中国の輸入急増で栽培を決断
中森農産の農地面積は約180ヘクタール。品目はコメと麦、大豆、そして新たに植えたトウモロコシ。二毛作も手がけているため、栽培面積は合計で230ヘクタールに上る。そのうちトウモロコシは20ヘクタールを占める。
中森さんは東京農大を卒業後、青果店などの経営を経て2017年に中森農産を設立した。自ら農産物をつくることにしたのは、そのほうが「日本の食料問題に貢献したい」との思いを実現できると考えたためだ。
コメや麦を選んだのは広い農地の保全につながるからで、就農からわずか数年のうちに国内で有数の経営規模に達した。しかも拡大はいまも続いており、2022年は21年の当初面積と比べて約30ヘクタール増えた。
2月下旬に始まったロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、小麦やトウモロコシなどの国際相場が急騰した。両国が穀物の主要な輸出国だからだ。だが中森さんはその少し前から、飼料用トウモロコシの栽培を考え始めていた。
理由はここ数年、中国がトウモロコシの輸入を急増させている点にある。
中国税関総署によると、同国のトウモロコシの輸入は2019年までは年500万トン以下で推移していた。ところが20年に突然1130万トンになり、21年には2835万トンに急増した。これにより、これまでトウモロコシの主要な輸入国だったメキシコや日本を抜き、一気に世界最大の輸入国になった。
輸入急増の原因は、中国の食料政策の転換にある。政府が国産を高値で買い入れ、増産を促してきた政策を16年に改め、輸入が増えるのを容認し始めた。人件費が上がり、輸入物と比べて割高になったことなどが背景にある。
「中国の輸入の増加ペースが尋常ではない。一年でも早く栽培を始め、ノウハウを蓄積することが重要だ」。中国の動きをみてそう判断した中森さんは、飼料米の販売先の養鶏場にトウモロコシが必要かどうかを打診した。「ぜひ」という反応を受け、栽培することを決めた。2月初めのことだ。
ウクライナ危機はその直後に起きた。もともと中国の需要の急増で上がっていた国際相場は、侵攻を機にさらに急カーブで上昇し始めた。中森さんは「これから穀物の奪い合いになったとき、どこが割を食うか。中国が強大な購買力で買いつけ、日本が影響を受けてしまうリスクがある」と強調する。
異なる畑の状態と肥料のバランスを比較し、最適解を探す
20ヘクタールという栽培面積は、2つの点を踏まえて決めた。まずこれ以上大きな面積で始めると、栽培がうまくいかなかったときに経営に与える影響が大きくなる。一方で面積があまりに小さくて生産量が少ないと、栽培や輸送が本当にうまくいくかどうかを確かめるのが難しい。