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ハウスで作る国産アボカド! 初心者におすすめの理由と栽培のコツ

ハウスで作る国産アボカド! 初心者におすすめの理由と栽培のコツ

筆者の運営する「アボカドパーティー」というコミュニティーには、アボカドを栽培している人や興味・関心がある人が、全国で60人在籍している。今回は、そのメンバーの中でも香川県で国産アボカドの産地化を目指し、大規模にアボカドの栽培をしている株式会社アンファームの橋本純子(はしもと・じゅんこ)さんらを訪ねた。代表の安藤数義(あんどう・かずよし)さんを交え、アボカドのハウス栽培の良いところや大変なことなどを聞いてきた。

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四国でアボカド栽培! 露地とハウス両方で栽培しているからこそ分かること

香川県三豊市の山間地にあるアンファームは、元々竹やぶだった山地を開墾し、露地とハウスの両方でアボカドを育てている。筆者は沖縄でアボカドの露地栽培を行っているが、ハウスでの栽培経験がない。本土でのアボカド栽培は、育てる場所や品種によっては露地でも可能ではあるが、一方で、ハウス栽培ならではのメリットも多く存在するはずである。そのため、露地とハウス両方のスタイルで栽培しているアンファームだからこそ分かる利点や大変さにとても興味があり、取材に訪れた。

■株式会社アンファーム(安藤果樹園)プロフィール

右から、アンファーム社長の安藤数義さん、妻の祐子(ゆうこ)さん、果樹園担当社員の橋本純子さん

香川県三豊市で熱帯果樹の生産・加工・販売を行う。社長の安藤数義さんが2010年に立ち上げ、マンゴーの栽培から始め、現在はアボカドやパッションフルーツなど多くの果樹も栽培している。生産した果実は、妻の祐子さんがとりしきる自社店舗で生果や加工品として販売。社員の橋本純子さんは、2016年に入社し果樹園を担当している。アボカドパーティーでも良質な情報発信をしているキーパーソンの一人。

初心者は、まずはハウス栽培がオススメだ!

アボカド園地入り口にいる“園地受付係”、ヤギのジンくん

春の暖かさが気持ちいいゴールデンウイーク、山の中でアボカドを栽培するアンファームの園地を訪ねた。園地受付係のヤギのジンくんに入園手続きの挨拶を済ませ、さっそく橋本純子さんと社長の安藤数義さんに園内を案内してもらいながら、アボカドのハウス栽培について聞いた。

アボカドの露地栽培(中央から左)とハウス栽培(右)

「アボカドの場合、ハウス栽培の方が失敗が少ないと感じるため、全くの初心者さんにはハウス栽培をオススメしています」と橋本さん。「うちでは露地とハウス、どちらでも栽培をしているので、ハウスで得られる恩恵や手をかけなければいけないことなど、栽培のコツをそれぞれ紹介していきますね」

アボカドを育てるハウスの中の様子。橋本さんと筆者

露地でも十分にアボカドが栽培できる沖縄と違い、本土ではやはり、場所によって寒害や雪の影響で枯れてしまうものも少なくないはずだ。橋本さんは、ハウスがあるのであれば、それを活用してアボカド栽培を始める方が良いという。
「うちは無加温でアボカドの栽培をしてますが、ビニールハウスがあれば、雨や風、冬の低温や雪などから物理的に守られているため、枯れる心配が減ります。ぜひ利用して育ててもらいたいです! あと、ハウスを建てるのもそんなに難しくないです」

アンファームのビニールハウスの材料のほとんどは、よそでいらなくなったものを自ら解体することで無料で譲り受け、それらをリユースしている。さらに、組み立てなども橋本さんをはじめ、園地スタッフで行うという。

「ここに入社して、初めてハウスを建てる作業をしたときに、『ここ、どうしたらよいですか?』と安藤社長に聞いたら、『ハウスはその辺にいっぱいあるんだから見て考えろー!』って言われて……。必要なところでは適切な助言をいただいてますけど、基本は甘やかされず、自分達でできるようになってきました。必要な修繕なども自分達で全てこなしています」(橋本さん)

