初めてのテレビ出演
もし皆さんのところにメディアから取材の依頼が来たらどうしますか? どうなるかわからないが受けてみる人、興味がないので断る人、もちろん人それぞれです。私は農業を始めた頃から、この世界でメジャーになりたいと思っていましたので、初めて取材依頼が入った時はとてもうれしくて、喜んで引き受けたのを覚えています。
メディアに出るためには、タケイファームの存在を知ってもらう必要があります。そのために2006年に始めたのがブログを書くこと。当時は、今のように、誰もがスマホを使って簡単にSNSで発信できる時代ではなく、ホームページを作るお金もありませんでしたので、私ができる唯一の発信手段はブログだったのです。
2006年8月から毎日書いていたブログ。書き始めてから1年3カ月後の2007年11月に初めてテレビ局からのオファーがありました。ちょうどその時期は、ブログのメインになる記事を、防虫ネットの張り方や種まきなどの農作業日記から、珍しい野菜の品種を紹介する記事に変えていた頃でした。今では少量多品目農家としては普通ですが、赤いダイコンや緑のダイコンなどをいち早く栽培していて当時は珍しかったようです。
取材元はNHKの情報番組で、ブログで紹介していたタケイファームの珍しいカラフル野菜を取り上げてもらいました。
テレビに出られただけでうれしかったのですが、その番組を見た東京赤坂の有名レストランから連絡があり、その後取り引きが始まりました。この時、メディアの力のすごさを実感しました。
その後、次々に声がかかった3つの理由
農家の中で何度も声がかかる人と、一度きりの人といろいろいます。中には「もう二度と出たくない」と断っている人もたくさんいるでしょうが、何度もメディアに出る人にはそれなりの理由がある気がします。
私にメディアから声がかかる理由は、次の3つなのではないかと思っています。
情報を発信し続けているから
私の場合は、2015年3月まで8年半ほぼ毎日ブログを書き続け、現在はFacebookやInstagramなどのSNSでの発信を続けています。まずは、自分の農園の情報発信をしなければなりません。どんなに良い野菜を作っていても、その情報が発信されなければ誰にも気づいてもらえません。
そして、私は取材の際、担当者に必ず聞くことがあります。
「なぜ、うちが取材対象になったのですか?」
この答えは、今後の取材対象になるためのヒントとなります。
あるテレビのディレクターの答えです。
「企画ができたら、本来はその対象者を自分達で探さなければならないのですが、リサーチャーにお願いすることが多いのです」
リサーチャーとは、番組のコンセプトに合うネタを探す人のことで、今はインターネットを駆使して取材対象者を探すことが多いようです。普通の農家がインターネットの検索で挙がってこなければ、その番組に出られる確率はほぼ0パーセントです。言いかえると、リサーチャーの目に留まることができれば、出演の可能性が高まるということです。
彼らはピックアップした人が対象者としてふさわしいかをさらに調べます。その中で、過去にテレビに出たことがある情報があれば、「この人は断らない」と判断され、さらに確率は上がります。
メディアに出るためには「情報発信」はとても大切なことなのです。
連絡が取れるようにしてあるから
取材対象に浮上したとしても、先方が連絡できなければその先には進みません。メールアドレスや電話番号を公開してしまうと面倒なことが起きる可能性もあるので、ホームページやブログに「お問い合わせフォーム」を設定することは重要です。
人脈を広げているから
中には人見知りの人もいると思いますが、人と話すことが苦手でなければできるだけ人脈を広げることをおすすめします。
私は、食事会や異業種交流会などで、できるだけ人と会う機会を増やしています。出会った人がメディア関係の人かもしれませんし、出会った人の友人にメディア関係の人がいるかもしれません。いつどこでタケイファームの話題があがるかわかりません。実際に出会った人達から取材を受けたことが何回もあります。
メディア出演のメリット
今は、テレビ、ラジオ、雑誌、新聞などのマスメディアのほか、ネットメディアも盛んで、露出の機会は多くなっています。それがどのようなことにつながるかわかりません。
テレビに出ると、野菜の注文が増えることがあります。ただし、これは一時的なことが多いので、売り上げアップが長く続くと思わないことです。タケイファームのお客さんはレストランということもあり、一度取引が始まるとその後も継続するので、結果、売り上げアップにつながります。
