1年で取扱高が53倍に急増
秋元さんに取材していて驚くのは、そのフットワークの軽さだ。全国各地を飛び回り、数々の仕事をこなしている。
10月1~3日の主なスケジュールを見てみよう。1日は社内の打ち合わせや社員の内定式の後、テレビの取材や社員との面談などをこなし、翌日の仕事のために福岡に移動。2日はオンラインでの仕事の後、テレビ番組「がっちりマンデー!!」(TBS)のイベントに登壇。3日は北海道の生産者を訪ねた。
睡眠時間はどれくらいとっているのだろう。そう聞くと、答えは「5時間くらいはきちんととれている」。それで十分なのかと思っていると、続いて「コロナのまっただ中のときは寝る時間がなかった」と語った。
新型コロナの感染拡大が始まると、食べチョクはただちに生産者を応援する取り組みを始めた。小中学校の休校やイベントの中止を受け、2020年3月に宅配便の送料の一部負担を開始。農林水産省が生産者の支援を本格的に始める前に打ったこの措置で広く注目を集めた後も、次々にサービスを拡充してきた。
業容はコロナ後に飛躍的に拡大した。2021年10月の登録生産者は5736軒と、2019年末の8.3倍に増えた。2020年10月期の取扱高(送料を含む)は前年同期と比べて53倍に急増し、2021年10月期も同2.5倍を見込んでいる。
テレビに積極的に出演する意義とは
一方、この間に知名度を高めるうえで大きく貢献したのが、秋元さんのテレビ出演だ。「Nスタ」(TBS)で水曜日のコメンテーター、「スッキリ」(日本テレビ)では不定期のコメンテーターを務めるなど、多くの番組に出演した。テレビで食べチョクを知った消費者や生産者も少なくないだろう。
テレビに出始める際、一定のリスクを伴うことも考えた。専門外の分野でコメントを求められたときなどに、答え方次第で視聴者から批判が出る可能性だ。そうしたことも念頭に置いたうえで、それでも出演を決めた。
出演にはどんな意義があるのか。この質問に対して秋元さんが例に挙げたのが、「野菜の価格の高騰」だ。野菜の値段が上がると、メディアは「家計を圧迫」といった取り上げ方をする。これに対し、生産者は「値崩れしたときの生産者の苦境はそんなに注目されるだろうか」と複雑な思いをする。
この点について、秋元さんは「生産者と消費者の対立の構図にはしたくない」と話す。そこで番組では、値段が上がった理由をこんなふうに説明する。「8月にすごく雨が降りましたよね。あのとき収穫できなかったものもありますが、じつは秋になって遅れて影響が出てくる作物もあるんです」
長雨が続いたとき、さまざまな被害が起きて人々は深刻さを実感した。そのときのことを思い出せば、いま収穫が減って値段が上がっていることも理解してくれるはずだ。そんな観点から、番組でコメントする。
秋元さんは「生産者と消費者の橋渡しが自分の役割」と話す。両者をつなぐ産直サイトの機能を、テレビでも実現しようとしているのだ。
「どんな作物を出品し、どう梱包したらいいか」を解決
サービスの裾野を広げるにあたり、食べチョクがとくに力を入れているのが、できるだけ幅広い生産者が参加できる環境を整えることだ。
その一環として、4月に始めたのが生産者同士の「物々交換」の推進だ。食べチョクに登録したばかりの生産者の中には、どんな作物を出品し、どう梱包したらいいか戸惑う人もいる。そんな生産者に、食べチョクで販売した経験を豊富に持つ生産者のノウハウを伝授するためのサービスだ。
具体的には、物々交換を希望する生産者がLINEやフェイスブックなどで食べチョクに連絡。食べチョクはサイトの利用に慣れた生産者のうち、希望者のニーズにうまく応えられそうな人を紹介する。
マッチングが成立すると、生産者同士が宅配便などを使って商品を交換し合い、内容について意見交換する。秋元さんはこの取り組みの意義について「生産者が消費者の立場で考えるきっかけになる」と説明する。
同様に参加者を広げるために手がけているのが、2020年7月に始めた「ご近所出品」のサービスだ。それまでは生産者ごとに出品するルールだったが、このサービスで生産者がグループで出品することを可能にした。
秋元さんたちが狙ったのは、スマホの扱いに不慣れな高齢の生産者も出品できるようにすることだ。自分だけではサイトの登録や出品に難しさを感じる人でも、仲間のサポートがあれば参加できる余地が生まれる。
一連のサービスの背景には、食品のネット通販の置かれた状況に対する冷静な分析がある。コロナ禍で産直サイトが脚光を浴びたが、ネットで販売する手段は他にもたくさんある。SNS(交流サイト)での発信が得意で、産直サイトの支援が要らない生産者なら、別のルートを選ぶ可能性もある。
「若い生産者がスターになり、新規就農者が増えるのはとてもポジティブなことだと思う。でも口下手で自分で売るのは苦手だが、ものづくりはしっかりしている職人気質の人も支援したい」。秋元さんはそう語る。
トラブルにはスタッフが対応
生産者を支えるために手厚くしているのが、トラブルが起きたときのサポート態勢だ。ビビッドガーデンのスタッフは、新型コロナの感染拡大が始まったばかりのときは10人程度だったが、いまは約70人に増えた。その多くは、生産者と消費者に対応する仕事を担当しているという。
いくら丁寧に出荷しても、輸送の途中で商品に傷がついてしまったりすることがある。そんなときに消費者と生産者が直接やりとりすると、生産者が落ち込んでしまったり、逆に怒ってしまったりする恐れがある。そこでトラブルがあったときは、スタッフが間に入って対応する。
全体を貫いているのはサービスをより使いやすくすることで、産直サイトの存在感をもっと大きくしたいとの発想だ。秋元さんは「産直サイトのマーケットを広げたい」と語る。衰退産業と言われてきた農業や漁業を、ビジネスの手法で元気にしようとする同社の動向にこれからも注目したい。