ハウスを建てるときには注意が必要

アボカド栽培でのハウスの重要性を語る安藤さん

栽培以外のさまざまな作業もこなす百姓さながらの橋本さんや、笑顔の素敵なスパルタボス安藤さんもハウスの重要性を特に感じている。ハウスを建てるのは難しくないが、“どう建てるのか”というのは難しいと安藤さんは言う。
「ハウスを建てるときは、ハウスの向きが大切です。方角や立てたい場所の地形を深く理解する必要があります。日本は北半球に位置するので、太陽が東から登り、南側を通って、西に沈んでいく。だから南側に立てると日当たりが良くなります。南側のハウスだと日が満遍なく当たるので、生育が良いことが多いのです。地形によっては風が通る方向もある程度決まるので、この辺をうまく利用すると、夏の換気も楽になります。ビニールハウスは一度建ててしまうと、向きの変更が難しいので、この辺は建てる前に十分考えておく必要があります」

アンファームのハウスは無加温なので暖房費はかからない。維持費としては、4年に1回程度ビニールの張り替えが必要なくらい。ただし無加温でも冬の寒さの対策のため、ビニールを二重構造にして断熱空間を作っている。

アボカドをハウスで育てるメリット!

ハウス栽培のメリットを語る橋本さんと筆者

橋本さんに、なぜ露地栽培よりもハウス栽培の方がオススメなのか聞いたところ、大きく分けて以下の利点があると言う。

  • 耐寒性の低い品種など、多くの品種が栽培できる。
  • 雨風が当たらないので、病気や傷が少ない。
  • 花が1カ月ほど早く咲くため、果実が樹上にある期間が長い。
  • キュークアボカド(種が入らなかったアボカド)なども落果しにくい。

それぞれを詳しく聞いてみた。

耐寒性の低い品種など、多くの品種が栽培できる

多くの品種が栽培されているハウス内

耐寒性が低いため露地では多少心配のある品種も、ハウスだと栽培することが可能である。アボカドの品種には大きく分けてメキシコ系、グアテマラ系、西インド諸島系という3つの系統とそれらの交雑種がある。中でもメキシコ系やメキシコ系の遺伝子を持つ交雑種の耐寒性が高く、マイナス6℃まで耐えられる品種もあり、それらが本土でも露地で栽培されている。ただ、グアテマラ系では耐寒温度がマイナス2℃程度、西インド諸島系では0℃程度と、日本の冬の露地では枯れる心配があるものが多い。

系統 耐寒温度 主な品種
メキシコ系 マイナス4~6℃程度 メキシコーラ、ウインターメキシカンなど
グアテマラ系 マイナス2℃程度 ピンカートン、ハス、リードなど
西インド諸島系 0℃程度 カビラ、プーラビーダなど
それらの交雑系 品種によって異なる ベーコン、フェルテ、ミゲル、ヤマガタ、グリーンゴールドなど

「露地では、ベーコンやウインターメキシカンなどの耐寒性品種を育てていますが、無加温のハウスでは、西インド諸島系の品種のカビラ種や、グアテマラ系の品種のリード種なども枯れずに立派に生育しています! 他にも、耐寒性が心配なミゲルやヤマガタ、グリーンゴールドなどもハウスで栽培しています。ハウスなら、多品種のアボカドを育てることができます」(橋本さん)

雨風が当たらないので、病気や傷が少ない

ハウス栽培の場合、雨や強い風から遮断されるため、病気や果実の傷も減らせるという。
果実の傷が少なく、さらに、果実の表面を守るブルームも落ちず、きれいな状態に仕上がる。

橋本さんは「ハウス栽培の一番の効果は、炭疽(たんそ)病の予防です。雨が直接果実や葉っぱに当たると、カビが原因で炭疽病になり、果実を腐らせてしまいます。直接雨に当てないことで、炭疽病をかなり抑えることができます。また、ベーコン種などの皮の薄い品種なども、育ちが良いです」と説明する。

