農産物から加工までできるメーカーを目指して農家になる

唐辛子を愛おしそうに手に取る芥川さん
芥川さんの前職は、高級そうめんで名高い「三輪そうめん」を製造する会社の社員である。多忙を極め、入院中の子供の見舞いにすら思うように行けない日々。満足に顔を見ることもできないまま幼いお子さんを亡くしてしまった芥川さんは、サラリーマン生活に終止符を打ち、農家を目指した。
「そうめんに合う小麦の商品開発をするために農業試験場に通っていました。そこで麦わら帽子をかぶって圃場で作業をしている研究員の姿を見て、農業っていいなあ、農家になりたいと思いました。イチジクやハーブを栽培している中学時代の同級生のところで農業を学びながら農地も同時に探して25アールの農地を借りることができました」
元々家庭菜園をしていたこともあり、心身ともに疲れていたときに出会ったその風景が心に染みた。
芥川さんは農家を目指したときから決めていたことがある。それは栽培から加工、販売まで一貫してできる農作物を栽培することだった。
「ケニアの葉っぱのスクマウィキを栽培して青汁(粉末)を作ろうと考えて乾燥させて加工までやりました。ただ青汁は大手がやっていますし、ライバルも多くて資金や広告宣伝費とかもかかるので小規模でやるには向かないなと」
青汁のように大手がやっている農産物の加工品以外にやれることはないのか、試行錯誤していた頃に出会ったのが唐辛子だった。
「たまたま家庭菜園で植えていた伏見唐辛子や鷹の爪を見て、唐辛子ってきれいやなあ、育てるのも楽しいなあって素直に思って、Facebookに載せてました」

鷹の爪
趣味で始めた唐辛子栽培がスタートだった
会社員時代から趣味で育ててきた唐辛子は、農地を借りて規模を拡大していった。1年目は100株、2年目には300株と増やし、ハバネロにブートジョロギアというギネス記録を賑わせた話題の品種も育て始めた。
「販売するためというより、綺麗だから見てもらいたいという気持ちでした。すると『それ売られへんの?』というメッセージがどんどん来始めて。それならと、唐辛子の種類を増やしていって、4年目頃からネットで販売を始めました。私が唐辛子の栽培を始めた頃は国産の激辛の唐辛子を販売しているところはほとんどなかったので、国産の唐辛子を求めている激辛ファンが僕のところに寄ってきたという印象です。ちょっとヘンタイばっかりです」と芥川さんは楽しそうに言う。
激辛好きのマニアや激辛を扱っている飲食店からも注目され、SNSを通じて世界中の研究家や唐辛子マニアと繋がっている。2007年に辛さのギネス記録を出したブートジョロギアもいち早く栽培した。

チョコレートブートジョロキア

芥川農園の色とりどりの唐辛子
前職で学んだ乾燥技術が唐辛子に生きている
唐辛子を本格的に販売するには加工技術がいる。激辛な品種の唐辛子の加工ともなればなおさらだ。少しでも汁が肌に付着すれば七転八倒の痛みがくる。しかし、加工こそ芥川さんが得意とするところだった。
「前職のそうめん会社では約200種類の小麦を粉にしてそうめんに適した小麦を見つけ出すような商品開発の担当もしていたので、このときの経験が唐辛子の加工には大いに役立っています」
芥川農園の唐辛子はすべて完熟で収穫し、菌が繁殖しないように12時間以内に予備乾燥、20時間後には粉末になる。それが見た目や味にも繋がっている。

収穫したばかりの唐辛子の数々、このあとすぐに加工される
「唐辛子本来の美しい色、香りを大切にしてます。乾燥するまでは痛みとの闘いですが、乾燥マニアなのでこの作業はものすごい好きです。異物が混入していないか調べるのも手作業で目視確認をしています。加工している間はうっかりトイレにも行けないですが」と芥川さんは笑う。

加工作業中の芥川さん
すべてたった一人でやるので無駄がない!これまで4300種類を栽培、500種類以上を粉末加工
芥川さんはこれまで延べ4300種類を栽培し、500種類以上を粉末加工してきたという。栽培したものはすべてが販売用というわけではなく、多くは唐辛子を研究するためだという。購入者の中には激辛インフルエンサーと言われる人も多く、激辛マニアの間では広く知られる存在になっていった。
「自分で栽培して加工したものがそのまま評価に繋がるのが楽しみです。栽培も加工もすべて1人なので生産する量も限られますが、納得できるものを販売しているので品質には自信があります。無駄がないのが利点ですね。世界中の唐辛子マニアの方々と情報交換をするのも楽しいです。超激辛品種のキャロライナ・リーパーや、ドラゴンズ・ブレス(2023年10月に世界で最も辛い唐辛子と認定されたペッパーXに次いで、2026年時点で世界で2番目に辛いとされる唐辛子)などは私が国内で最初に導入したと自負しています」

キャロライナ・リーパー
苦難と挫折を乗り越えた、激辛専門農家の今後
激辛専門の唐辛子農園となり、唐辛子の研究に没頭してきた芥川さんだったが、2021年7月に最も重要な施設である育苗用のガラス温室が火事になってしまう。暑さによる電気系統のショートが原因だった。大きなショックを受け、廃業も頭をかすめたいうが、クラウドファンディングで多くの唐辛子ファンの人々から支援を受け、なんとか再建できたと振り返る。
今までも多くの唐辛子ファンと繋がってきたが、今後はもっと多くの唐辛子ファンを増やしていきたいという芥川さん。「激辛の唐辛子を専門に栽培している農家は世界でも数少ないので、誰にも負けたくないなと思っています」
唐辛子ファンとの情報交換は何より楽しいという。真っ白なそうめんから一転、赤や黄、オレンジ、黒と色とりどりで美しい唐辛子に魅了された芥川さんの探求心はまだまだ終わらない。

写真提供:芥川雅之さん
















