新品種「昭峰」はどんなブドウ?
──まず、昭峰とはどんなブドウでしょうか?
「作りやすくて種なしになる紅環(べにたまき)」って説明が一番わかりやすいかな。

2023年に初出荷された昭峰
──紅環は栽培しづらく、着色もよくないという欠点がありますが、味や風味は非常に評価されているブドウですね。
そうだね。味はほとんどそのまんま紅環だから、そこが一番うれしいところだよね。紅環っていうと、ブドウ農家もおいしいってわかってる人が多いから。引きが強いんじゃないかな。
個人的にも、紅環は数あるブドウの中でも「好きな品種を3つ挙げろ」って言われたら絶対入るぐらい好きな品種だね。その味わいをかなり濃厚に受け継いでるから、味に関してはもう文句ないかな。
──では、昭峰の着色についてはどうですか?
緑のままだと風味がくる(よくなる)のが遅いから、光を当てて黄色っぽくしてあげた方がいいね。傘をかけ替えるなりして、日光を当てて黄色にした方がうまいと思う。
成熟が進みすぎるとどうしても病気が出てくるけど、それは雨よけとかで対策できるから、光を当てて緑から黄色っぽくなるのがベターかな。
──紅環同様、ほんのり赤色が入る品種ですが、赤ブドウではないという認識ですか?
赤ではないね。赤で売るのは諦めた(笑)。たまに赤くなってもいいよ、ぐらいの感じで。ただ、市場出荷の場合は箱単位では色をそろえてほしいね。お店に並んだ時に色のバラつきが大きいとはっきりしないんで、赤くなったらなったでそういう房でそろえてほしい。黄色は黄色、緑は緑で。ちょっと面倒だけど、それをやるとやらないのとでは市場側の評価が変わってきちゃうかもしれない。
最初は品種名に「月」って漢字を入れて「昭月」にしようかなって思ったこともあったのね。月ってさ、黄色かったり赤かったりするじゃない? ちょっと似てるなーって思って。たまに赤い月もあるよ、みたいな。そうするとちょっと説明しやすいかなと思って。粒の形も丸っぽいから。お月様みたいだっていう。結局、「巨峰みたいに親しまれてほしい」と思って昭峰にしたんだけど。

昭峰を育成した北澤さん
──昭峰を作ってみたい農家さんに向けて、育成者として「こういう風に作ってほしい」という気持ちはありますか?
粒のサイズはだいたい10~20グラムだけど、大きく作ろうとすればそれ以上にも大きくなるから、そのへんは作り方や農家の腕にもよるかな。大きくなるとどうしても味は薄くなるけど、それはどの品種もそうだよね。見た目も味のひとつだから、多少味は薄まるけど、粒は大きくしてもらってもOKかな。早どりしておいしくないのを出されたらちょっとイヤだけどね。
糖度は20度あればぜんぜんOK。もう少し低くても、酸味が抜けてくれば問題なく食べられるね。どっちかっていうとシャインマスカットみたいな、ある程度酸が抜けてくれば食べられるタイプ。「酸っぱくておいしくない」はアウトだけど、最低限買った人が食べておいしいと思ってくれればいいよね。「とてもおいしい!」って言ってくれたら最高だけど。
──苗木販売前に何人かに試作を頼んだと聞いていますが、そういった人たちからの評価はどうですか?
色はつかない(笑)。色に関してはまだウチで作ったのが一番くる(色がつく)感じだね。まぁ、長野って土地柄もあると思う。作りやすいとは皆さん言ってくれるかな。味については皆さん高評価だね。
常に100%、120%を狙うのはちょっと難しいんで、80%ぐらいの味わいを安定的に出せればいいかな。元のポテンシャルが高ければ、仮に80%でもかなりいいところにいけるんで。そういう素質はある品種かな。
昭峰の長所とは
──味は紅環と同じということですが、紅環と比べて、昭峰が明確に勝っている点はどこでしょう。
紅環って種なしにするジベレリンの反応が悪いところがあるんだけど、昭峰にはそれがないね。でも、一番のメリットは粗着(そちゃく)(※1)なことかな。
花の段階で房が長いというのもあるんだけど、支柄(しへい)(※2)同士が最初から結構長くて、いい具合に隙間(すきま)が空いてるんだよね。だからハサミが入りやすくて。
※1 ブドウの房において、粒のつき方がまばらで隙間が多い状態のこと。
※2 ブドウの房中央の太い軸(果軸)から枝分かれして、直接ブドウの粒(果粒)が連なっている細かい枝状の部分。支梗(しこう)とも。
──摘粒が楽ということですね。
そう。普通は支柄ひとつにつき7~9粒ぐらいついているところを、落として2~3粒にするんだけど、昭峰は6~7粒ついていることもあるけど、最初から2~3粒ぐらいしかついてない房も結構あるんだよね。そうすると変な粒だけ抜けばいいってことになるんで、そもそもハサミを入れる数も少なくて済むからさ。
あと、シャインマスカットなんかは支柄が横に伸びやすいんだけど、昭峰は横に伸びにくいのもうれしいね。支柄が横に伸びると、肩が乗らなくて(上部の形が整わなくて)きれいな三角形にならないというか、変な房型になりやすくなっちゃうけど、それがないから肩まで円筒形に埋まりやすくて。消費者には関係ないかもしれないけど、農家的には「きれいな房をつくりやすい」という魅力があるかな。

