四国最西端から1年365日みかんを届ける会社
愛媛県西宇和郡伊方町。ニュウズが耕作する自社園地は約15ヘクタール。過酷な斜度を持つ条件不利地ながら、ユニークかつ先進的な農業経営を展開しています。
その1つが、1月から年末にかけて極早生から始まる温州みかん、ポンカン、せとか、清見タンゴールなどへとバトンを繋ぐ「17品種リレー」です。1年365日、旬の柑橘が途切れることなく家庭に届く体制を構築。この品種リレーこそが、日本の農業界で常態化している「収穫期だけの季節雇用」から脱却し、スタッフの「年間を通じた安定雇用」を実現する土台となっています。

空から直接降り注ぐ太陽光、目の前の宇和海から眩しく反射する海からの光、そして段々畑を支える石垣が蓄えた輻射熱の「3つの太陽」によって育つみかん畑
販売面での強みは、市場を一切介さない独自の直接取引ルートです。同社の売上構成は、学校給食やスーパーなどの実需者と直接取引を行う「BtoB」が半分強。そして、ECサイトや自社選果場の2階に構える直営ショップなどを通じた「BtoC」が半分弱というバランス。市場価格の乱高下に左右されず、自分たちが育てたみかんを自ら値決めして適正価格で届けることができます。
接客や通販、直営ショップを通じて直接耳にする「顧客の声」が、ダイレクトに栽培現場や経営に反映される環境も、自社で販路を持つからこその強みです。
この品質管理は国内のみに留まりません。2020年には国際的な安全農業生産基準である「GLOBAL G.A.P.」認証を取得。あえて難易度の高い世界基準にこだわったのは「自分たちの農業を世界レベルの物差しで測りたかったから」。将来的な海外輸出も見据え、世界で対等にビジネスができるパスポートを持っておきたかったのも理由の一つであると、土居さんは語ります。
同社では2013年の台湾への海外輸出を皮切りに、2019年には台北市に海外初の実店舗をオープン(2026年に出店施設の撤退と共に閉店。現在は新店舗の候補地を検討中)。農薬検査基準が極めて厳しいとされる台湾において数値をクリアし、直接みかんを届け続けている事実は、同社の高い栽培技術と管理能力を証明しています。

ニュウズの柑橘や加工品が購入できる直売所「みかん専門店 南の果樹園ニュウズ」
「絶対に帰らない」と誓った農家の娘のUターン
大学のゼミが教えてくれたファミリービジネスの価値
元々、家業だった柑橘栽培を大きく「企業的経営」へと舵を切ったのは、土居さんの父であり前社長(現会長)の門田治満(かどた・はるみつ)さんでした。
1978年に前身となる「有限会社門久農園」を設立した門田さんは、1985年に「ただ作って農協へ出荷するだけの農業から、自ら経営する農業をしたい」と農協から独立。当時は農協への出荷が当たり前とされる時代でしたが、独自に産直通販や減農薬有機栽培の研究をスタートし、郵便局の「ゆうパック」などを活用した独自の販路を自らの足で開拓していきました。
「農業をただの労働ではなく、近代的な企業経営に昇華させる」。その信念のもと、2001年には国内で初めて農業生産法人の株式会社化を果たし、「株式会社ニュウズ」へと組織変更を行いました。
「情報の『ニュース』から取った社名です。みかんという果実だけを届けるのではなく、私たちの作り手の想いや、愛媛・伊方町の旬の情報を載せて、全国のお客様へ『幸せ』を届けたいという想いが込められています」と土居さんは語ります。

農業生産法人の先駆者として、全国初の株式会社化を成し遂げた土居さんのお父さん
そんな父の背中を見ながら、4人姉妹の長女として育った土居さん。しかし、天候リスクが付きまとう農業の厳しさを間近で見てきた彼女は、一時「絶対にここには帰らない」と心に決め、地元を飛び出して神戸の大学へと進学しました。
考えが変わったきっかけは、大学3年生の時に履修した「ファミリービジネスの研究ゼミ」でした。将来的に会社を継ぐ予定のある跡継ぎや、独立志向のあるゼミ仲間たちと議論を交わす日々。その中で、仲間からかけられた「将来、自分自身が会社のトップとして挑戦できる場所があることはチャンスなんじゃないか」という言葉が胸に深く刺さりました。それまで「継ぐこと」なんて考えもしなかった実家の経営を客観的な強みとして見つめ直し、自らの意志で「2代目社長になるために伊方町へ帰る」という覚悟を決めたのです。
2007年、22歳でUターン入社した土居さんを迎えたのは、祖父の「農業の基本は現場にあり」という教えでした。最初の3年間は毎日みかん畑に通い、急斜面での肉体労働に従事。現場に深く入ったからこそ、長年この業界を支配してきた「背中を見て学べ」「技は盗め」という職人気質の指導方法に違和感を抱いたといいます。
「質問すら聞きづらい空気がありました。実の娘でこれなら、まったくの未経験者が外から入ってきたら、難易度が高くて挫折してしまうのではないかと危機感を抱きましたね」
この現場での違和感と課題意識こそが、のちに同社の強みとなる徹底した「マニュアル化」と「働き方改革」の原点となったのです。

