福井県の肉用牛経営の現状

幸福度ランキング(※)で12年連続1位にランクインする福井県。住みやすさもさることながら、肉用牛経営においても非常に魅力的な地域です。四季に富んだ気候と豊かな風土によって育まれた「若狭牛」は、県を代表するブランド和牛として高い評価を得ており、きめ細やかな霜降りと上品な味わいで多くの食通に愛されています。
※日本総合研究所の「全47都道府県幸福度ランキング」で総合1位
現在、福井県北部の坂井市を中心に、年間600頭の若狭牛が出荷されています。しかし、生産者の高齢化などの理由により、生産者数が30年前の約3分の1まで減少しているという現状もあります。
そこで、福井県は肉用牛経営の新規就農をサポートすべく動き始めました。稲作が盛んな福井県では、良質な稲わらや飼料用米が入手しやすく、飼料コストの低減が可能です。また、人口規模が大きすぎないからこそ、一人ひとりに寄り添った支援が受けられることも魅力です。
ここからは、福井県の肉牛農家さんの声をお届けします。
「命をまっとうさせる」を信条に、肉牛と向き合う清水修一さん

まず訪れたのは、緑豊かな池田町で肉牛農家を営む清水修一さん。池田町畜産センターの牛舎で約150頭の肉牛を1人で肥育しています。清水さんは肉牛農家の5代目。高校卒業後は県外企業で牛を育てる経験を積み、地元にUターンしました。清水さんが就農した約40年前、実家の牛はまだ50頭ほど。トラック運転手や農業、土木作業員などの仕事をこなしながら、父の仕事を手伝い、13年前に専業農家になりました。
清水さんは現在、自らの牛舎で繁殖から肥育まで手がける一貫生産を行っています。肉牛を出荷するまでにかかるコストの大半は、素牛(子牛)の購入費。そのため、子牛市場にほとんど頼らず、自家繁殖でまかなえることが経営上の強みだといいます。一方で、飼料の多くを輸入に頼っており、為替や輸送コストなどの影響で高止まりするエサ代には、頭を悩ませています。

清水さんの1日は、朝7時の餌やりから始まります。「朝の餌やりは、牛の様子を1頭ずつ観察しながら時間をかけて行っています」。10時半から11時ごろに餌やりを終え、昼休憩。午後は飼料運びや牛舎の床がえ、出荷などの作業を行い、夕方には再び餌やり。発情期の牛がいれば種付けを行うなど、牛の状態を見ながら作業を進め、19時ごろに1日の仕事を終えます。
清水さんが最も気を揉むのは、子牛の哺育・育成の時期だといいます。「ミルクをあげながら、発熱や下痢をしていないか、体調を崩している牛がいないかを気にかけます。小さい子牛が弱ると、こっちも気を病むんですよ」。子牛が6〜7か月まで成長すると、「お前はもう肉牛だ。あとは立派に大きくなってくれ」と、気持ちも自然と切り替わるといいます。
そこには、清水さんなりの命への向き合い方があります。「人間が種をつけて産ませた命だ。肉牛として生まれた以上、それをまっとうさせてやるのが俺の仕事」。立派な肉牛として出荷できるよう、最後まで責任を持って育てることに全力を注いでいます。

やりがいを感じるのは、牛が高く売れたり、いい評価を受けたりしたとき。「ストレス解消法が、牛を育てることそのもの」と笑う清水さん。地元の精肉店から「いつもいい肉を作るね」と言われたときには、「ストレスがすっと消えた」といいます。
清水さんの牛肉は、後味にほのかな甘みがあり、「池田町の清水さんの肉なら間違いない」と指名されるほどの評判。過去には、当時の天皇陛下(現上皇)がホテルで召し上がったローストビーフに清水さんの牛肉が使われ、お褒めの言葉が寄せられたこともあるそうです。
最後に、新規就農を目指す方に向けて、メッセージをいただきました。「肉牛農家としてやっていくには、億単位の投資が必要です。しかもお金になるまでに長い年月がかかるため、生半可な気持ちでは続けられません」。技術を身につけることはもちろん、自治体の担当者をはじめ、周囲からの後押しも重要です。「みんなに応援したいと思ってもらえるよう、人間性を磨くことが大切です」。

地域に支えられながら約40年、牛と向き合ってきた清水さんの言葉からは、牛を育てる仕事への強い責任と覚悟が伝わってきました。
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【1日のスケジュール】
- 7:00 牛の様子を観察しながら餌やり
- 10:30 餌やり終了
- 13:30 飼料運び、牛舎の床がえ、出荷作業など
- 夕方 餌やり
- 19:00 作業終了
79歳、現役の繁殖農家。狩猟も行う渡辺高義さん

続いて訪れたのは、福井市内の山あいで若狭牛の繁殖農家を営む渡辺高義さん。現在は15頭の牛を1人で飼いながら、狩猟やジビエ工房も手がけ、猪や鹿、熊の解体・加工まで自ら行っています。
就農前はサラリーマンをしていた渡辺さん。父の代から牛を飼っていたため、会社員時代から仕事を手伝うこともあったそうです。定年が間近に迫ったころ、高齢になった父から「牛をやれ」と言われたことをきっかけに早期退職。父から借金がないことを聞き、「借金がないならいいかな」と就農を決めました。