昭峰の房(画像提供:北澤文康)
──房作りがしやすいんですね。房型はどうですか?
シャインはお尻が曲がったり、二股になったりしてることもあるけど、そういう房は見たことがないかな。マスカ・サーティーンも素直な房だけど、それよりもっとすらっとしてていい感じ。サーティーンは何度か二股になってるのを見たことがあるけど、昭峰のそんな房を見たのはこれまでで一度だけしかない。何年も育てていてそれだから、房型のいい品種なんだと思う。房が二股、三つ股になってると形のいい房にするのは大変だから、農家としてはうれしいところだよね。
──それはうれしいですね。他にも長所はありますか?
花穂(かすい)整形はシャインだと先端3センチ、昭峰も4~5センチぐらいにするんだけど、その時に房の上のいらない支柄を全部取るんだよね。岡山だとハサミで取るし、長野だと「房こき」って言って指でしごいて取るんだけど、昭峰は指で非常に取りやすい。品種によっては軸がペラペラっとめくれ上がっちゃって、ささくれみたいになっちゃうんだけど、それがない。
逆に、支柄が横に伸びないんで、花切りはしづらい。ハサミで房を作る産地の人はちょっと大変かもね。でも指でやれば全然楽だから、こだわりがなければ指でやった方がいいかな。圧倒的に早いから。
こういう特性が非常に農家向けというか、うれしい要素だね。最初は気付かなかったけど、何年か作っているうちに他の品種と何か違うなと思って、いろいろ整理をしてみるとそういうことだったね。
──昭峰を最初に選抜した時は「大粒のおいしいブドウ」みたいなイメージだったんですか?
そうそう。評価は元々高かったけど、作っていくうちに評価がどんどん上がっていったって感じだね。裂果もしなかったし。
選抜した時にはぜんぜん気にもしてなかったんだけど、作りやすさや粒のつきやすさとか。農家的なメリットは何年か作った後で気付いて。それ以降、新しい品種でも作業性を意識するようになったかな。たとえば長野県オリジナル品種のクイーンルージュはおいしいんだけど、粒がつきすぎるから摘粒が大変で。そうすると、ちょっと自分の中で評価が下がっちゃう部分がある。

