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確定申告シーズン目前 専門家に聞く「農家の確定申告」のポイント

確定申告シーズン目前 専門家に聞く「農家の確定申告」のポイント

農業経営者にとって、経営の健全化は大きな課題です。生産面での見直しもさることながら、確定申告における節税対策や、有利な制度の有効活用は、経営の健全化に向けた第一歩といえます。確定申告の時期になりましたので、「農業に特化した専門家」として多方面で活躍中の公認会計士・税理士の佐藤宏章(さとうひろあき)さんに、確定申告における注意点などをうかがいました。

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農業経営者特有の悩みとは

公認会計士・税理士の佐藤さんは「農業に特化した専門家」として、2013年から農業プロフェッショナル・サービス(経営・税務・会計)を軸に、農業経営者をサポートしています。

秋田県の農家に生まれた佐藤さんは、経営の面から農業を支えたいと一念発起し、公認会計士の資格を取得。ご両親が朝から晩まで働く姿を見て育ったことが、農業経営者を支えたいという強い思いにつながっているそうです。

農業経営に特化した専門家への相談者が増えているのは、農業経営特有の難しさに頭を悩ませている方が多いとも取れます。

「農業経営の特徴として農業用建物、農機具、車両など、『固定資産』が多いことが挙げられます。固定資産は、購入時に全額を経費とすることは原則できません。減価償却という手続きによって毎年費用化します。また冬場にハウス栽培をしている農家もあり、確定申告の時期と収穫・出荷の繁忙期が重なることで、作業が深夜にまで及ぶことから苦労している方も多いですね」と佐藤さんは語ります。

その他にも、次世代農業経営者に向けた財務諸表の見方(財務諸表作成、簿記記帳、資金管理、税務申告)、農業継承問題(相続)、法人化、販路開拓。そして最近では、新規農業参入者のサポートに関する相談も増えました。

毎日記帳することを習慣づけて、確定申告をスムーズに

1年間の総まとめ確定申告は毎年必ず行わなければいけないことなのに、申告期限ぎりぎりになって大慌てという方も多いのではないでしょうか。

スムーズに行う上で、日頃から習慣づけておくべきことは、「日々のお金の流れを現金出納帳などに確実に記録し、領収書などの保存を徹底していくこと」が大切です。

「仕事とプライベートの按分を区別することも重要です。例えば、農業用建物兼住宅について支払った賃借料や固定資産税、修繕費などのうち住宅部分に対応する費用や水道料や電気料、燃料費に含まれている家事分の費用は必要経費になりません。これらの費用は家事関連費といいます。家事関連費の家事分と事業分との区分は、使用面積や保険金額、点灯時間などの適切な基準によって按分して計算します」。

農作業の合間に帳簿への記録を行い、法定期限内に申告書を提出します。期限内に納税できなければ、納期限の翌日から納付日までの延滞税を併せて納付することになります。余計な出費を増やさないためにも、日々の準備を怠らないことが重要だといえるでしょう。

忘れずに確認しておきたい節税対策

確定申告を行う人なら、誰もが気になるのが節税対策ではないでしょうか。

節税対策は、
(1)青色申告特別控除(最高65万円を差し引くことができる)
(2)青色事業専従者給与の必要経費算入(一緒に働く家族への給与を全額経費に計上できる)
(3)純損失の繰越(赤字が出たら将来の黒字と相殺できる)
(4)減価償却の特例(30万円未満の資産を全額経費に計上できる)
といった、青色申告の特典活用だけではありません。

「所得控除の医療費控除(セルフメディケーション税制は選択適用)、社会保険料控除(農業者年金などの支払い)や税額控除の住宅借入金等特別控除など、控除できる項目を把握しておきましょう」。

また、確定申告の期限後に、計算を誤って税額を多く申告したことに気がついた場合は「更正の請求」という手続きにより還付を受けることができます。更正の請求は、原則として法定申告期限から5年以内です。税額を少なく申告していた場合は「修正申告」という手続きが必要です。

