深刻な農業被害をもたらすムクドリの生態と習性

黒い頭とオレンジ色の嘴が目立つムクドリ。日本全国に分布し、一年を通じて姿が見られるなじみ深い鳥です。単体で見ればかわいいのですが、群れになるととんでもなく厄介な彼ら。ムクドリの防除をより効果的にするために、まずは生態と習性を見ていきましょう。
スズメより大きくハトより小さいサイズ感
ムクドリの全長は約24cmほどで、ぱっと見の印象は「スズメより大きくハトより小さい」という感じです。よく間違えられる鳥にヒヨドリがいますが、ヒヨドリよりもムクドリの方がシュッとしていて、全体的に黒っぽいのが特徴です。
雑食性で特に果実が好き
ムクドリは雑食性で、昆虫やミミズ、果実、草の実などを好んで食べます。春から秋にかけてサクランボ、桃、梨、ブドウ、柿などが被害にあっており、ムクドリによる農業被害は、量・面積・金額ともに80%以上を果樹が占めています。
柑橘類(ショ糖が多い果物)は苦手
果樹といえば柑橘類も襲われそうなものですが、意外にムクドリは柑橘類を好みません。その理由は、柑橘類に多く含まれるショ糖を分解する酵素を持っていないから。このため、柑橘の匂いを忌避剤として使用するのも一定の効果があると言われています。
春から夏にかけてが繁殖期。約35日で巣立つ!
ムクドリの繁殖期は3月から7月頃。一夫一妻制で、繁殖の時期は樹木の穴や民家の戸袋の隙間などに巣をつくります。平均4~7個の卵を産み、孵化するのに約12日、孵化してから巣立ちまで約23日。一カ月余りで飛べるようになるのだから大群にもなるはずです。
規模の大きい「夏ねぐら」と小さい「冬ねぐら」がある
繁殖時期が終わると、市街地やその周辺の林などに「夏ねぐら」と呼ばれる、数百から時には数万にもなる大きな群れのねぐらを形成します。夏ねぐらは10月半ば頃にはなくなり、代わりに規模が小さな「冬ねぐら」が周囲にたくさんつくられます。
夏と冬でねぐらの場所とその規模が変化するのは、春から夏に生まれた若鳥の成長、気候やそれに伴うエサの減少などによるものだと考えられますが、近年では気候の変化もあってか、通年ねぐらが形成されている例も報告されています。
農地に限らず都心でも!ムクドリによる主な被害

果樹の多い地域で農業被害の主な原因の一つになっているムクドリですが、全体的な数字でみると1996年以降は被害面積、被害量ともに減少傾向にあります。
一方、都心部ではムクドリが増えており、最近では駅前の街路樹などにねぐらを作った大群の鳴き声による騒音被害や糞害がニュースで報じられることが増えてきました。
ここでは近年のムクドリの被害傾向を見てみましょう。
農地では金額・面積ともに果樹の被害が圧倒的

出典:農林水産省
上のグラフは、平成19年から令和4年にかけてのムクドリによる農作物被害金額の推移です。このグラフには載っていませんが、2001(平成13)年の被害金額は約9億円だったそうです。その後徐々に被害金額や面積などが減少し、近年では被害金額は約2億円前後で横ばいになっています。
また、下のグラフは令和4年度における被害金額、被害量、被害面積の内訳です。80%以上が果樹であり、次いで野菜。その他はごくわずかなのが分かります。
都市部では騒音や悪臭による生活被害が増加
農地の被害が縮小している一方で、都市部に大きな群れがねぐらを形成し、鳴き声や糞による悪臭、家屋の汚染などの被害が増えています。
この背景には、夜でも明るく人通りが多いため、外敵である猛禽類や蛇などが寄り付かないという理由があるようです。また、近年、都市部からカラスが減ったことも市街地でムクドリが増えた一因だと言われています。
人との距離が近く「怖がらない」のも防除しにくい原因
ムクドリに限ったことではありませんが、昔から「人里にいた鳥」たちは人慣れしており、人間をあまり怖がりません。また、住処が人の住む場所と被っていることが多く、このことも防除がしにくい原因となっています。
例えば、イノシシやシカはもともと人と生息域が違うので「追い払えば安全な山へ逃げていく」のですが、鳥類で街中にねぐらがあると、「追い払っても家に帰ってくる」のです。
こうした前提も踏まえて、撃退や防除を考えなくてはいけません。
農地を守る! ムクドリの撃退・防除対策

