公式SNS

マイナビ農業TOP > 農業ニュース > 【2025年度農業白書】1年でおよそ2倍──米価高騰の原因と今後の対策

【2025年度農業白書】1年でおよそ2倍──米価高騰の原因と今後の対策

相馬はじめ

ライター:

【2025年度農業白書】1年でおよそ2倍──米価高騰の原因と今後の対策

米の値段が大きく上がった2024〜2025年。2025(令和7)年度の農業白書は、この米価高騰を入り口に、適正な価格形成、鳥獣やクマの被害対策、不測時への備え、担い手不足への対応と、食料を安定して届ける仕組みの課題を取り上げた。いま日本の食と農に何が起きているのか。白書のポイントを、できるだけかみくだきながら整理する。

twitter twitter twitter twitter
URLをコピー

米はなぜ高くなった? 価格高騰の背景と、安定供給に向けた見直し

米はなぜ高くなった? 価格高騰の背景と、安定供給に向けた見直し

2024年夏頃から2025年にかけて、米の価格高騰は食卓を直撃し、「令和の米騒動」と呼ばれニュースでも繰り返し取り上げられた。2025年度の農業白書(食料・農業・農村の動向)は、この事態を特集として正面から取り上げ、何が起きていたのかを検証している。

高騰のはじまりは2024年の夏、新米が出回る前の端境期だ。例年民間在庫が減る時期だが、前年である2023年の米は高温障害の影響で例年以上に在庫が不足していた。そこへ、災害への備えをしたい消費者や、米不足の報道を受けた消費者の買い増しが重なり、店頭から米が消える場面も見られた。こうした品薄感を受けて、2025年5月の小売価格は前年同月のおよそ2倍にまで上がったのだ。

想定外の需要増と、歩留まり悪化による供給減

これまで主食用の米の需要は、人口減少とともに先細りしていくと見込まれてきた。ところが実際には、訪日客(インバウンド)の増加に加え、パンや麺類などと比べたときの値頃感から家庭での購入量が増加し、需要は回復傾向にある。それに加え、南海トラフ地震臨時情報の発表や台風発生があり、災害への備えや品薄への不安から買い増しが重なり、さらに需要が高まった。

そしてそこに高温障害による精米歩留まり率(玄米を精米して得られる白米の割合)の低下が重なった。2023年度産の米は暑さで品質が落ちて精米の際に砕ける米が多く、歩留まりが悪かった。そうすると、同じ量の白米をそろえるのにより多くの玄米が必要になる。収穫量ベースでは足りるはずだった米は食卓に届くまでの間に目減りし、需要を満たせる量ではなくなっていた。

そうして例年より高まった米の需要に対し、供給が不足したことで米価が高騰した。多くの人が米を買い求めたことで小売店の店先から米の在庫がなくなり、それによって米不足の報道がされ、それがさらに米需要を高めるという悪循環が起きたのだ。

民間在庫の減少が招いた流通現場の不安と高値取引

さらに、民間在庫(JAなどの集荷団体・業者、大手卸などが持つ米の在庫)の減少も高値取引に拍車をかけた。米は年に1回の収穫で得た量を、次の収穫まで1年かけて供給していく。ところが、需要量が生産量を上回る状況が続いたため、流通業者は手元のストックを取り崩して供給をつなぎ、在庫は想定以上に減っていった。

これにより流通の現場に不安が広がり、米の確保をめぐる集荷競争が強まった。卸売業者などは新たな調達ルートを開拓したり、スポット市場(その時の需給に応じて即時に直接取引を行う場)を通じて米を買い付けたりして、比較的高い価格で米を調達する動きが見られた。

