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草刈りロボットが農業現場で活躍? 梨農園での活用方法を聞いてみた!

鮫島 理央

ライター:

草刈りロボットが農業現場で活躍? 梨農園での活用方法を聞いてみた!

雑草は農家の頭を悩ませるものナンバーワンと言ってもよいでしょう。神奈川県の川崎市で農業をしている僕も、夏は草刈りが日課のようになっています。これさえなければ農業がもっと楽しくなるんだけど……。そう思っていたら、近所にある梨園では、重労働である除草作業を草刈りロボットに任せているとの情報を入手! しかも充電は太陽光発電パネルによって賄っているといいます。草刈りロボットで農業が楽になるのか、現場を取材しました。

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実証試験中の草刈りロボット

除草管理は農家にとって大切な仕事のひとつです。雑草は病害虫の発生源になりかねませんし、とくに気温の高い夏はすぐに雑草が生い茂ってしまい、見た目にもよくありません。

それに夏の除草は重労働。炎天下で重たい刈払機や噴霧器を持って除草するのは精神的にも、肉体的にもかなり大変です。そんなキツい仕事である草刈りを肩代わりしてくれる存在が、草刈りロボット。

現在、NTTデータ経営研究所や神奈川県農業技術センターが参画する研究グループが神奈川県の農家とともに、都市農業におけるスマート農業の実証実験の一環として、草刈りロボットの実証試験も行っています。

まだ試験中とのことですが、現在の使用感やシステムなどを、川崎市にある川名梨園の農園主である川名徹(かわな・とおる)さんと、父の昇(のぼる)さんに聞きました。

川名さん親子

左が川名徹さん。右が昇さん

導入のきっかけはチャレンジ精神

──農園の草がすごく奇麗に整えられていますね。人力でここまで草の高さをそろえるのは難しそうです。

ありがとうございます。草刈りロボットが毎日自動で草刈りをしてくれているおかげですね。刈り取る高さを自分で調整することができるので、奇麗に長さをそろえて管理することができています。

草丈管理

──草刈りロボットはまだ農家にとって身近な存在ではないと思いますが、どうして除草管理に使おうと思ったのでしょうか?

もともとジョイント栽培など、新しいことに挑戦していました。その関係でお世話になっていた農業の指導員の方に、「ロボット草刈り機を試してみないか」と実証実験に誘われたことが導入のきっかけです。まだ試験中なので、毎月データを送らなくてはいけないのですが、ジョイント栽培でデータをとって送ったりすることには慣れていたので、じゃあ導入してしまおう、と思いチャレンジしました。

ジョイント栽培

ジョイント栽培の様子。主枝の先端部を隣の木の枝へ接ぎ木し連結させ、直線状の樹形に仕立てる「樹体ジョイント仕立て」による栽培方法。収量アップ、管理作業の省力化が可能になる栽培方法とされている

──使っている草刈りロボットはこれですか?

はい。ハスクバーナ社製の「オートモア450X」です。本来は芝刈り用に開発されたものだそうです。

ロボット全体

ご高齢の昇さんでも持ち上げることができるほどの重量しかない

──草刈りロボットというともっと大きなものをイメージしていました。しかもエンジン式ではなくバッテリー式なんですね。草刈りというとエンジン式の刈払機のように出力が必要になる印象ですが、性能は十分なのでしょうか?

見ての通り、サイズ自体は小さめです。エンジン式だと、どうしてもエンジンを載せるスペースの分機械が大きくなりますし、作動音も大きくなってしまい、うちのような住宅街の農園だと近所に気を使います。それに機械が大きいと、樹間の狭い梨の木の下を除草できなかったりしますし、このサイズがいいですね。

うちで使っている草刈りロボットはハスクバーナのロボット製品のなかでもかなり高性能なモデルです。雑草の草丈が長いとエンジン式のように大きな出力が必要になりますが、このロボットは毎日自動で草刈りをしてくれるので、そこまで大きな力は必要ありません。十分な性能ですよ。

──なるほど! 住宅街の中に農園がある都市農業という環境だからこそ、騒音に気を使う必要があるんですね。確かに僕も除草剤を散布するときは周りの住宅に飛び散らないように気を使いながら行っていますし、刈払機を使うときは時間帯にも注意しています。そういったことに対する労力を省けるのはありがたいです。

PINコード

盗難防止のため、一度持ち上げるとコードを入力する必要がある

草刈りロボットの電源は太陽光パネル

──ロボットの充電はどうしているのでしょうか? 毎日のこととなると結構手間かなと思うのですが。

ロボットはバッテリーがなくなってくると自動でチャージステーション(ロボットの充電場所)に帰還するようになっています。うちでは朝の8時にロボットが草刈りにでかけて、だいたい夕方の5時くらいまで仕事をしてくれます。

ステーション

チャージステーション。雨よけはお手製だという

──電源はどうしているんですか?

