品種を生産した方が全体として安定的に高収益をあげることができる、ということである。とりわけ販売先や契約先が外食等の業務向けの場合、消費者に提供する時に産地・品種銘柄を謳わないケースも多く、顧客側からの品種の縛りは弱い傾向にある。

よって、品種選定の切り口としては、①高温耐性の高い品種・対倒伏性の高い品種など、環境リスクを低減できる品種、②乾田直播などの技術との親和性の高い品種、③単収が高い品種(多収品種)、④販売先・営業戦略的に攻めていく業界に合わせた品種、などがあげられる。これからの稲作経営を考えていくうえでは、今までの産地・品種銘柄のイメージや、それぞれの品種のヒエラルキーを一旦リセットしたうえで、自分の目指す農業経営のスタイルや顧客のニーズに合わせて柔軟に品種選定を行っていくことが重要になるだろう。

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