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次世代給付金(準備型)をもらって研修! 「広く浅く」農業を学び、理想の農業と出会う学校とは

千田 一徳

ライター:

次世代給付金(準備型)をもらって研修! 「広く浅く」農業を学び、理想の農業と出会う学校とは

「就農したい!」 でも「自分がどんな農業をしたいか決められないので、栽培品目も、研修先の農家さんや就農する場所も決められない!!」そんな人もいるのではないでしょうか。焦らなくても大丈夫です。次世代給付金とも呼ばれる農業次世代人材投資資金(準備型)の交付を受けながら農業を学び、同時に自分の農業の形を模索できるところもあります。今回は、この給付金の対象研修施設の中でも研修後の就農地域が限定されない「全国型教育機関」の一つに指定されている専門学校を取材しました。

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卒業後は全国どこでも就農が可能! オイスカ開発教育専門学校とは?

農家になるためには栽培技術や農業経営などさまざまなことを学ぶ必要があります。
それらの知識、スキルを体系的に習得するためには

  • 農業法人などで働く
  • 大学の農学部へ入る
  • 農業の専門学校へ入る
  • 都道府県が設置している農業大学校へ入る

といった方法があります。


静岡県浜松市にあるオイスカ開発教育専門学校(以下、オイスカ)は、上記のうちの「農業専門学校」にあたり、農業次世代人材投資資金(準備型)の受給を希望する人の研修施設として、全国型教育機関に指定されています。同校は「広く国際社会に貢献できる豊かな人材を育成する」ことを目的に、国際NGOである公益財団法人オイスカを母体として1986年に設立されました。

茶摘み実習の様子

では、オイスカは他の専門学校や農業大学校とどういった違いがあるのでしょうか。
教頭の中野さんは特徴的な相違点として3つあげてくれました。

  1. 農業次世代人材投資資金(準備型)の「全国型教育機関」である
  2. 実習時、作物を限定せず広範に扱う
  3. 海外研修がある

これらの特徴について、詳しくお話を聞いていきます。

農業次世代人材投資資金(準備型)の「全国型教育機関」である

農業次世代人材投資資金(準備型)とは

一定の要件を満たして交付認定された場合、本校の在学期間が「研修中」とみなされ、1年間最大150万円、最長2年間の給付金を受けることができます。

中野さん

農業次世代人材投資資金には「準備型」と「経営開始型」があります。
「準備型」は国や都道府県が定める特定の研修施設、農家などで研修するなど一定の要件を満たし給付認定された人が上記の金額の給付金を受けられ、就農準備中の経済的な安定を図れます。
「経営開始型」は原則50歳未満で独立・自営就農する認定新規就農者を対象に、年間最大150万円を最長5年交付する制度です。

オイスカに入学して準備型の給付金の交付を2年間受けられたとすると、それで在学中の学費、寮費をほぼ支払うことができます。

農業機械などの免許を取ることもできる

全国型教育機関とは

「全国型教育機関」に指定されていることも同校の特色だと中野先生は言います。

全国型教育機関なので、卒業後の就農場所に関係なく研修を受けることが可能です。

中野さん

準備型の給付を受ける場合、研修機関と同じ都道府県内で就農することが基本となっています(※)。
たとえば、道府県が設置している農業大学校なども基本的にはそうです。
一方で、全国型教育機関は就農希望者が研修場所にかかわらず日本全国で就農することを想定しています。

※ 給付要件には就農先の規定はありません。

オイスカは2018年から全国型教育機関に認定され、初年度は2人、2年目に2人が準備型の給付金を交付されました。
3年目の2020年は1年生12人中2人が申請済みで、さらに6人が秋に申請予定とのことです。

この全国型教育機関は日本に19カ所しかありません(2020年7月現在)。
「農業に興味はあるが、就農場所が定まっていない」という人は、この全国型教育機関を考慮してみても良さそうです。

実習時、作物を限定せず広範に扱う

さまざまな作物を扱うのもオイスカの特徴の一つです。

年間1230時間を超える実習時間では、野菜、水稲、果樹、花などさまざまな作物を扱います。
「広く浅く」でも多くの作物を経験することで、生徒が「自分に合う作物」を選んでいってほしいという思いがあります。また、さまざまな作物を作ることで「農業の適応力を向上させる」というのも目的の一つです。

中野さん

また、国際NGOを設立母体としていることから、農業分野での国際協力の人材育成も行っています。途上国の農業現場では、野菜の育て方、機械の有無、土壌の性質など多くのことが日本国内とは違うため、「そういう違いに適応し、対処できる人材を育てるという意味でも多様な作物を栽培することが有意義」だと中野先生は言います。

生徒の圃場(ほじょう)。思い思いの作物が植えられている

校内でいろんな作物を経験したのち、大規模農園、農福連携農園、花き農家、畜産牧場、大型水耕栽培農園など、県内県外問わずさまざまなインターンシップ先が用意されており、現場での経験を積むこともできます。

実習内容やインターンシップ先は、入学時点での農業経験の有無や進路希望先(国内就農か国際協力関係か)によって柔軟に変更しているそう。

農業経験がない生徒には基本的なことから、経験がある生徒には実践的な内容を。
個々人の経験や希望に合わせて必要なスキルや適応力を身につけられるようにしています。

中野さん

海外研修がある

国際NGOが設立母体であるオイスカでは、2年次の10月から1月に行われる4カ月間の海外研修があります。
海外研修では、期間前半に熱帯農業について現地スタッフからの講義、指導などがあり、後半には同NGOが実際に活動している現場へ生徒が赴き、現地のNGOスタッフと一緒にプロジェクトへ参加するそう。
過去には「フィリピン・ミンダナオ島での環境保全に関する調査・研究」「インドネシア・ジャワ島での森林プロジェクトなどの調査」などに参加しているとのことです。