注目すべき税制改革は「収入保険制度」と「軽減税率制度」

節税を意識し、毎年正しく申告を行うことも大事ですが、農業に有益な税制改革などの情報収集もしておきたいところです。2018年以降に注目すべき税制改革は、「収入保険制度」「軽減税率制度」の2つが挙げられるそうです。

収入保険制度

収入保険制度の対象者は、青色申告を行っている農業者です。青色申告をする方は、その年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を納税地の所轄税務署に提出する必要があります(その年の1月16日以後に新たに開業した方は、開業の日から2ヶ月以内に提出)。

TPP等(TPP11含む及び日欧EPA)の関税撤廃による農産物輸入増が国内農産物の価格低下を招き、農家の収入が大幅に減少する可能性があります。対策の一環として農産物の価格低下などによる農家の収入減少を補填する「収入保険制度」が設けられました(※1)。2019年からスタートしますが、ポイントがいくつかあります。

(1)例えば、保険料の掛金率は1%程度で、農家ごとの平均収入の8割以上の収入が確保(これまでの農業共済は、品目が限定され、価格低下による収入減は対象外)。損害が発生しなかった場合、翌年の保険料が下がります。

(2)米、野菜、果樹、花、たばこ、茶、しいたけ、はちみつなど、農産物ならどんな品目でも対象(畜産業者向け公共事業であるマルキン等の対象である肉用牛、肉用子牛、肉豚及び鶏卵は対象外)。

(3)収入保険に加入するために必要な青色申告は簡易帳簿でも可能(現金主義による所得計算の特例は対象外)。1年の実績があれば加入できます。もちろん新規就農者でも加入することができます。

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軽減税率制度

消費税の「軽減税率制度」が、2019年10月1日の消費税率の引上げと同時に実施されます。軽減税率8%(消費税率6.24%、地方消費税率1.76%)、標準税率10%(消費税率7.8%、地方消費税率2.2%)。消費税の軽減税率制度は、日々の買い物等の場面で消費者の方のみならず、農業者の方にも関係します。

軽減税率の対象品目
(1)酒類・外食を除く飲食料品
(2)週2回以上発行される新聞で、定期購読契約に基づくもの

農業者の消費税計算ポイントも挙げておきましょう。
(1)税率ごとの区分を追加した請求書等の発行や記帳などの経理(区分経理)が必要。
(2)課税仕入れ等に係る消費税額を控除するには、区分経理に対応した帳簿及び請求書等の保存が必要。
(3)日々の取引を税率ごとに記帳、申告時に税率ごとに区分して税額計算が必要。

「TPP等や40年以上続いた米の生産調整が見直しされるなど、日本農業を取巻く環境は変化し、農業経営の重要性が一層増します。農業者の所得向上に向けての改革(農業競争力強化支援法)も進んでいます。次世代農業経営者の皆さんが、今後の日本農業の発展に貢献し支えていただきたいと思っています」。

佐藤さんは現在、農業従事者を中心に農業経営や6次産業化に対するアドバイス、コンサルティング業務だけでなく、メディア出演、講演・セミナーなどを通して最新情報を伝えているそうです。変革の時を迎えている今だからこそ、専門家からアドバイスを受けたり、セミナーに参加するなどして情報収集を行うことも大切でしょう。

公認会計士・税理士 佐藤宏章事務所 代表 佐藤宏章
農家出身。東京農業大学農学部農学科卒業。「農業経営の発展に貢献する」という信念のもと、コンサルティング・セミナー・執筆等を通して、農業経営者へ経営・税務・会計をわかりやすく伝えることをモットーに活躍中。「農業経営」や「6次産業化」に関してコンサルティングの第一人者として全国を駆け回っている。

参考
※1 収入保険制度の背景やポイント

画像提供:公認会計士・税理士 佐藤宏章事務所

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