■西原順一郎さんプロフィール 通称、順ちゃん。愛媛県松山市の興居(ごご)島からフェリーで約10分ほどの島でアボカド栽培をしている。1980年から興居島でかんきつを40年以上ほど栽培しているが、アボカドに魅了され、2008年からかんきつ園地を徐々にアボカドへと切り替えている。これから数年かけて、120アールの園地全てをアボカドにする予定。 |
熱帯原産のアボカドは、耐寒性があり寒さに強い!
2022年のゴールデンウイーク。冬が抜け、太陽も高さを取り戻し、興居島も春草や野花に包まれていた。早速、順ちゃん農園に足を運び、アボカドに冬の寒さの害が出ているのかどうか確認しに向かった。園地は全く立ち枯れがなく、とても立派なアボカドの木々が立ち並んでいて驚いた。
アボカドは、熱帯もしくは亜熱帯性の果樹である。原産地が南北アメリカをつなぐ中央アメリカという場所であり、そこにはグアテマラやパナマ、コスタリカなどの熱帯の国々が位置する。アボカドは、一見寒さが苦手だと思われるが、実は耐寒性が高い品種があり、日本の冬でも場所によっては十分に耐えられる。順ちゃんに今年の冬の寒さで枯れた木はあるのか聞いてみた。
「昨年から、愛媛県の興居島の露地園地では、冬の寒さで枯れた木は一つもないよ。露地栽培でも品種の選定や、栽培のポイントなどをしっかり守れば十分に育つよ!」ということである。
まずは耐寒性のある品種を選ぶ!
「冬の寒さで枯れたものは一本もないけど、やはり露地栽培をする上では、耐寒性のある品種を優先的に育てることが大切だよ!」と、品種選びの大切さを熱弁する順ちゃん。
アボカドの品種は1000を超えると言われており、多種多様な特性を持つものが存在する。大きく3種類の系統とそれらの交雑系統に分けられ、それぞれ耐寒温度が異なる。
系統 | 耐寒温度 | 主な品種 |
---|---|---|
メキシコ系 | マイナス4~6℃程度 | メキシコーラ、ウインターメキシカンなど |
グアテマラ系 | マイナス2℃程度 | ピンカートン、ハスなど |
西インド諸島系 | 0℃程度 | カビラ、プーラビーダなど |
それらの交雑系 | 品種によって異なる | ベーコン、フェルテなど |
中でも、メキシコ系やそのメキシコ系の遺伝子を持つ交雑系は耐寒性が極めて高い。メキシコーラやウインターメキシカンと呼ばれる品種はマイナス6℃前後まで耐寒性があり、またメキシコ系とグアテマラ系の交雑種であるベーコンは、マイナス4℃前後まで耐寒性がある。
植え付け場所の最低気温を把握して品種を選ぶ
アボカド栽培を始めたいと考えている人は、まず植え付け場所の最低気温を把握することが大切だ。順ちゃん農園がある松山市の年最低気温は、気象庁発表の1991~2020年の平年値によると、1月下旬から2月上旬の2.1℃が最低であり、アボカドの栽培が十分可能である。
「瞬間的には、マイナス温度になったり、まれに多少積雪する日もあるけど、それでも枯れずに春を迎えるよ。あと、同じ園地でも、場所によって寒気がたまりやすくて危険だと思うポイントもあるから、そういうことも把握して植え付け場所を考えているよ」(順ちゃん)
やはり、植え付け場所の選定も大事である。また、耐寒性のある品種を選ぶことや、もしくは、接ぎ木をする際にベーコン種などの耐寒性が高い品種を台木に使っていることも大事である。
植え付け場所は、水はけの良い傾斜地が良い!
「僕らの園地では、程良い傾斜があり、水はけが良いので、根腐れで木が枯れたことがない。ミカンの育つ場所では、アボカドは問題なく育つよ。しかも、こういう山に植えると、頂上まで行くとビーチも見えるから、気持ちええやろぉ」と順ちゃん。
アボカドは、果樹の中でも根が浅く、酸素要求量が高い。そのため、水がうまくはけないような場所では、根腐れにより枯れてしまうリスクが大きくなる。順ちゃん農園では、もともとかんきつが植えられていた斜面のある場所でアボカドを栽培しているため、土壌に水が滞留せずに、きちんとはけてくれる。そういった意味でも、山の中にアボカドを植えるのは、効率的であると思われる。順ちゃん農園では120アールの広さの山地に植えられているのだが、傾斜がきついところもあり、まるで登山であった。
草を生やし、土をむき出しにしない
傾斜地で栽培する際には、気をつけていることもあると順ちゃんは言う。
「除草剤などを一切使わずに、意識的に草を生やして、アボカド園地を草で覆うようにしている。草を刈るときも、ある程度高刈りをして5センチ程度は残す。このグランドカバーによる効果は大きいよ。例えば、地温の急激な変化を抑えるし、生態系を守り受粉虫などがすみやすいようにする。それに、土の流亡を防ぎ、木の転倒などを防いでくれる。僕ら人間も歩きやすくなるよ」
確かに、傾斜地こそ下草を利用する草生栽培は理にかなっていると感じた。筆者が訪れたゴールデンウイークは、ちょうど松山市でのアボカドの開花の時期で、ハチやハエなど多くの送粉昆虫が飛んでいた。これもグランドカバーなどの効果が大きいという。青々とした草の上を小さな昆虫たちが飛び交い受粉する様子を見て、とても癒やされた。
冬の寒さよりも夏の乾燥の方が大変である!
