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猛暑から米の品質を守る! 青森県が「晩植栽培」と「飽水管理」で挑む水稲秘術の再検証

kawashima_reijiro

ライター:

猛暑から米の品質を守る! 青森県が「晩植栽培」と「飽水管理」で挑む水稲秘術の再検証

2023年の記録的な高温は、青森県の水稲にも大きな影響を与えた。白未熟粒の発生による品質低下を受け、同県では気候変動に対応した水稲栽培技術の確立に向けた取り組みを進めている。注目するのは、出穂期をずらして高温を回避する「晩植栽培」と、根の活力維持が期待される「飽水管理」だ。暖地で有効とされている技術を、寒冷地である青森県の水稲栽培にどう生かすのか。青森県産業技術センター農林総合研究所の取り組みを追った。

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「今年は大丈夫だった」では済まさない! 寒冷地で高温対策に乗り出した理由

2023年産米は全国で夏の高温による品質低下が問題となり、令和の米騒動の直接的な原因となった。青森県も例外ではなかった。白未熟粒の発生による玄米品質の低下が確認され、県産米の1等米比率は71%と、例年より約20ポイント低下した。同県は冷涼な気候を生かした高品質米産地として評価されてきたが、温暖化によって夏の気温が上昇するなか、これまでの栽培管理だけでは品質を安定して維持することが難しくなる可能性が高まっている。

青森産技_木村利行

「2023年産米では当県でも白未熟粒が出ました。2024年産米、2025年産米では大きな問題は出ませんでしたが、だからといって温暖化が終わったわけではありません。今後を考えると、温暖化に対応する技術を備えておく必要があります」

そう話すのは、地方独立行政法人青森県産業技術センター農林総合研究所作物部長の木村利行(きむら・としゆき)さんだ。同県では、高温環境下でも安定して品質を確保できる水稲栽培技術の確立に向けて、高温対策事業を実施している。

「検討している技術は、決して真新しいものではありません。晩植栽培も飽水管理も、暖地での高温対策として推奨されている技術です。ただ、当県の条件で本当に効果があるのか、収量や品質にどう影響するのかを確認し、普及につながる技術として整理していく必要があります」

昔からある技術を高温対策技術の選択肢へ磨きあげる

同県が現在検討している高温対策技術は4つある。

・追肥による出穂期の葉色低下防止
・飽水管理の効果検証
・晩植栽培による高温回避
・ケイ酸やバイオスティミュラントなどの資材の効果確認

高温障害対策というと、高温耐性品種や新しい資材に注目が集まりやすい。同県では品種育成と栽培管理の両面で対策を進めており、栽培管理については新しい技術を導入することだけではなく、既に知られている技術が地域で有効なのかを確かめ、現場で活用できる形に整理する取り組みを実施している。

「新しい技術だからそのまま導入する、ということではありません。当県の条件下で本当に効果があるのか、収量や品質にどう影響するのかを確認したうえで、農業生産現場に提案できる技術にしていく必要があります」

資材についても、公的機関として効果を確認することが重要だという。

「バイオスティミュラントなどは、メーカーさんから様々な情報が出ています。ただ、実際に青森県の水稲でどのような効果があるのか、収量や品質にどう影響するのか、という部分はデータとして確認していく必要があります」

農業生産者に対して「この管理をしてください」と伝える以上、その根拠となるデータを示すことが必須である。それが今回の実証事業の大きな目的だ。

高温を避けて登熟させる。晩植栽培という可能性

6月15日移植_6月30日現在

5月11日移植_6月30日現在

移植時期による生育の違い。撮影日は6月30日。上は6月15日移植、下は5月11日移植

同県の高温対策事業のなかで、特に注目される技術の1つが「晩植栽培」だ。晩植栽培とは、通常より田植え時期を遅らせることで出穂期を後ろへずらし、高温となる時期を避けて登熟させる栽培方法である。

水稲では、出穂後の登熟期間に高温が続くと白未熟粒が発生しやすくなる。特に夜温が高い条件では、米粒へのデンプン蓄積がうまく進まず、品質低下につながることが知られている。そこで、あえて田植え時期を遅らせ、最も暑い時期と登熟期が重ならないようにする。

Fig_01

水稲品種「まっしぐら」を使用したシミュレーション。出穂後20日間の平均気温が26℃を超える割合(2025年)。白未熟粒は出穂直後20日間に26℃以上の高温にさらされることで多発する。この図は、危険な限界温度=26℃を超える確率を地域・移植日ごとに示している

同県では、まず気象データを用いたシミュレーションによって、晩植栽培の可能性を検討した。その結果、田植え時期を遅らせることで出穂期を後ろにずらし、高温のピークと登熟期が重なるリスクを低減できる可能性が示された。

Fig_02

登熟気温が20℃を超える割合を示す。シミュレーションは同じ条件で実施。登熟気温20℃以上とは、お米がしっかり実り、収量と品質が維持できるか(登熟性)を決める指標である。

「このシミュレーションでは、6月上~中旬に田植えをする晩植栽培により、登熟不良の発生リスクを低減した高温回避対策が可能であることが確認できました。ただし、青森県の場合は高温だけに目を向ければいいわけではありません。遅く植えることで出穂遅延による冷害リスクが高まる可能性もあります。また、用水を確保できなければなりません。そのバランスを見ながら、地域ごとに使える技術として整理する必要があります」