国が着手した作況指数や需給見通しの見直し

白書は、農林水産省自身の需要見通しや流通実態の把握、そして市場関係者への情報発信や対話が十分でなかったことも、値上がりに拍車をかけた一因だったと振り返っている。

こうした検証を踏まえ、いくつかの見直しが始まっている。たとえば、実態とのズレが指摘された「作況指数」に替えて、近年の収量により近い基準で当年の出来を示す「作況単収指数」を公表するようになった。また、米を扱う事業者に定期的な在庫数量などの報告を求める仕組みや、政府備蓄を補う「民間備蓄」の導入など、食糧法の改正に向けた動きも進んでいる。

見直しの先にあるもの

今回の値上がりは、一時的な品薄というより「需要をどう読むか」や「在庫をどれだけ持つか」「流通の情報をどこまで見えるようにするか」という積み残しの課題を浮かび上がらせたともいえる。

米は、日本人にとってもっとも身近で重要な食品だ。これらの見直しがどんな結果につながっていくのかは、これからの作付けや流通の動きを追って、見守りたい。

適正価格を考える。資材高のなかで進む価格転嫁の新しい仕組み

適正価格を考える。資材高のなかで進む価格転嫁の新しい仕組み

生産に不可欠な資材の値上がりが続いていることも、見過ごせない課題のひとつだ。農業に欠かせない肥料や飼料、燃料などの価格が上がれば、生産・製造の経営コストはふくらむ。白書は、こうして増えたコストを最終的な商品の価格にきちんと反映(転嫁)できなければ、食料を安定して供給する土台そのものが揺らぎかねない、と指摘する。

納得感のある価格形成を目指す「食料システム法」

ただ、「とにかく値上げすればいい」という単純な話ではない。値段が上がるだけでは「なぜこの価格なのか」が見えないまま消費者の負担が増えるので、納得感に欠ける。
大切なのは、その値段に理由があると分かることだ。米や野菜が食卓に届くまでには、生産・流通・加工・小売と多くの人が関わり、それぞれの段階で費用がかかっている。その費用を誰からも見えるようにし、価格に納得しながら反映していく──こうした取り組みを後押しするために作られたのが、2025年6月に公布された「食料システム法」だ。

「コスト指標」と対象5品目

この法律では、対象となる食品を決めている。2026年1月に米穀、野菜、豆腐、納豆、飲用牛乳(成分無調整牛乳のみ)の5品目が選ばれた。
これらの品目では、生産や流通にどれだけ費用がかかっているかの目安として「コスト指標」を作る。ふだんの取引では見えにくい費用を数字で示すものだ。売り手と買い手が、何にいくらかかっているのかを確かめながら価格を話し合える。それがこの仕組みのねらいである。

フードGメンの配置や、広報活動による認知拡大

同時に、この仕組みを形だけのものにしないための動きも進められている。農林⽔産省と地⽅農政局などには、2025年10⽉から「フードGメン」が配置された。取引の実態調査を行い、必要に応じて指導や助言を行う専門職員である。
そのほかに、価格がどう決まるのかを消費者に伝える広報活動として「フェアプライスプロジェクト」も展開されている。自分で豆腐に値段をつけてみる「値段のない豆腐屋さん」のような企画は、ふだん何気なく手に取る食品の値段の裏側を考えるきっかけになる。

食料供給を左右する「適正価格」への理解

農産物や食品の価格転嫁は、消費者の家計に直接ひびく。しかし、生産にかかった費用が売値に反映されなければ、作って売る側に負担が偏り、生産自体ができなくなってしまう。食べものの「適正価格」は、売り手や買い手、消費者だけの問題ではなく、これからの食料供給全体を左右する論点だ。

鳥獣・クマ被害対策 農作物被害の増加と、深刻化するクマ被害

鳥獣・クマ被害対策|農作物被害の増加と、深刻化するクマ被害

鳥獣による農作物被害も、農村が抱える大きな課題として白書に取り上げられている。

188億円に膨らんだ農作物被害

2024年度の被害額は188億円で、前年度より24億円増加した。主な原因は、全国的なイノシシ被害の増加と、北海道を中心としたシカ被害の増加、そして九州を中心にヒヨドリの飛来数が増えたことによる鳥類の被害の増加である。また、これらの被害とは別に、クマによる人身被害が深刻さを増している。