生態や被害について一通り考察したところで、撃退・防除について解説します。前述したように、「人慣れしている」ということは人間が持ち出す見慣れないものにもすぐ慣れてしまうということです。このため、基本は複数の方法を組み合わせた対策が有効となります。
防鳥ネットで物理的に遮断する
鳥類の防除で最も確実なのは防鳥ネットです。物理的な遮断には「慣れ」や「警戒心」は関係なく、一度設置すれば半永久的にムクドリから果樹を守ることが可能です。ただし、コストがかかるのがネックとなることが多く、被害とコストのバランスを考えることが大切です。
防鳥ネットを張る際のポイント1.ムクドリがすり抜けられないサイズの網目を選ぶ 2.地面との間もしっかり塞ぐ 3.果樹とネットは離して設置する |
ねぐらができる前に音や光で追い払う
ムクドリで厄介なのは、なんといっても「群れで農地に飛来すること」です。光や爆音機で脅かして追い払うという手段も最初のうちは有効ですが、すぐに慣れてしまうことが多いようです。
そこで、音や光を使うなら「ねぐらが形成される前」が鉄則。近くにねぐらになりそうな大木や笹薮などがあったら、可能な範囲で伐採し、大きな音や不規則な光で巣の形成を防ぎましょう。「居心地が悪い」「危険な音がする」と判断すれば、他の場所へ移動する可能性が高まります。
天敵を利用して追い払う

タカやカラス、フクロウなどはムクドリの天敵です。この習性を利用して、タカでの追い払いを請け負う会社もあります。
こちらも、導入する場合は巣の形成前が効果的。ただし、一度では効果が薄いため何度か飛ばす必要があること、訓練された本物のタカを飛ばすことなどからそれなりにコストもかかります。追い払いの効果を享受できる範囲の近隣農家同士で依頼できればベストです。
柑橘やハッカの匂いで追い払う
「ムクドリはショ糖を多く含む柑橘類が苦手」という話をしましたが、それを利用した忌避剤は一定の効果が見られます。柑橘のほか、ハッカの匂いも苦手なため、これらの匂いがするスプレーを果樹の枝に吹き付けておきます。
ただし、効果はあくまで一時的。数日から一週間ごとに散布が必要ですし、慣れてしまう個体も出てくる可能性があります。複合的に使用する対策の一つと考えておきましょう。
【効果を持続させるには】複数使用か期間を短くが鉄則
ムクドリを含む野鳥は、見慣れないものに対する警戒心が強い一方で慣れも早いもの。音や光、タカの剥製、目玉風船などは最初こそ警戒するものの、危険がないと判断されるとほとんどといっていいほど効果がなくなります。
そこで、ムクドリ対策をする際は複数の方法を織り交ぜて、とにかく「慣れさせない」こと。また、被害が酷いときにだけ音や光、目玉風船などを使用し、被害が収まったり、収穫を終えて追い払いの必要がなくなった時はすぐに撤収することも慣れさせないために有効です。
ムクドリは勝手に捕獲・駆除できない?現役猟師が教える法律の壁