──昭峰は味に注目していたけど、じつはストロングポイントは作りやすさだったと。
最初は粒の大きさや味のよさで選抜したんだけど……でもさ、それは最低限必要な部分だよね。どんなに作りやすくても、味が悪かったらちょっとなって思うじゃん。だから、味がいいのは前提として、その後、何年か作ってたら作業性のよさに気付いたっていう感じかな。
自分が生産者だからこそ、作ってて楽なのが一番うれしいというか。そこも重要な魅力のひとつだよね。シャインの子品種って結構粒がついて摘粒が大変な品種が多くて、大面積を作るってなるとしんどいと思うんだけど、摘粒、房づくりが楽なら「1反歩(10アール)入れよう、2反歩入れよう」って気になるんで。そうするととてもいいよね。まとめてパッと作れるから。
──意図したわけではないけど、作りやすくて味もいいブドウが民間で生まれたというのは、今までほとんどなかったことだと思います。
房作りのしやすさっていう評価軸はあんまり聞かないし、今までもあんまり見たことないよね。今は摘粒が大変な品種が多くなってきたから、そういったところは他の品種と差別化できるかな。
昭峰の欠点とは
──紅環は病気に弱いブドウというイメージがありますが、昭峰はどうですか?
病気には弱いね。とくに晩腐(おそぐされ)病に弱いけど、雨よけをしてあげるとすごく減るから、できれば簡易的なものでもいいから雨よけをしたいかな。うちは露地でも作ってるから余計そう思う。
──晩腐病以外はどうですか?
黒とう病の耐性はシャインよりマシぐらいかな。かかりやすいけど、ひどくはない感じ。べと病については、防除していればそんなに怖い病気じゃないんで。灰カビもそんなにないかな。晩腐の方が先に出ちゃうから。
──他のシャインの子と比べると?
クイーンルージュは黒とう病にものすごく弱いんだけど、昭峰はルージュほどは弱くないね。富士の輝(かがやき)も晩腐に弱い品種だけど、それと同じかもうちょっと弱いぐらいかもしれない。
雨よけはできれば欲しいね。それでだいぶカバーできるから。
──露地栽培だとちょっと厳しいですか?
現状、長野県の露地では若干病気に弱いところはあるけど、致命的というほどではないと思う。でも、雨の多い産地の方は雨よけをしましょうねって感じだね。
──病気以外の欠点はありますか?
着粒が少ないという特徴からきてると思うけど、果粒の変形や奇形果についてはシャインよりも明らかに多いかな。摘粒の際に抜いちゃえばいいんだけど。
昭峰の選抜と目指す未来
──昭峰の交配は2012年ですが、世に出たのは2025年と結構時間がかかってますね。
交配が2012年で、種をまいたのは13年。初なりが2015年かな。
──初なりしてからも10年経ってるんですね。民間育種にしては結構じっくり見ているような気がします。
どうなんだろうね。人によると思うけど……。昭峰については初なりから3年間様子を見て、接ぎ木で増殖して様子を見るのと同時に、友人に頼んで試作してもらって、その翌年から知り合いの腕のいい人たちに「作ってみない?」って声をかけて。
それが一昨年あたりからぼちぼちなり始めて、作った感想を聞いたりもするから、本当はもう2年ぐらいしたら良いか悪いか判断して、植原さん(植原葡萄研究所)に話を持っていこうと思ったんだけど、それより早く話が進んだんでラッキーって感じだね。
──試作は何人ぐらいに頼んだんですか?
十数人かな、20人はいなかったと思う。JVC(※3)の品種検討会にも持っていって、皆さんに食べてもらって「おいしい」「作りたい」って言ってもらえたから、毎年何人かずつ声をかけて作ってもらった。
※3 ジャパン・ヴィティカルチャー・クラブ。日本全国の先進的なブドウ農家が集まる会のこと。
──自分は2023年に初出荷された昭峰を食べてるんですが、それまでは販売していなかったんでしょうか?
宅配には少し入れてたかな。あとその頃は試作中で、どれぐらい日持ちするかとかも調べてたんで、結構畑で腐らせたりもして。最初は収穫量が本当に少なかったから、あんまり売るって考えはなかったかな。