過去最多の死者数となったクマ被害とその対策

2025年度のクマによる死者は過去最多の13人にのぼり、農村に限らず、人々の生活圏の安全そのものに関わる問題になった。

こうした事態を受けて、政府は関係省庁が連携する形で「クマ被害対策パッケージ」と「クマ被害対策ロードマップ」をまとめた。このうち農林水産省は、クマの捕獲単価を引き上げるほか、農業集落周辺に出没する個体の捕獲を強化する方針だ。
あわせて、農業従事者に対策を呼び掛け、クマを寄せつけない環境づくりを推し進めるとしている。具体的には、人里と山林の間の緩衝帯の設置や、田畑を守る頑丈な柵や二重の電気柵の整備、クマの誘引物となる生ゴミや放置された農作物の除去などを促している。

被害を抑えるため、捕獲の強化だけでなく、人と野生動物が適切な距離を保てる環境をどう築くかが重要な課題となっている。

地域の資源として生かす、ジビエ利用の拡大

一方で、捕獲した鳥獣を「地域の資源」として生かす動きも広がっている。2024年度にジビエとして利用されたのは、シカが12万8000頭、イノシシが4万頭にのぼった。ジビエの用途は外食店や小売、学校給食、ペットフードなどへと広がっており、消費者への直売だけでなく、飲食店や宿泊施設向けの販売量も増加している。

地域に合わせて組み合わせる鳥獣害対策

鳥獣被害への対応は、農作物を守る取り組みであると同時に、地域の安全や資源の活用にも関わるテーマだ。捕獲と防護、環境の整備、そしてジビエ利用を、それぞれの地域の事情に合わせてどう組み合わせていくかが、これからの現場の焦点になる。

不測時にどう備える? 海外依存のリスクと新たな供給対策

不測時にどう備える? 海外依存のリスクと新たな供給対策

気候変動や国際情勢の変化は、国内の農業生産にも影響をもたらす。日本は食料そのものだけでなく、食品の原材料や農業生産にかかる資材の多くも海外に頼っている。白書は、世界的に食料の生産が不安定になっていること、世界の食料需要が伸びていること、ウクライナや中東をめぐる情勢の緊迫などを背景に、いくつものリスクが現実のものになりつつあるとまとめている。

食料供給困難事態対策法の施行

こうした不測の事態に備えるために、2025年4月に施行されたのが「食料供給困難事態対策法」だ。食料の供給が大きく落ち込み、国民の暮らしや経済に支障が出る事態に備えておくための法律である。

対象となる「特定食料」と「特定資材」

この法律では、暮らしに欠かせない食料を「特定食料」、その生産に欠かせない資材を「特定資材」として国が指定している。

特定食料にあたるのは、米穀、小麦、大豆(食用含む)のほか、なたねや油やしの実、てんさい、さとうきび、生乳、牛肉・豚肉・鶏肉、鶏卵といった農林水産物と、小麦粉、植物油脂、砂糖、飲用牛乳・乳製品、液卵・粉卵などの加工品だ。これらを合わせると、国内の食料供給熱量のおよそ8割を占める。
一方、特定資材にあたるのは、肥料、農薬、種苗、飼料、動物用医薬品の5つだ。

指定された食料や資材は、国が平時から供給の状況を把握し、不測の事態には対策を集中させる対象になる。実際に供給不足の兆しが見えたときは、まず一定規模以上の事業者に出荷や輸入などによる供給の確保を要請する。それでも大幅な不足が解消できない場合に限り、出荷・販売などの計画の届出を指示する、という段階を踏んだ仕組みだ。

平時からの備え

そのうえで、平時のうちから国内の生産基盤を強くし、食料や資材の供給網(サプライチェーン)を保ち、備蓄を管理する。加えて、小麦や大豆のように国内の生産だけでは需要を満たしきれない食料や資材については、輸入国を分散させ、相手国との良好な関係を保つなどして、安定して輸入できる状態を整えておく。そうした普段からの備えを進める取り組みになっている。