毎年立派に花を咲かせ、安定して多くのアボカド果実を生産している順ちゃん農園だが、実は枯れてしまうリスクは、冬ではなく夏の乾燥にあると言う。
「毎年、冬は枯れないけど、夏の強い日差しで、いくつか樹勢が弱ってしまったり、枯らしてしまったりした経験がある。だから、夏に数日雨が降らない日などには、スプリンクラーやホースでのかん水をしているよ」(順ちゃん)
アボカドは熱帯の植物であるが、乾燥や直射日光には弱いため、夏場はとにかく積極的なかん水をした方が良いとのこと。さらに、アボカドは落葉するサイクルが1年未満と早く、一時的に全体の葉の量が少なくなってしまう時がある。大体は、冬や花が多く咲いてしまった時などに葉が落ちるが、その時も、強い日差しで枝や幹が焼けることがある。日焼けがひどいと枯れ込んでいくことがあるため、そうなった場合、順ちゃん農園では、黒いシートを枝に巻き、枝焼けを防止している。
順ちゃんによれば「シートを枝に巻く方が楽で良い」とのこと。「日焼け対策として、まれに白色の水溶性ペンキなどを活用する方もいるかも知れないが、あれは塗るのに手間がかかりすぎる。おすすめはしない」
露地栽培の天敵「カメムシ」の防除!
アボカドの天敵といえばカメムシだ! このカメムシに吸汁加害をされたら、果肉に硬い石ころのような芯が入り不快である。傷痕によっては、追熟もうまくいかない場合があり、カメムシの加害は最も避けなければいけない問題である。
愛媛県では、ツヤアオカメムシと呼ばれる緑色の丸っこいカメムシの被害が特に多い。露地栽培でアボカドを育てる場合は、今のところ袋がけが必須だ。アボカドは、成長するとある程度大きくなるため、順ちゃん農園ではブドウ用の袋を活用している。ただし、縦に長くなるピンカートンなどの品種では、たまに袋を突き破るため、マンゴー用の袋などがあれば、問題ないだろう。 筆者は、写真のようなマンゴー専用の袋を代用している。
アボカドの袋がけは、うずらの卵大ほどになると始めるが、実は二つ懸念点がある。
一つは、生理落果で多くの果実が落ちるため、その分の袋が無駄になってしまうということと、もう一つは、白い袋だと中身の確認が大変だということである。
これについて、順ちゃんは「生理落果はアボカドの性質上仕方ないが、袋の材料などはこれからいろいろなもので検討する価値がある。こういう白い袋ではなくて、太陽光があたるような材質であれば、もしかしたら味質が良くなるのかもしれない。現在のやり方は最適ではないと思う」と語る。
露地栽培の苗作りは「タネの直まき」!!
順ちゃん農園ではタネから苗づくりも行っており、その方法は理にかなっている。ポットで育苗をせずに、直接園地にタネをまくのだそうだ。このタネは自分の園地から収穫したベーコンなどの耐寒性の高い品種を活用している。タネのじかまきによって、植え替えの手間が省けるし、また移植の際の枯れ込みを防ぐことができる。
「アボカドは特に根が繊細で、移植を嫌うという特徴があるから、根鉢などを壊さずに植え付けを行うことが基本なんだけど、それでも移植の際に枯らしてしまったという経験のある方も多いと思う。そういう方は、ぜひじかまきを試していただきたい。ただし、移植を嫌うので、一度植え付けた場所から動かさないという意志のもとでタネをまいてほしい」(順ちゃん)
アボカドの露地栽培はとても難しいと考えている人も多いと思うが、品種や植え付け場所などのいくつかのポイントを守れば栽培は可能である。順ちゃんも筆者も、もっと多くの人にアボカドを栽培してほしいと考えており、国産アボカドが当たり前のように流通する未来を作りたいと強く願っている。
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