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栽培面積98%減からの復活。香川のうどん愛が結実した「さぬきの夢2023」開発の舞台裏

kawashima_reijiro

ライター:

栽培面積98%減からの復活。香川のうどん愛が結実した「さぬきの夢2023」開発の舞台裏

「さぬきうどんは香川の小麦で作りたい」。この思いから生まれたのが、香川県産小麦「さぬきの夢」だ。いまや香川県を代表するブランド小麦となった「さぬきの夢」だが、その誕生は決して偶然ではない。県、生産者、JA、製粉会社、うどん店、そして消費者。さぬきうどんを愛する多くの人たちの思いが積み重なった結果として生まれた品種である。

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香川県産小麦は消滅の危機に陥っていた

現在、香川県内では「さぬきの夢」の最新品種「さぬきの夢2023」への切り替えが進められている。「さぬきの夢」の生産振興・ブランド推進等を推進してきた香川県農業生産流通課主任の小林美鈴(こばやし・みすず)さんと、主任技師の中山綾乃(なかやま・あやの)さんに、その歩みと未来について聞いた。

香川県は日本一面積の小さい県であり、農地も一筆ごとの面積が小さい。一方で瀬戸内式気候に属しており温暖だが、降水量は少ない。そのため古くからため池を数多く整備し、水資源を確保してきた歴史がある。

「本県では、昔から麦は盛んに栽培されてきました。限られた農地を有効活用するため、水稲と小麦を組み合わせた米麦二毛作が広く行われています。野菜を組み合わせた複合経営も多く、本県農業の特徴の一つです」と中山さんは説明する。そんな香川県の小麦生産は一時、存亡の危機に直面した。

香川県の小麦作付面積と生産量の変遷。ピークとなるS37(1962年)から最低となった1973年産では98%も減少してしまった。

「香川県には古くからうどん文化があり、県民の日常食として親しまれてきました。ところが1963年、出穂期から続いた長雨により大不作が発生しました。その後、生産者の意欲も低下し、栽培面積は急減しました」

1973年産では、県内の小麦栽培面積はピーク時と比べて98%も減少したという。追い打ちをかけたのが、ASW(Australian Standard White※)の流通拡大だった。

「品質が安定していたこともあり、多くのうどん店が利用するようになりました」

さぬきうどんの本場でありながら、うどんの原料となる県産小麦が消えかけていたのである。
※オーストラリア産の小麦粉の銘柄

絶滅寸前からの大逆転!県民の声が生んだ香川県産小麦「さぬきの夢」

しかし、そこで終わらなかった。その原動力となったのは「さぬきうどんは香川の小麦で作りたい」という関係者の声だ。それを受けて1991年、香川県独自の小麦品種開発がスタート。2000年に初代「さぬきの夢2000」が誕生した。その後、「さぬきの夢2009」が育成され、現在は3代目となる最新品種「さぬきの夢2023」への切り替えが進められている。

品種開発は県が担ったが、製粉・製麺評価や普及にあたっては、実需者と共に歩んできた。うどん県民のうどん愛の強さの象徴、令和5年に設立された「さぬきの夢」推進協議会が、それを端的に表している。

「協議会を設立した目的は『さぬきの夢2023』の生産振興と利用、PRの方針を検討し、消費者・実需者からの評価を高めることにより、ブランドの普及を図ることです。生産現場だけでなく、実際に利用する側の声を聞きながら普及を進めることを重視しています」

県やJA、生産者代表に加え、製粉事業者、うどん業界、菓子メーカー、手延べそうめん事業者、ホテル関係者など、幅広い実需者が参加している。

「『さぬきの夢』はうどん用小麦として開発しましたが、現在は菓子や餃子、手延べそうめんなどにも利用が広がっています。そのため、さまざまな実需者の意見を取り入れています」

初代「さぬきの夢2000」開発の頃から、さぬきうどんとして使用されることを念頭に置いた食味試験、ライバルとなるASWとの製麺時の比較などを地道に続けてきた。

生産振興や利用方針について協議し、実需者評価なども共有する。県が一方的に開発した品種ではなく、使う人、食べる人たちの声を取り込みながら育ててきた品種なのである。

また、「さぬきの夢」取扱店登録制度も設けられており、県産小麦「さぬきの夢」を使用する店舗の登録を通じて、消費者への認知拡大も図っている。

現在普及が進む「さぬきの夢2023」は、「さぬきの夢2009」の後継品種として開発された。最大の特長は製麺適性の向上にある。

「一番の要因はタンパク質の質と量が向上したことです。うどんづくりで重要になるグルテンの質が改善されています」(中山さん)