出荷を迎えた昭峰(画像提供:北澤文康)
──昭峰は品種登録をしていませんが、それはなぜですか?
選抜当初は赤系品種として考えていたんで、やっぱり色付きの悪さが気になってね。でも、色付きを気にしなくなったんで改めて登録しようかどうか悩んだんだけど、品種登録をするとなると公表するまでに時間がかかるし、昭峰はできるだけ世に広めていきたい品種、と考えていたんで、あえてしなくてもいいかな、と。
──今後、別の品種ではどうでしょうか。
昭峰よりいいブドウができたらやってみようと思ってるよ。品種登録をすること自体に興味があるっていうか、経験してみたい。めんどくさいとか大変だとか言われるけど、どれだけ大変かもやってみないとわかんないからね。
──国内では商標登録をしていますが、海外では取っていないですよね。
取ってないね。国際商標とかもあるけど、まあいいかって。逆に中国や韓国やらで正規販売代理店になってくれる人がいたら検討しますって感じ。そこまで行くかどうかわかんないけど。
北澤ぶどう園が育種を始めるまで
──北澤さんのところは、元々高品質な欧州系ブドウが多かったですよね。
そうだね、欧州系を常時二十数品種作ってたと思う。 うちの親父(北澤昭男さん)が40年ぐらい前に全農をやめて、家に帰ってきてブドウ園を継いだんだけど、その時に早速ハウスを建てて「これからは巨峰じゃなくてヨーロッパ系の時代だ」って。15年ぐらい早いことを言ってたね。
それで当時の最新品種のリザマートやピッテロビアンコ、ルビーオクヤマあたりをドーンと導入して。

北澤さんぶどう園の畑
──歴史的なことを言うと、最初にブドウ園を始めたのはどなたですか?
おじいちゃんかな。戦争から帰ってきた後にブドウを植えたのが最初らしい。ウチは巨峰を植えるのも結構早くて、周りの人がデラウェアとかキャンベル、ナイアガラ、スチューベンとかあの辺の品種を作ってる時代に「巨峰がいいぞ」って作り始めたうちのひとりだったんで。
──おじいさんの時代から先進的だったんですね。
そう言われるとそうかもね。だから、俺が子どもの頃から巨峰はあって。その頃は巨峰の全盛期で、そのままでも全然よかったんだけど、親父としては「あまり人と同じことをしたくない」みたいなところもあったんだろうね。巨峰にしたって、この辺がみんな種ありの巨峰を作ってる時に、ジベレリン処理して種なし巨峰を作ってたし。
巨峰系の品種も黄玉(おうぎょく)とか、ピオーネ、ゴルフボールぐらいになる藤稔(ふじみのり)もあったかな。JVCとかに行って、当時の最新情報を得てきたから。
──お父さんの昭男(あきお)さんがJVCに入った経緯は?
その辺の経緯はよくわかってないんだけど、JVCは設立46年で、うちの親父は40年ぐらい前に就農したんだよね。だから最初の頃は入ってないね。
当時最新の欧州系とか珍しい品種をいろいろ作ってたから、(会員で苗木商の)植原さんとお付き合いがあったり、飯塚果樹園の飯塚さんが高校で父の先輩だったってのもあったから、そういう流れなのかな?
──JVCには育種を積極的に行っているブドウ農家さんもいますが、育種を始めたのはその影響ですか?
いや、育種を始めたのは、生坂(いくさか)村の関口さんがティアーズレッドをウチに持ってきてからだね。
──ティアーズレッドがきっかけだったんですね!
ちょうどうちの親父が「俺は60歳で仕事をやめて、やりたいことをやる」って言ってた頃に、関口さんがティアーズレッドを持ってきて。だからその影響も大きかったと思うよ。うちの親父が関口さんとすごく仲がよくてさ、兄貴分みたいな感じだったから。
──以前関口さんにお話を聞いた時、生坂村でうまくいかなかった頃に「人づてに昭男さんを紹介してもらって、すごく世話になった」って言ってましたね。ティアーズレッドができた時も、「これでようやく昭男さんに恩返しができる」と思ったと。
そう言ってもらえるとありがたいね。 親父は事故で、63の時に亡くなっちゃったんだけど、そういうことを言ってくれる方が他にも結構いて、親父って面倒見のいい人だったんだなって亡くなって改めて思ったなぁ。

後編では北澤さんの育種に対する考え方や、将来の展望についてもお聞きします!




















読者の声を投稿する
読者の声を投稿するにはログインしてください。