渡辺さんが手がけるのは、母牛に子牛を産ませ、育てる「繁殖」。子牛は生後3か月ほどまで母牛と同じ牛舎で過ごし、母牛の乳を飲みながら成長します。その後は親牛と分け、配合飼料などを与えながら育てます。生後7〜9か月になると、2か月に1度、北陸3県合同で開かれる子牛市場へ出荷され、肥育農家のもとで肉牛として育てられます。
渡辺さんの1日は、朝8時ごろの餌やりから始まります。母牛と子牛それぞれに配合飼料や牧草、WCS(稲発酵粗飼料)などを与え、牛の様子を確認。1時間ほどで作業を終え、その後は牧草を運んだり、たい肥を取り出したり、牛舎の修繕をしたりします。牛が牛舎を壊してしまうこともあるのだそう。「突きまくって、しょっちゅう壊すんや」と、渡辺さんは笑います。
繁殖農家にとって、牛を太らせればいいというわけではありません。母牛が太りすぎると、子宮に脂肪がついて種付きが悪くなるため、適切な体型を保つことも大切です。母牛が健康な状態で子牛を産めるよう、日々の状態を見ながら管理しています。
牛の仕事と並行して、狩猟やジビエの加工にも取り組む渡辺さん。「儲からんし、半分趣味やけど」と笑顔を見せます。

福井で畜産をする渡辺さんにとって、最も大変なのが冬の雪です。海までは車で10分ほどの距離にありながら、山あいに位置するこの地域は雪が多く、積雪が1mに達することもあるのだそう。飼料を運ぶための道を確保したり、牛舎から牛が出てしまわないようにしたりと、雪かきに丸1日かかることも。タイヤショベルを使って除雪しています。
冬の雪には苦労する一方で、夏は山あいならではの涼しさがメリットです。風が通るため、牛舎に扇風機を設置する必要がなく、電気代の節約にもつながっています。

渡辺さんは現在、79歳。自分の後を継ぎ、この場所で牛を育ててくれる人を探しています。「田舎が好きな人、都会に飽きた人、大歓迎」と移住者にも門戸を開いています。この地域では、ふくい林業カレッジをきっかけに県外から移り住む人もいて、外から人を受け入れる土壌ができているそう。空き家も多く、固定費を抑えて暮らせることも魅力です。渡辺さん自身も、移住者の住宅探しや地域とのつなぎ役を担っています。「福井市街まで車で20分くらい。固定費も安いし、住むにはいい場所かもしれん」と、山あいで暮らす魅力を語ります。
就農後については、「ぼくもプロじゃないから一から全部教えることはできんけど、経験のある人には伴走しながらサポートしたい」と渡辺さん。初めて畜産に携わる方は、2027年度開講予定の県のふくい畜産カレッジで基礎を学んでから就農することもできます。
牛を育てる仕事だけでなく、住まいや地域とのつながりまで気にかける渡辺さん。新たな担い手との出会いを待っています。
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【1日のスケジュール】
- 8:00 牛の様子を確認しながら餌やり
- 9:00 餌やり終了
- 9:00〜 牧草運び、たい肥の取り出し、牛舎の修繕など
- 月1回程度、牛舎の掃除を行う。
担当者が語る、畜産ジョブツアーの魅力

今回のツアーを企画した、福井県農林水産部の遠藤彰さん
ふくい畜産ジョブツアーの魅力を、担当者の遠藤さんに伺いました。
「昨年は坂井市や福井市を中心に巡りましたが、今年は嶺南地域もツアーに盛り込み、オール福井でお迎えします。肉牛農家さんとの意見交換や福井のブランド畜産物を召し上がっていただける、盛りだくさんのプログラムを用意しています。ただ見るだけじゃなく、食べて話して、福井の畜産業やブランド畜産物の良さを体感していただけたらうれしいです」。
さらに、今回のツアーでは、渡辺さんのように経営継承を検討している農家の牛舎見学も行います。就農候補地を見学することで、より具体的に就農をイメージできそうです。福井県では2027年4月に畜産研修制度「ふくい畜産カレッジ」の開講を予定しており、初心者でも体系的に畜産技術を学べる環境を整備中です。さらに、機械の導入には県や市町からの補助があり、新規就農者への支援体制も充実しています。新規就農を検討されている方にとって、今回のツアー参加は絶好のタイミングと言えるでしょう。
「現段階で就農を希望されていない方にも、ぜひ福井の肉牛農家の魅力を感じていただきたいです」と遠藤さん。

写真右:池田町のご担当者 斎藤聖也さん 肉牛農家と行政の担当者との距離が近いのも、福井県ならでは。
福井の肉牛農家の魅力を見て、触れて、食べて体感できる貴重なチャンス。この機会にぜひ福井県にお越しください!
お問い合わせ
福井県農林水産部中山間農業・畜産課
住所:〒910-8580 福井県福井市大手3丁目17−1
TEL:0776-20-0439
