晩植栽培は、「遅く植えれば高温対策になる」という単純な話ではない。高温回避効果と冷害リスク、その両方を見ながら、農業生産現場で成立する作期を見極める必要がある。

ここで木村さんは、既に現場で起きている変化について説明した。同県では通常、5月末頃までを田植えの適期としている。しかし近年は、経営規模の拡大により作業期間が長期化し、6月まで田植えが続く大規模生産者もいるという。晩植栽培は、意図せず現場で行われているケースが出てきているのだ。

「以前は、田植えは適期内に終わらせるという考え方が基本でした。しかし現在は、農地が担い手に集中し、大規模化が進んでいます。すべての圃場を適期内に植え切ることが難しくなり、結果として晩植になっている圃場もあります」

2015年弘前市

実際に晩植になっていた圃場の様子。6月19日に移植し、出穂が8月11日。10月1日の坪刈り成績で547kg/10a

同県では、こうした現場の現状を踏まえ、晩植栽培している大規模生産者の実態把握を進めてきた。さらに現在は、県内6地域で協力農家の圃場を活用した実証試験にも取り組んでいる。なお、来年1月には晩植栽培の効果や課題を総括する検討会の開催を予定している。

根を守り、品質維持につなげる。飽水管理の可能性

飽水管理

晩植栽培とともに、注目した取り組みが「飽水管理」だ。飽水管理とは、土壌を常に水で覆うのではなく、土壌中に十分な水分を保った状態を維持する水管理方法である。一般的な水管理では、登熟期に2〜3cm程度の水を張り、その状態を維持することが多い。一方、飽水管理では一度浅く入水した後、水がなくなって土壌表面が乾き始める前に再び水を入れる。常に水を張るのではなく、必要なタイミングで補給する考え方だ。

その狙いは、根の活力維持にある。水稲では、登熟期に根の機能が低下すると、養分や水分の吸収能力が落ち、品質低下につながる可能性がある。特に高温条件では、根への負担も大きくなる。そこで飽水管理によって夜間の地温低下を促し、根の老化を抑えることが期待されている。

「高温になると、地上部だけではなく根にも負担がかかります。根が最後まで元気でいることが、登熟を支えるうえで重要です。飽水管理は、単に水を入れる、入れないという話ではありません。根をどう維持し、結果として品質をどう守るかという視点で考えています」

飽水管理のメリットは、高温対策だけではない。近年、水稲生産では高温に加え、少雨や渇水による水不足も課題になっている。これまでのように常に水を張る管理ではなく、必要な時に必要な量を使う管理ができれば、地域全体で限られた水資源を有効に活用できる可能性がある。

「用水が十分に使える地域もあれば、用水の確保が難しい地域もあります。地域条件によって考え方は変わりますが、飽水管理のような節水型の管理で品質を維持できるのであれば、渇水で用水が不足したときに大きなメリットになります」

一方で、普及に向けては生産者の不安を解消することも重要だ。水稲生産者にとって、水田に水を張っていない状態は心理的な不安につながりやすい。

「水が見えていないと、『大丈夫なのか』と心配になる方もいます。そこをデータで示して、どのような管理なら問題ないのか理解してもらう必要があります。飽水管理による地温の変化などの評価を行いつつ、現地試験を通じて収量や品質を確認していきます。『こういう管理をしたら、実際にこうなった』というデータを積み重ねることが大切です。研究所の試験だけではなく、現場でどう使えるかを見る必要があります」

また、飽水管理が技術として効果が期待できたとしても、実際の農業生産現場で使いにくければ普及にはつながらない。飽水管理の場合、大きな課題となるのが水管理の手間である。いつ水を入れるのか、いつ止めるのか。広大な面積を管理する大規模生産者ほど、その判断や見回りの負担は大きくなる。そのため、同県では自動水管理装置を活用した管理方法の実証試験についても実施している。

「現場では、できるだけ手間を増やさずに管理できることが重要です。センサーなどを使って、水の状態を把握できれば、省力化につながる可能性があります」

水位や圃場環境を把握するシステムを活用することで、経験や勘だけに頼らない管理体系を構築できる可能性がある。

青森の挑戦は全国の水田にも通じる

北東北では、晩植栽培には「冷害リスク」という別の課題もある。特に同県は冷害に苦しめられた歴史がある地域だけに、高温だけに目を向けて技術を判断することはできない。県では過去の気象データをもとにシミュレーションを行い、高温回避だけでなく、低温による不稔や登熟不良のリスクも考慮しながら、地域ごとに適した作期を検討している。

「高温を避けるために遅く植えましょうと言って、冷害に遭ってしまっては元も子もありません。県内でも地域ごとの条件を見ながら、安全に使える技術として整理する必要があります」

晩植栽培は古くからある技術だが、気候条件が変われば意味合いが変わる。これを改めて検証して、高温対策に取り入れる。発想の転換による高温対策と言えるだろう。

高温対策は、新しい技術・資材を導入することだけでは解決しない。これまで現場で培われてきた技術を見直し、どのような条件で効果を発揮するのかを明らかにする。そして、農業生産者が自らの地域や経営条件に応じて選択できる技術として整えていくことが重要なのだ。

青森県が進める晩植栽培と飽水管理の検証は、同県だけに有効な取り組みではない。夏の高温が常態化しつつある今、全国の水稲産地が品質を守るためのヒントになるだろう。

図・写真提供:青森県産業技術センター農林総合研究所
参考:水稲品種「まっしぐら」における近年の気象条件下での異常高温を回避するための移植時期

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