水道、ガスがないところで現地の方と一緒に生活をして、一緒にプロジェクトを進める。
その経験は、将来農業をやる上でも有形無形の財産になると思っています。

中野さん

授業の様子。このプログラムに参加するため、同校では入学当初から習熟度別で「英語の集中授業」が行われる

生徒の声

広範な農業の素養を身につけつつ英語力もつけられて、給付金を受けることもできるオイスカ開発教育専門学校。
実際の生徒さんの声を聞いてきました。

農業次世代人材投資資金(準備型)を交付された松村さん

松村奏(まつむら・かな)さん。
静岡県沼津市出身。非農家ながら「花が好き」と静岡県立田方農業高校園芸デザイン科へ進学。卒業後「野菜栽培もやってみたい」「実習を多くやりたい」「海外研修が魅力的」という3つの理由からオイスカへ進学。1年次より給付金を受給し、卒業後は千葉県の園芸農家へ就職予定。在学中に、東京で行われた「アグリク」という農業イベントへ自発的に参加し、そこで感銘を受けた農家さんへインターンとして働くことを直訴するという行動派。

ちだ

給付金を受けるにあたって、具体的にどんなことをやったんですか?

まず、入学当初から申請用に作業日誌を書いていました。
1年生の6月くらいから提出書類を先生の協力を得ながら書き始めて、12月ごろに面接がありました。

松村さん

入学当初「自分がしたい農業」が固まっていなかった松村さんは、実習やインターンを通してさまざまな農業に触れ、少しずつ自分の思いをまとめていったそうです。

申請書類は「自分がしたい農業ビジョン」に基づいた研修計画、研修実施内容を書かなければいけませんでした。いろんな農業に触れられた分、現実を踏まえた書類作成ができたかなと思っています。

松村さん

ここで一つ、疑問に思っていたことを松村さんにぶつけてみました。オイスカで「広く浅く」学ぶことで、プロのインターン先では逆に「なぜこんなこともわからないのか」と評価されてしまうのでは、という疑問です。

「広く浅く」ではありますが、どの作物でも播種(はしゅ)前の土づくりから収穫後の片付けまで一通りやります。
いろんな作物を一通りやることで、インターン先でも「きっとこういうことがやりたいんだろう、求められるんだろう」という想定ができるようになりました。
なので、インターン先で困ったり怒られたりということは無かったです。

松村さん

松村さんは以前オイスカの先生からこんなことを言われたそう。

「『広く浅く』学ぶことで、深さはないが何にでも柔軟に対応できるというメリットもある。
海外で農業をやっていて自分がそう思った。
日本のやり方と海外のやり方は違う。
いろんな作物をいろんなやり方でやるからこそ、広範な知識が身につく。
すると、違う環境でも『こんなのもあったな』と自分の引き出しから適切な選択肢を導きやすくなる。」

給付金を受けつつ、農業技術と適応力を身につけて、就農。
就農する上での一つの理想の形かもしれませんね。

青年海外協力隊へ参加して農業で世界に貢献したい中野さん

中野弘大(なかの・こうだい)さん。
静岡県富士宮市出身。高校在学中より国際協力に興味を持つ。普通科高校を卒業し一浪後、四大への進学が決まっていたが、ユニセフなどの動画を見て貧困に苦しむ人を助けられる人材に少しでも早くなりたいとオイスカへ進学。

ちだ

農業分野で青年海外協力隊へ参加されたいということですが、オイスカで学ぶことがどのように進路に役立っていると感じていますか?
まだ入学して間もないですが、英語の授業が多いことと国際協力経験のある先生や外部講師のお話が聞けるのが良い点です。
また、いろんな作物を偏りなく学べるので、海外に行った際にその地に適した作物を選択できるのではと思います。

中野さん

現在、中野さんはどうやったらミニトマトの味が良くなるか、収量が増えるかなどを独自に試験栽培しているそう。栽培環境は露地や無加温のハウス。完全に密閉されて温度や湿度などがコントロールされている圃場ではないので試験も難しいですが、それも他国で農業をすることを想定してのことだと言います。

仮に農学部などで栽培の最新技術を学べたとしても、それが現地で使えるかは不透明です。なるべく現地で使える技術、知識、知恵を身につけたいという思いがあります。

中野さん

オイスカでは農業技術を身につけるのはもちろん、中野さんのように国際協力に興味がある仲間ができるというのも魅力の一つなのかもしれません。

「給付金をもらって学校に行きつつ農業の方向性を探す」という選択肢もあり!

オイスカにはこんな特徴がありました。

  1. 農業次世代人材投資資金(準備型)の「全国型教育機関」である
  2. 実習時、作物を限定せず広範に扱う
  3. 海外研修がある

今回は就農を考える上での選択肢の一つとして、
「準備型の給付金を受けながら、自分の農業のやり方・就農地を模索する方法」
をご紹介しました。

就農するにもいろんな方法があります。焦らず、いろんな手段を検討したいものですね。

オイスカ開発教育専門学校

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