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自然も人もありのままがいい。田植えでスッキリ「アグリセラピー」

自然も人もありのままがいい。田植えでスッキリ「アグリセラピー」

NPO法人オーガニック・ライフ・コラボレーションの代表を務める福本裕子(ふくもとひろこ)さんは、自然栽培で農作物を育てながら、心のケアを行うアグリセラピー®(別称、田んぼセラピー)を行っています。心に悩みや不安を抱える人たちに、「本来の自分らしさ」を取り戻してほしいという思いで始めました。多忙な会社員や主婦など、参加者は多岐に渡るそうです。どのような取り組みをしているのでしょうか。代表の福本さんに話をうかがいました。

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素人だったからこそ、自然栽培の世界に飛び込めた

化学肥料や農薬に頼らない自然栽培で農作物を育てることを通して、心のケアを行うアグリセラピー®を考案した福本さんは、臨床心理士の資格を取り心理カウンセラーとして、公的機関・クリニック・企業など、これまで3万人以上の方をサポートしてきました。

自宅のベランダでガーデニングを楽しむ程度で、農業に携わったことはなかった福本さん。自然栽培を知り、アグリセラピーを始めたのは偶然だったといいます。

「自然栽培を知れば知るほど、人も農作物も同じ。ありのままが一番だなって思いました。例えば屋久島の縄文杉は、肥料も堆肥も与えられないのに、何千年も長く生き続けていますよね。そして、野菜や草木が本来持っている自然のエネルギーに触れることで、人も元気になれるはずだと思ったのです」。

「これだ!」と思いたってからは、周囲を驚かせるくらいに積極に行動していきました。自然栽培に関連した講演会などに参加し、その場で知り合った生産者に協力を依頼しました。

そして、セラピーを行って肥料や農薬に頼らない自然栽培で農作物を育てること。それらを食することで心身共に健康となり、自分らしさを取り戻すためのアグリセラピーを考案したのです。

「私は農業に関してまったくの素人です。最初から慣行栽培をやろうとしていたら、挫折していたかもしれません。自然栽培だからこそ、高度な技術がなくてもできたのです。予備知識がなかったからこそ、自分たちには無理だとあきらめずに、良いと思うことに素直に取り組めました」。

耕作放棄地の活用に、協力者が次々と

NPO法人オーガニック・ライフ・コラボレーションによるアグリセラピーは、2018年4月で9期目の実施となります。

実施期間は、毎年4月から12月にかけて。講義は3部構成で行われます。「自分という種を知り、目覚める(春)」「生命力を信じ、自分の花を咲かせる(夏)」「成熟を待ち、実りへと結ぶ(秋)」「生きる力と根っこを力強く伸ばす(冬)」と季節ごとにテーマを設けたセラピー講義が行われます。さらに、農業や自然栽培、有機栽培の農家、造園家など様々な専門家から幅広くしっかりとしたレクチャーを受ける特別講義へ続きます。そして、自然栽培の農実習となります。

こういった経緯があり、知人の紹介で神戸市北区に最初の田んぼを借りて農作業をおこなうように。地域の方たちから「田畑を使っていいよ!」といっていただくようになりました。

それでも高齢化や後継者不足により、手つかずになった土地を持て余していた方々と、需要と供給が一致しただけはありません。ほとんどの土地が無償で貸し出されているのは、活動への賛同という気持ちがあるからこそです。現在、NPO法人オーガニック・ライフ・コラボレーションの圃場では、主に米や大豆、ジャガイモや季節の野菜などを育てています。

「そんなことをして儲かるの?」という意見もありますが、「儲けようという考えから始めたら、儲けるか損するかの2つしかない。ですが、心と体に良いことだから始めてみようという考え方からスタートしました。だからこそ、得るものがたくさんありました」。

アグリセラピーで心身共に健康になっていく方や、畑を貸してくれる方、活動に協力してくれる方たちとの繋がりこそが、お金に替えられない財産なのです。

台風にも負けない根を張る、農作物のたくましさ

自然栽培と向き合って10年以上経ちました。農作業がはじめての受講生が雑草と間違えて、野菜の苗を抜いてしまうなど小さな失敗は尽きません。そんな失敗を笑い飛ばし、農作物の出来不出来にとらわれないことを大切にしていますが、アグリセラピーで育てられた農作物から学ぶことや得られることは多いそうです。

2015年5月に開催された第88回日本産業衛生学会では、アグリセラピーの効果について報告を行いました。

心理検査などで一般的に使われていて、緊張・抑うつ・怒り・活気・疲労・混乱の6つの尺度から気分や感情を測定するPOMS検査を参加者に実施(2011~2014年、24名を対象)し、「プログラム実施前後の活気尺度の変化」などを確認したところ、活気が回復した、ストレス対処能力が向上したという結果が得られています。学会で発表後も継続的にデータを取っていますが、結果はほぼ変わらないそうです。

2017年には、畑の上空を大型台風が2週連続で通過したこともありましたが、幸いにも農作物がダメになることはありませんでした。

「自然栽培で育てた農作物は自分で頑張らないと栄養をとれないので、本当に根っこが長くて、強くて、たくましい。私たちも、他人や会社が悪いと環境のせいにせず、農作物のように自分の力でしっかりと立たないといけないと、いつも感じます」。

食育から社員のメンタルケアまで、アグリセラピーの可能性

アグリセラピーを始めたときは、心に病を抱えた人や、引きこもりがちな人を参加者として想定していました。ですが、心の病を自覚している人の参加は少数でした。

「問題なく日常生活を送っているように見えても、実は慢性的なストレスを溜めていたり、仕事や人間関係に振り回されて自分軸のない人が多い時代だ」と福本さんは感じています。実際に企業が、福利厚生の一環として実施するメンタルヘルスケアとして、アグリセラピーの導入を検討する機会が増えているそうです。

また、子どものための食育カリキュラムとしても、広がりをみせています。
特に地元の保育園では園児たちが、春に大豆を植えて、夏に枝豆を食べ、秋に収穫し、冬にその大豆を使って味噌作りを行うというカリキュラムが好評を得ています。
イモ掘りなどは、多くの人が経験しています。ですが大豆を植えるところから始まって味噌を作り、給食で食べるという一連の流れを経験する機会は少ないことでしょう。

農作物を育てるには時間がかかります。それに活動を継続して行う必要があることが、導入のハードルになっている部分もあります。

「おいしいは魔法の言葉」と福本さんが語るように、おいしいものを食べながら、自身のライフスタイルや日本という国の風土や自然、そして食文化を見直すきっかけになっているのも事実です。アグリセラピーには、まだまだ可能性があると考えています。

手作りの味噌は、これ以上ないというほど、こだわって作っていて、「究極のお味噌だ」と受講生や会員にも大変評判がいいそうです。

農作物や味噌などの加工品を販売し、活動資金に充てることも考えています。一方で、アグリセラピー講座を受講後に、家業である農業を継ぐ方もいて、お金では買えない喜びや体験も生み続けています。

アグリセラピーは、安心・安全な食べ物で心身ともに健康になるだけでなく、日本独自の食文化の継承という役割を担っていくことに繋がるのではないでしょうか。
 
 
【取材先情報】
NPO法人オーガニック・ライフ・コラボレーション
 
画像提供:NPO法人オーガニック・ライフ・コラボレーション

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