取材時はジューシーフルーツ(一般的には河内晩柑と呼ばれる)が旬の時期だった
29歳で事業承継も、大量離職のどん底を経験
「55歳になったら社長を引退する」。そう社長室に貼り紙をし、その言葉通り55歳を迎えた2014年に29歳の土居さんへ社長の座を譲った父・門田さん。本格的に開始した台湾での輸出事業を軌道に乗せるため、単身で台湾へと渡ってしまいました。しかし、この事業承継の時期は、土居さんが2人目の子どもを出産した直後という、これ以上ないほど肉体的にも精神的にも過酷なタイミングでした。
「若い女性」「子育て中」「実績のない2代目社長」という立場でのスタートとあって、焦りが募り、もがき続けた日々だったと振り返ります。「先代の偉大な影に負けてはいけない。新しいことに挑戦をしなければいけないという心境でした」
しかし無情にも、経営は空回りする日々が続きます。どれだけ必死に働いても売上は伸びず、会社の空気も徐々に悪化。追い打ちをかけるように、スタッフたちが次々と会社を去っていく事態に直面しました。「会社を維持していけるのだろうか。そんな不安に押しつぶされそうだった『魔の5年間』でした。当時は本当にどん底でしたね」と土居さんは振り返ります。
この暗闇から彼女を救い出したのは、一つの考え方の転換でした。
「今いるスタッフが辞めていく状況で、新しい事業なんてやっている場合ではない。会社を回すことよりも何よりもまず、過疎化が進む田舎町をわざわざ選んで働いてくれている目の前のスタッフを大切にしよう。スタッフが幸せに働ける環境を作ることこそが、第一優先だ」
ここから、ニュウズを守るための「本気の改革」がスタートしたのです。

従業員が働いている様子
「お互い様」を機能させるための「仕組み化」と「働き方改革」
ライフステージに合わせて「選べて、戻れる」柔軟な雇用制度
まず初めに取り組んだのが、ライフステージの変化に柔軟に対応できる「多様な雇用・勤務形態の設計」でした。それまでは「正社員かパートか」という大雑把な二者択一しかありませんでしたが、正社員の雇用枠の中に、責任ある仕事を担いつつも勤務時間を短縮できる「時短正社員」を新設。昇給や賞与の評価をパートよりも手厚く保障できるようにしました。
さらに、パートタイムでも「扶養枠内で働きたい時短パート」から「フルタイムパート」まで選択肢を用意し、結婚や出産、育児、介護といった私生活の変化に合わせて、これらの勤務形態を「自由に選べて、戻れる」人事制度へとアップデートしたのです。
「急な子どもの発熱」を最優先できる風土と、1.5倍の感謝ルール
「特に小さな子どもを育てながら働くお母さんの気持ちは、自分が3人の子どもを育ててきたからこそ痛いほど分かります。子どもは『なんでこのタイミングなの』という時に急に熱を出すものなんです」
育児の大変さを身をもって知る土居さんが指揮を執るからこそ、ニュウズでは「急な子どもの熱や家庭の事情」を最優先して休める風土が、極めて高いレベルで定着しています。子を持つスタッフが学校からの呼び出しなどで急に帰らざるを得なくなったとき、周囲のスタッフたちが「ここは任せて、早く帰ってあげて!」と笑顔で仕事を快く引き受ける空気が自然と出来上がっています。
しかし、土居さんはそれを単なる「善意や優しさ」だけに甘えさせません。「引き受けてくれたメンバーへの感謝を絶対に忘れないこと。そして、お互い様だからこそ、仕事に戻ってきたときは普段の1.5倍働く気持ちで貢献し、周囲へ感謝をしっかり言葉で伝えること」
この徹底した「感謝の循環」と「お互い様のルール」があるからこそ、嫌な空気を作ることなく全員が気持ちよく助け合えるのだといいます。
デジタルで「業務の見える化」を徹底。脱・属人化のチームワーク
そして、この「お互い様」の風土をシステムとして支えているのが、属人化を徹底的に排除する「業務の見える化」です。
「農業で一番よくないのは属人化です。『あの人がいないと今日の作業が回らない』『急に休まれると、何がどこにあるか分からない』という状態は、チームを崩壊させます」
ニュウズでは通販部とショップ部でスプレッドシートを活用。「誰が、いつまでに、何の作業を完了させるか」という全タスク、期限、現在の進捗をリアルタイムに記入して可視化しています。そして毎週1回、スタッフで進捗リストを共同確認しています。
進捗が遅れているタスクがあれば、他の手が空いているスタッフが「そこは私がカバーするね」と即座にヘルプに入ります。「仕事は個人につくものではなく、部署、ひいては会社全体のもの」。この認識の徹底が、急な離脱でも業務をストップさせないチームワークを実現しているのです。
なぜやるかを写真とデータで伝える「目的重視のマニュアル」
さらに、土居さんが現場時代の違和感をもとにつくり上げたのが、自社オリジナルの「作業手順マニュアル」です。これは単なるテキストではなく、すべての農作業について「何のためにその作業をするのか」という本質的な目的のほか、必要な道具や手順を写真付きのデータでまとめたものです。
例えば「摘果」作業一つをとっても、ただ「実を落とせ」と指示するのではありません。「将来、収穫する時に、風や枝で実が擦れて傷がつかないよう、あらかじめこの位置の枝から実を間引くのだ」という形で目的を明文化。これによって新人の理解度と納得感が向上し、能動的な行動へと繋がります。さらに、柑橘がなりすぎる「表年」とあまりならない「裏年」で、間引く手順や加減をマニュアル上で明確に書き分けるなど、長年の経験則をマニュアル化しています。
自家製の「ビジョンシート」
給与や賞与の評価についても、外部のコンサルタントに丸投げするのではなく、経営陣とスタッフが頭を突き合わせて独自の「ビジョンシート(人事評価制度)」を運用しています。
ニュウズでは毎年、全スタッフが集まる「経営計画発表会」を開催。そこで会社の5年後・10年後のビジョンや各部門の目標を共有した上で、スタッフが一人ずつ「個人目標」を発表するのが恒例となっています。そのシートに書かれた目標に対して「1年間でどれくらい達成できたか」を、社長や上司との定期的な個人面談で振り返り、賞与等に反映。「無断欠勤がないか」「挨拶や整理整頓ができているか」といった社会人としての基本姿勢や、「会社の機械や道具を壊していないか」という丁寧な作業、そして「上司から見てどうか」という評価項目を設定しています。
こうした「人を諦めない、多様で働きやすい仕組み」が評価され、2022年度(令和4年度)の全国優良経営体表彰において、同社は「働き方改革部門」で農林水産大臣賞を受賞しました。