花が1カ月ほど早く咲くため、果実が樹上にある期間が長い

アボカドの幼果の前で写真を撮る筆者

アンファームのアボカドは、露地栽培よりもハウス栽培の方が1カ月程度開花が早い。無加温でもビニールを張るとハウス内の温度が上がり、早く開花するようである。筆者が訪れた5月は、露地の花は数えるくらいしか咲いていなかったが、ハウスの中はすでに咲き終わり、結実したものも見られた。もちろん品種間の差はあるが、同じ品種だと、1カ月程度は早いようである。また早くに結実するため、果実が木の上に残る時期が長い。ピンカートンなどのグアテマラ系では長く木の上に置けるが、木に置けば置くほど油分の含量も増え、濃厚な仕上がりになる。

つい先日まで木の上に残っていたというリード種。アンファームの店舗で販売されていた

キュークアボカドなども落果しにくい

アボカドは、かなり生理落果が多い果樹である。そのため、たくさんの花を咲かせ、たくさんの果実をならせるという性質を持ち合わせている。露地栽培だと、雨風の影響などもあり、幼果の生理落果も多い。また、受粉がうまくいかず種が入らなかった「キューク」と呼ばれる小さなアボカドも露地栽培だと多くは落果するが、ハウス栽培だと、かなり木の上に残っていたことが確認された。

橋本さんによると「キュークはサイズは小さいが種も入ってなくて食べやすい」とのこと。「まだ商品には出していないけど、今後、人気も出てくるんじゃないかな。味も変わりなくおいしくて満足しています」

アボカド栽培で大変なこと

アボカドに囲まれる橋本さん

逆に露地栽培と比較して、ハウス栽培で大変なところはあるのだろうか。その点についても詳しく聞いてみると、次のようなことが特に大変だと言っていた。

  • 夏場は、暑くなりすぎる。
  • 枝が混み合うと、病害虫が蔓延(まんえん)する危険性がある。
  • 高さを大きくできないため、剪定(せんてい)するか捻枝が必要。
  • 風通りが悪くなりやすいから、強めの剪定を入れることもある。
  • 雨水が当たらないため、水やりが必要。
  • 受粉用の昆虫を培養しなければいけない。

以下に詳しく説明する。

夏の暑さ対策と、剪定作業など

屋根や両サイドのビニールは手動で開くようにしてある

冬場の低温から果実を守ってくれるハウスだが、逆に夏場は温度が上がりすぎて大変なこともある。そうなるのを防ぐために、暑いときにはハウスのビニールは巻き上げて、風が通るようにしてある。

さらに、病害虫が蔓延してしまうと大変なため、風通しが悪くならないよう露地よりも積極的な剪定をして、枝や葉が混み合わないように気をつけている。また、ビニールハウスの天井を突き破らないように、高さを下げる剪定をすることもある。もしくは、捻枝と呼ばれる技術を使って、枝を横方向に曲げたりすることもある。ハウスでは高さや空間の制限があるため、真っすぐ上に立つ直立タイプのものではなく、横に広がっていく品種なども栽培が楽であるという。

「アボカドは、ねじりながらゆっくり曲げていくと、折れにくく形を作りやすいです。またハウス栽培ではフェルテ種などの樹形が横に広がっていく品種も作りやすいです。すぐに大きくなると言われているアボカドも、一旦花が咲きだすと、木のサイズの成長も緩やかになって管理がしやすくなります」(橋本さん)

横に広がるフェルテ種の様子

夏場の水やりと、開花時期のハエ培養

ビニールハウスの場合は、積極的なかん水と、受粉昆虫のハエの培養が必要になる。

「露地のアボカドは、かん水は雨天に任せて大丈夫だけど、ハウスの栽培では積極的にかん水をする手間がかかります。もちろん、日照りが続くと、露地もかん水をする必要があるけど、基本的にはあまり必要がないです。また、ハウスでは開花時期に、ハエを培養する必要もあります。うちでは今年、鶏肉を使ってハエを増やしましたが、露地では自然にハエなどが寄ってきます。ハウスではメリットもあるけど、このように手がかかる側面もあります」と橋本さん。

ハウス栽培では、多様な品種が作れたり、炭疽病などの病気から守れたりと多くの利点があるものの、やっぱり手をかけるところはあるのである。ただ、それらやるべきことはあらかじめ分かっていることであり、忠実にこなすと、確実に果実の収穫までできるのがハウス栽培の魅力だ。ぜひ、寒さが気になる地域の人や、多くのアボカド品種を栽培したいという人は参考にしてほしい。

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