中山さんによると、「さぬきの夢2009」には製麺時の課題もあったという。

「ひび割れたり、麺を持ち上げる時に切れたり、茹でた後に麺が延びやすかったりすることがありました。そこで『さぬきの夢2023』ではタンパク質含有率とグルテンの質を向上させることで、製麺しやすくなりました」

実需者からの評価も上々だ。

「うどん店からは『製麺しやすくなった』『コシがより強くなった』という評価をいただいています。弾力のあるコシとモチモチとした食感が楽しめるという声もあります」(中山さん)

2024年度には消費者約1000人を対象にアンケートも実施した。そこでは、色、形状、コシ、味、全体満足度のすべての項目で高い評価を得たという。
こうした努力の結果、現在の作付面積は「さぬきの夢」導入前の1999年と比較して4.2倍と、大きく増加した。

進化したさぬきの夢

「さぬきの夢2023」への切り替えは現在、一部地域で進んでおり、2026年播きで、「さぬきの夢2009」から全面切替が予定されている。小林さんが説明してくれた。

「栽培方法は『さぬきの夢2009』と大きく変わりません。これまでの技術や経験を生かして栽培できます」

播種は11月中旬。追肥は2月下旬から3月頃を基本とし、その年の生育状況を見ながら回数や施肥量を調整する。香川県では水稲後に小麦を作付けするケースが多く、湿害対策が重要になる。

排水性を高めるため、播種時に畝を立てる。

「播種前には荒おこしや額縁明渠を行い、播種時には畝立てをします。播種後も畝間に排水溝を設けるなど、排水対策を重視しています」

県内には湿田も多く、こうした管理は欠かせないという。収量については、「さぬきの夢2009」と比べて多収とまでは言い切れない、と小林さんは正直に教えてくれた。

香川県が行った生育調査(表1)と収量・品質調査(表2)の結果。穂数がやや少ないため収量も少ないものの、容積重・千粒重・タンパク質含有率ともに「さぬきの夢2023」が優れている。

「穂数が少ないため、『さぬきの夢2009』と同等か、場合によってはやや少なくなることもあります。ただ、その分粒が大きく品質が高いため、結果として収入向上が期待できるのです」

小林さんは、現場の期待の大きさを感じているという。

「十数年ぶりの新品種ですから、生産者の期待は大きいですね。『これまでの品種と同じように作れる』『倒伏しにくい』という声も聞いています」

一方で課題もある。それが地域や生産者ごとの品質のばらつきだ。

「『さぬきの夢2009』で見られた課題ですが、生産者や地域によってタンパク質含有率などに差が出ることがあります。施肥や播種時期によって品質に影響が出ることがあるのです。例えば肥料の量が不足したり、追肥のタイミングがずれると肥料の効果が不十分となり、タンパク質含有率が下がります。また播種時期が早すぎると生育が旺盛になりすぎ、一粒当たりのタンパク質含有率が低くなる場合があります」

そこで県普及センターとJAが連携し、播種前の講習会や巡回指導、個別相談を通じて品質向上を支援している。

また、「さぬきの夢2023」がゴールというわけでもない。

「品種開発にはDNAマーカーを活用しています。『さぬきの夢2023』でもグルテンを強くする遺伝子を選抜して育成しました。今後も品質や栽培特性に優れた品種の開発を続けていきます」(小林さん)

新品種が普及段階にある今、早くも次の「さぬきの夢」づくりがすでに始まっていた。

香川県民が皆で育てる小麦「さぬきの夢」

現在、「さぬきの夢2023」には供給量を上回る需要があるという。中山さんによると「使ってみたい!」という実需からの声が増えており、今後は需要に応えるための生産量の確保が重要になる。県としては、うどん用小麦としてのブランド価値を大切にしながら、菓子など幅広い用途への利用拡大も目指している。取材の最後、中山さんは「さぬきの夢」の本質についてこう語った。

「県だけが作った小麦ではないんです。生産者、製粉会社、うどん店などの実需者、消費者……生産から消費まで、関わる人たちみんなが『もっと良い小麦にしたい』と思って活動しています。県民の思いが全部詰まった小麦だと感じています」

小林さんも大きくうなずいた。
「使ってくれる、食べてくれる人がいてこそ、農業は成り立ちます。農家は良いものを作ろうと思って手をかけて努力しています。私達の思いを知り興味を持った方は、是非、本県にお越しください。そして美味しいさぬきうどんを召し上がってください」

さぬきうどんを愛する県民の思い。良い小麦を作りたい生産者の思い。使いやすい粉をうどん店に届けたい製粉会社の思い。そして「おいしいうどんを届けたい」といううどん店の思い。「さぬきの夢」は、そうした香川県民のうどん愛が結実した小麦である。

取材協力・図写真提供:香川県

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