ニュウズメンバーの集合写真
地域とともに歩む未来の展望
これまでに数々のイノベーションを成し遂げてきたニュウズですが、土居さんの眼差しは「さらにその先」の未来を見据えています。それが、今まさに進行している2つの大きなアップデートです。
1つ目は人事評価です。「これまでの評価項目は『挨拶ができているか』『会社の道具を大切に扱っているか』といったざっくりしたものが多く、どうしても評価者側の主観が入り、スタッフ本人との間に自己評価のズレが生じていました。このズレは、スタッフの不満やモチベーション低下の原因に繋がります。だからこそ、『この数値をクリアすれば5段階中4がもらえる』と、お互いが納得できるクリアな評価基準を作ろうとしています」
コンサルタントにお金を払ってパッケージ化された制度を導入する方が、手っ取り早く綺麗に見えるかもしれません。しかし、土居さんはそれを絶対にしません。
「私たちの会社のカルチャーに本当に合うものは、自分たちで作るしかないです。何よりも、制度を作る過程でスタッフから直接意見を聞き、対話を重ねるプロセスそのものが、お互いの信頼関係を深めます。『ここまで頑張れば、これだけ待遇(給与や賞与)が上がるんだ』というロードマップを明確に示すことで、単に指示を待つ作業員ではなく、自ら考えて行動する『自律的なプロフェッショナル』を育てたい。コンサルには頼らず、みんなで対話しながら一緒につくるのが、ニュウズのスタイルです」
2つ目はDX化です。2024年に大規模の投資を行い、内部品質センサー付きの最新選果機を導入しました。これまで使っていた2001年導入の選果機はサイズ選別しかできず、糖度を測ることができませんでした。しかし、現在の市場では糖度などの精密な保証が必須となっています。
「人手不足の時代だからこそ、機械ができることには積極的にお金を入れ、人にしかできないクリエイティブな仕事にスタッフを集中させる必要があります。サイズ選別や糖度測定などのデータ処理は最新のテクノロジーに丸投げし、私たちは、スタッフしかできない『みかんづくり』や、ショップでお客様と直接お話しして感動を届けるコミュニケーションに大切な『人』の力を投入する。この投資こそが、ニュウズが生き残るための生存戦略です」

取材当日、会社を案内してくれた土居さん
こうした働き方改革やテクノロジーへの投資は、すべて生まれ育った「伊方町」を守ることに繋がっています。
「この町がなくなれば、みかんを作ることも、会社を維持することもできません。おじいちゃんおばあちゃんが手放さざるを得なくなった耕作放棄地の相談があれば、人員体制を整えながら積極的に引き受けて園地を守っています」
過疎化が進む四国の最西端で、人と仕組み化によって、地域に根を張るニュウズ。その挑戦の原動力は、先代から受け継ぐシンプルな理念にあります。
「本氣(ほんき)のみかんで幸せを届ける」
三つの太陽の恵みを浴び、1年365日バトンを繋ぎ続けるみかんのリレー。その1玉1玉には、作り手の想いが詰まっています。ニュウズが届ける「ニュース」は、これからも伊方町から全国、そして世界へ、幸せと共に届けられ続けます。
取材協力
株式会社ニュウズ
