国の制度と現場の工夫を重ねて

肥料や飼料、燃料の調達がうまくいかないと、農業経営が立ち行かない事態にもなりうる。海外依存への対策は、国の施策だけで完結する話ではない。国産資源の活用、備蓄、取引先の分散、地域の中での資源循環──こうした現場ごとの工夫と、国の施策とが重なり合うところに、不測時の備えの現実的な姿があるだろう。

担い手不足に向き合う。地域計画で描くこれからの農地利用

担い手不足に向き合う。地域計画で描くこれからの農地利用

農業の担い手不足は、これからの農業を考えるうえで中心となる課題のひとつだ。農業をなりわいにしている人(基幹的農業従事者)は減り続けていて、その多くを高齢の層が占め、農業を営む経営体(農家や農業法人など)の数も減少している。

初動5年間で集中的に進める農業の構造転換

白書には、改正された食料・農業・農村基本法と新しい食料・農業・農村基本計画にもとづいて、2025年からの5年間で農業の構造を集中的に変えていく方針が示されている。
具体的には、農地を大きな区画にまとめる、共同で使う施設を整理し直す、スマート農業の技術や新しい品種を開発して広める、といった取り組みを進める。限られた人手や農地、資材を生かして、生産を続けられる形をどう作るかが課題になる。

10年後の農地利用を描く「地域計画」

その土台になるのが「地域計画」だ。地域の農地を10年後に誰がどのように使っていくのか、その将来像を、農業者や関係機関などとの話し合いを踏まえて整理し、市町村が計画として取りまとめるものだ。2025年4月末の時点で、全国1615市町村、1万8894地区で地域計画が作られた。ただし、農地を将来の受け手にまとめる(集約する)道筋まで描けた計画は、まだ約1割にとどまる。
農地を引き受ける人が見つからない、話し合いをまとめる人がいない、地域の外に住む持ち主とどう連絡を取るか──地域によって、こうした問題が残っている。

農地を次へつなぐために

地域計画は、一度作って終わりではない。地域の話し合いを重ねながら、担い手の状況や農地の使われ方に合わせて見直し、描いた将来像を実際の農地利用へと近づけていくものだ。
その過程では、農地バンク(農地中間管理機構)を通じた農地の貸し借りや、区画整理・用排水施設の整備といった基盤整備、スマート農業の導入など、地域の課題に応じた手段を組み合わせていくことになる。地域によって事情は違うが、農地を次の担い手にどうつないでいくかが、これからの農業のあり方に関わってくる。

問い直される食料の届け方

問い直される、食料の届け方

2025年度の農業白書が描いたのは、食料を安定して届ける仕組みが、いくつもの場面で問い直されている姿だった。
米の価格高騰は、需要の読み方や在庫・流通情報のあり方という課題を浮かび上がらせた。資材高騰の中で、生産にかかった費用を価格に反映する「適正な価格形成」の仕組み作りが始まっている。鳥獣やクマの被害は、農作物だけでなく人の安全にも関わる問題として対策が進む。さらに、食料や資材の海外依存に対応する新しい法律や、担い手の減少を見据えた地域計画作りも動き出した。
これらに共通するのは、海外への依存、気候変動、人口減少といった、すぐには解けない問題が背景にあることだ。国は統計の見直しや法律の整備で備えを進めているが、その多くは始まったばかりで、効果が見えるのはこれからになる。食料を安定して届けられるかどうかは、こうした制度の行方と、作る人・食べる人それぞれが関わり合おうとすることで決まっていく。

参考:農林水産省「令和7年度 食料・農業・農村白書」

読者の声を投稿する

関連キーワード

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE
  • Hatena
  • URLをコピー

関連記事

新着記事

タイアップ企画