太陽光パネルで発電した電気を使っていますよ。今回の実証実験の内容に、再生可能エネルギーからの給電というのもあるんです。

──太陽光パネルですか! なんだか近未来的ですね。

そうですね。でも天気の悪い日は太陽光発電ができないので、別の電源につないで充電する必要があります。それに、ロボットは満充電にならないと草刈りをしてくれないので、そこがちょっと不便ですね。

──太陽光発電を使うと環境に左右されてしまう面もあるということですね。

太陽光パネル

太陽光パネルで発電し、充電を行う

──農業経営者として気になるのはコスト面なのですが、川名梨園さんの場合、どのくらいかかりましたか?

やはり安い買い物ではないです。草刈りロボットだけでなく、ロボットの可動範囲や動線を決めるために専用のワイヤーを敷設する必要があり、そういったことにもコストがかかります。
さらにうちの場合は太陽光パネルも別途設置しているので、合わせて100万円を超えました。

境界線

ガイドワイヤーの境界線。地面に敷設されているためワイヤー自体はわからないようになっているが、ロボットは境界の外に出ないようになっているので、雑草が残っている

──コストパフォーマンスを考えると、自分の農場に合ったものなのかしっかりと考える必要がありそうですね。

草刈りロボットの長所と短所

草刈りロボットのいいところ

──実際に使ってみて、導入して良かったなと思う点はありますか?

やはり梨園を奇麗に管理できるという点ですね。除草するという点のみで考えた場合は、除草剤や刈払機、防草シートなどもっと簡単で安く手っ取り早い方法があると思います。

しかしながら、梨をおいしく健康的に栽培するために、うちでは天敵昆虫を導入しているので、ある程度の雑草は必要になってくるんです。雑草には梨の害虫を食べてくれる土着の虫もすみ着いていますし、やはり全てを刈り取るわけにはいきません。こういったケースの場合、自分で刈り高を調整でき、設定さえしてしまえば後は自動で草を刈ってくれるロボットはかなり便利です。

刃

草刈りロボットの刃。この部分を自分で調整することができる

──IPM(総合的病害虫・雑草管理)の観点で有用だったということですね。天敵昆虫を利用するためには、全ての雑草を根こそぎ除草するわけにはいきませんよね。できるだけ雑草は無くしたほうがいいと思っていたので、意外でした。ほかにも良かった点があれば教えてください。

スマホのアプリでロボットの現在位置や通ったルートがわかるようになっているので、どのくらいの働きをしたのか目で見てわかりやすくて便利です。

アプリ

専用アプリで軌跡を確認することができる

草刈りロボット、使用時に気を付けていること

──では、草刈りロボットを使うときに気を付けなければいけないことはありますか。

雨が降った後など雑草が湿っている場合、刈り取った草がロボットの裏に張り付いてしまいます。ロボット自体は防水ですが、水洗いができないので、毎回手で取り除いています。

──草が濡れているときは注意が必要ですね。他にはありますか?

土が露出している場所を通ってしまうと、タイヤが土で滑ってしまい、ロボットが自力で抜け出すことはできなくなります。ロボットが動けなくなっていないか、定期的に専用アプリを見て状態を確認するようにしています。

土部分

こういったちょっとした土でも注意が必要だという

ロボット草刈り機を活用するには

──お話を聞いていると、草刈りロボットは野菜の露地栽培などよりは果樹栽培の現場に向いているように感じました。

そうですね。うちで使っている草刈りロボットの場合は、地面にガイドワイヤーを敷設しなくてはいけません。また、土にはまってしまうこともあるので、頻繁に地面を掘り返す必要のある野菜などの圃場(ほじょう)では、まだ使いにくいと思います。現状ではやはり梨園のように、ある程度の雑草が茂っている必要のある果樹園でこそ、活躍できるのではないでしょうか。

この取り組みは試験中の状態です。これからどんどん改善していって、多くの農家が導入できるようにコスト面も下がっていけば、農業において大きな役割を果たすことができる存在になると思っています。

──草刈りロボットが梨農家以外の多くの農家にとって身近な存在になってくれるとうれしいですね!

地面の下に埋まっている

この地面の下にワイヤーが埋まっている

除草手段の新たな選択肢として、ロボットの未来に期待

僕が取り組んでいる都市農業は、サラリーマンや他の仕事をしながら畑を管理している兼業農家も多いです。より省力的で時間を効率的に使うことができるようになるロボット草刈りは忙しい農家にとって、大きな役割を果たしてくれるようになると思います。

なおハスクバーナ社によれば、草刈りロボットは初期費用は掛かりますが、ランニングコストは低く抑えられるそう。太陽光発電パネルを設置しない場合、3~4年でコスト回収が見込める想定とのことでした。

農業を次の世代に残していくためにも、僕たちは新しいカタチの農業を模索しなくてはなりません。太陽光パネルによって発電し、自動ロボットで省力化を図りながら除草を行うというこの取り組みはまだ始まったばかりです。ゆくゆくは需要や環境に合わせて形を変えながら、ロボットが身近な存在になっていくかもしれません。

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