メディアに出ることによって仕事が入ることもあります。ネットメディアに掲載された記事を読んだ企業から講演の依頼がありました。幕張メッセで開催されている日本最大の農業・畜産の総合展「農業Week」での講演です。緊張しましたがなかなかの評判だったようで、関西で開催された農業Weekにも声がかけられました。
このように大きな舞台での実績は、次への講演依頼にもつながり、現在の私の野菜以外の収入源につながっています。
特徴のある農家であることも大事
私の場合、アーティチョークという、他の農家が手を出さない珍しい野菜を作っていることで、メディアから声がかかることがあります。「アーティチョーク 農家」で検索すると、私を紹介する記事が上位に表示されるというのも理由だと思います。
私は農作業の時、黒いシャツにカーゴパンツ、海外ブランドの長靴というスタイルを徹底しています。これが注目されて、「作業着」がテーマの番組に出たこともあります。コーナーのタイトルは「後継者不足解消へ“おしゃれ”が農業を救う!?」。この時は、長靴、作業ズボンが主役でした。
番組内で「なぜそれを身に着けているのですか?」という質問に「機能性を追求した結果、こうなりました」と答えたのですが、結果的にそれが私の特徴となったわけです。
農家の作業着は、普段着のお古であったり、中学生の息子のお古のジャージだったり、汚れてもかまわないものが優先されていませんか。
野菜も作業着も同じことが言えますが、多くの農家と似たようなことばかりですと目立つのは大変です。
気を付けるべきこと
テレビの取材は、時間が取られ準備が大変だと思っておいたほうがよいです。2022年5月はアーティチョークがテーマで3回ほど情報番組に出演しました。ある生放送に出演するまでの流れです。
- 放送日の約1カ月前、担当者からお問い合わせフォームに取材依頼が入ります。
- 放送日2週間前に担当者から電話で取材内容について質問されます(この時点で取材されるか確定はしていません)。
- 放送1週間前、スタッフ数人が1回目のロケハン(下見)に来ます(この時点で取材はほぼ確定、撮影日も決まっています)。
- 放送前日、2回目のロケハン。中継車とスタッフが畑に来て電波と本番の段取り確認。
- 前日の夜、本番に向けてアーティチョークの料理を準備。
- 当日、放送の約3時間前に畑集合、台本を渡されます。
- リハーサルを4~5回。
- 本番(わずか3分30秒)。
- 撤収。
本番に向けて、電話での対応、2回のロケハンと事前に料理の準備。この番組は、食材費を払ってくれましたが、基本的に情報番組はギャラが出ません。数分の放送のためにこれだけの準備が必要となります。
5月に放送された朝の情報番組は、畑に未明の3時集合で、終了は8時でした。
ゴールデンタイムに放送されるバラエティー番組に出演した際はギャラをもらったことがあります。しかし、担当者からギャラについての話はほぼありません。勇気を出して、「出演料は?」と聞くことをおすすめします。
テレビに出始めた頃、出させてもらえる立場という思いが強く、ギャラの話はできるはずもありませんでした。「SMAP×SMAP」という国民的バラエティー番組の特番に出た時もギャラはありませんでした。この時は、「SMAPと一緒に仕事ができるなんて1000万円払っても無理だから」と、お金では買えない価値を自分なりに優先させていました。
テレビの場合、放送後に問い合わせが入ることがあります。普段の事務仕事もありますので、その対応は大変だと思っておいてください。
それに対して、雑誌やネットメディアの取材はメールでやりとりをし、一度だけ畑で取材をして終わります。ギャラに関しては、出る場合と出ない場合がありますので確認することは必要です。
雑誌やネットメディアは校正が入るので、その記事を確認できますが、新聞はそれがありません。もしかすると、都合の悪いことも書かれているケースもあるかもしれないので注意が必要です。
先ほども書きましたが、「もう二度と出たくない」と断る人の気持ちがわからないでもありません。準備も大変ですし、その後の問い合わせの対応にも時間を使います。
一方で、メディアに出ることは簡単ではありません。取材元からあなたにオファーがあったら、それは自分のしてきたことが認められた証と考えてみてはいかがでしょうか。あるいは、軽い気持ちでこれも何かのご縁と思ってやってみるのもありだと思います。普段、畑で作業しているだけでは経験できないことは意外と楽しいものです。それがきっかけで仕事につながる可能性もあります。もしかすると、テレビで見たことのある有名人に会えるかもしれません。
情報の発信をしても、確実にメディアに出られるわけではありません。仮に出られたら、そのことを自分の農園のメリットとして情報を発信することが必要です。一度出たらまた出たくなる人もいるでしょう。しかし、出続ける努力はもっと大変です。