ムクドリを自分で捕獲・駆除できたら……と考える人もいるかもしれません。ムクドリ対策の前に知っておきたい法律についても押さえておきましょう。
「鳥獣保護管理法」の原則と罰則
結論からいうと、ムクドリの捕獲・駆除は原則不可です。鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)によって野生鳥獣の捕獲は禁止されており、もちろんこの中にはムクドリも含まれます。
違反してムクドリを捕獲した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されるので注意しましょう。
「狩猟」と「許可捕獲」なら駆除できる
ムクドリは2026年4月現在、46種類の狩猟鳥獣に含まれているため、狩猟登録をすれば猟期内に限り捕獲が可能です。では、狩猟免許がない場合はどうしようもないのかといえば、「許可捕獲」という方法があります。
これは、農林業に被害がある、もしくは被害が起きる可能性がある場合に、狩猟免許がなくても猟期じゃなくても捕獲できるというもの。条件は自治体によってさまざまなので、まずは住んでいる地域の農政課などに確認してみましょう。
卵やヒナも基本的に採取はNG
ちなみに、卵やヒナなら採取や駆除をしてもいいのかといえば、こちらもNG。それどころか、卵とヒナに関しては、狩猟でも採ってはいけないことになっています。
卵を採っていいとすれば「許可捕獲」のみ。農業被害を減らすための駆除をするなら、許可捕獲の申請がもっとも効率的でしょう。
ムクドリを駆除するなら「網猟」が効果的!
狩猟免許には第一種銃猟(装薬銃)、第二種銃猟(空気銃)、わな、網がありますが、ムクドリの駆除に適しているのは網猟です。
狩猟免許がなくても駆除ができる許可捕獲ですが、猟具が特殊な場合はやはりその猟具に即した狩猟免許が求められるので、もしムクドリの許可捕獲を考えているのなら、網猟免許を取得するのをおすすめします。
猟期は果樹の被害がおきる時期やムクドリの繁殖期とずれていることが多いので、被害が多い時期に捕獲ができません。許可捕獲で網が使えれば、被害が起きている時期、あるいはその前に捕獲が可能です。
なお、許可捕獲で可能な「卵の採取」に関しては狩猟免許が不要なので、免許取得に時間がかかる人やそこまではできないという人は、まず許可捕獲で繁殖期の卵を根絶することから始めてもいいかもしれません。
ムクドリに関してよくある質問
最後にムクドリに関するよくある質問をまとめました。
Q1.ムクドリは渡り鳥?
ムクドリは日本のほとんどの地域で留鳥(一年中いる鳥)です。福島以北では夏に飛来する「夏鳥」とされていますが、近年では北海道でも越冬する個体が増えており、全国的に留鳥になってきています。
Q2.ムクドリが戸袋に巣を作っているようだけど撤去していい?
A.巣の撤去は、鳥獣管理法によって、「中に卵・あるいはヒナがいるか」で可否が変わります。卵やヒナが巣の中にあれば、撤去はNG。営巣を始めたタイミングや巣立ちのあとなら撤去してOKです。
ただ、産卵してしまうと、巣立ちまでの間に糞やダニなどによって生活環境が侵されることがあるので、もしも家にムクドリが巣を作ろうとしていたら速やかに撤去するのをおすすめします。
Q3.自治体に駆除の依頼はできる?
A.ムクドリの対策については全国的に抜本的な解決策が見つかっておらず、また鳥獣管理法の規制もあることから、多くの自治体では駆除はしておらず、樹木の剪定によるねぐら形成の防止や糞の清掃にとどまっているようです。
お金はかかりますが、許可捕獲をしない場合は専門業者に依頼するのがいいでしょう。
Q4.猟友会に駆除の依頼はできる?
A.地域により、猟友会がムクドリの駆除をしてくれる場合もあります。特に被害が酷い地域では自治体と連携して駆除や追い払いをしていることがあるので、自治体経由で相談してみるのはあり。
もしくは、猟友会に限らず、網猟をしているハンターがいたら個別に頼んでみるのもおすすめです。
まとめ
近年、被害は減ってきているとされているムクドリですが、大群で飛来することや人慣れの早さから、有害鳥獣としての難易度はかなり高い野鳥です。
目の届く範囲なら、まずは嫌がる匂いや音で寄せ付けないこと。広範囲を守るのなら、ねぐらを作らせないことがとにかく大事。それでも果樹園や畑に来てしまったら、許可捕獲も視野に入れるのが近道です。大事な果樹が荒らされる前に、できることから手を打ちましょう。















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