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手取り月50万円で内部留保は年2500万円超 1人稲作の強みをフルで発揮

吉田 忠則

ライター:

手取り月50万円で内部留保は年2500万円超 1人稲作の強みをフルで発揮

従業員を雇う法人経営と、1人でやる個人経営のどちらが有利か。この問いへの答えは、どんな営農の形を理想とするかで違ってくる。千葉県柏市で稲作を営む吉田竜也(よしだ・たつや)さんが選んだのは後者。効率化をとことん追求し、月50万円の所得と年2500万円を超す内部留保を実現した。

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2025年は手取りを10万円アップ

吉田さんの実家は代々の農家。いったん外で働いた後、父親の後を継いで2013年に就農した。当時の面積は15ヘクタール程度だった。

近隣の高齢農家の引退などに伴い、現在は約22ヘクタールに拡大した。100ヘクタールを超す農場と比べると小さく感じるかもしれないが、1人でこなす面積としてはかなり大規模の部類に入る。今後も拡大を見込んでいる。

収穫したコメのほとんどは農協に出荷している。地元の農協は大学や企業の食堂などの販路開拓に力を入れており、安定した米価を農家に約束してきた。ほかに「吉田農場」の名前で独自販売している分も一部ある。

「吉田農場」の名前で売っているコメ

米価が上がる前から、月40万円の所得を実現していた。効率化をとことん追求した成果だ。米価上昇を受け、2025年は手取りをさらに10万円増やした。「頑張った分、給料を増やそう」と思ったという。

ここで吉田さんが「給料」という言葉を使ったのは、法人化はしていないが、家計と営農の収支を分けて管理しているからだ。売り上げや経費、利益を正確に把握し、資金管理することを就農時から心がけてきた。

2025年は売り上げから種代などの経費や自分の手取りを引いても、なお2500万円を超す金額が手元に残る見通しだ。企業の内部留保に相当する資金だ。このお金は設備投資や不測の事態に備えて蓄えておく。

従業員を雇用して、法人化することは念頭にない。だが企業会計と同様、「どんぶり勘定」にしないことが、営農に不可欠と考えている。

小数点以下2位で単収管理

データに対する吉田さんの考えを、単収をもとに見てみよう。例えば周囲の農家が「今年の単収は1俵半くらい(1俵=60キロ)」と話すのを聞くと、「それで在庫管理ができるんだろうか」と疑問に思うという。

これに対し、吉田さんは俵で数えて小数点2位までを単収計算の対象にする。具体的には、2025年は24年より「0.48俵」多くとれた。栽培面積が20ヘクタールにもなると、この差は収益を大きく左右する。

作業効率に関する考えにも触れておこう。吉田さんは「草刈りは危険な仕事だ」と強調する。ケガのリスクを指しているわけではない。

データによる経営分析に力を入れている

「草を刈ったばかりのきれいな田んぼが目の前にあり、草のさわやかな香りが辺りに漂っている。おれ今日1日いい汗をかいて、いい事をしたという気分になる」。それで満足してはいけないと自分を戒める。

そもそも草刈りは、景観が美しくなるまで徹底しなくても、稲の生育に影響しない。それでも草刈りをやりたがる農家が多い理由について、吉田さんは「やりたくない仕事はつい後回しにしがちになる」と話す。

除草と比べると、乾燥機などライスセンターの掃除はあまり楽しくはない。ただそうした地味な仕事を怠ると、虫やネズミが発生するリスクが高まる。データ分析も同様で、根気の要る作業だがやらなければ経営に響く。

こまめな水管理も大切だ。水が張っているかどうかを見て終わりにするのではなく、田んぼの地面のわずかな高低差の影響で水が足りていない部分がないかをチェックする。その積み重ねで、単収が変わってくる。

育苗が田植えのスピードを左右する

「オーソドックスで基本的な技術こそが大事だとますます思うようになった」。吉田さんはそう語る。その例として育苗を挙げる。

健康な苗をつくれば、稲がその後順調に育つという意味もあるが、狙いはそれだけではない。田植えの効率が違ってくるのだ。

苗がしっかり育っていないと、育苗マットから田植え機の爪で苗をかき取るのがうまくいかないことがある。そのまま田植えを続けると、苗が田んぼにきちんと植わらず、水面に浮かんでしまったりする。

作業効率を追求している

爪がマットから苗をかき取る速度を落とせば、植え付けの失敗を減らすことができる。そのためには、田植え機をゆっくり走らせることが必要。田植え機の走行速度と爪が動くスピードが連動しているからだ。

吉田さんが育苗を重視するわけがこれで理解できるだろう。地域の稲作の担い手として、近い将来30ヘクタール、いずれ40ヘクタールになることを視野にいれている。そのためには作業の効率化が不可欠なのだ。

ケガや病気のリスクを抑える

最後に1人で農業をやる際のリスクについても触れておこう。吉田さんは妻と2人の子どもと暮らしているが、農作業をするのは自分だけ。もし病気やケガで作業ができなくなれば、その時点で栽培はストップする。

このリスクにどう備えているのだろう。そう聞くと、吉田さんはまず収入保険に加入していることを挙げた。病気やケガで収入が減った場合も補償対象になるので、1年程度作業を休むだけなら保険金でカバーできる。

だが何より重視しているのは健康管理。健康診断は当然毎年受けており、いまのところ何の問題もない状態。食事にも気を使っており、太りすぎたり痩せすぎたりしないように体重をコントロールしている。

1人で農業をやっていると聞くと、自由気ままに働いているとイメージする人がいるかもしれない。確かに自由がきく側面はあるが、大切なのは緻密な営農の設計と健康管理。それが安定した収入を支えている。

健康管理に気を配っている

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