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生産者の手間を省き、買取価格もアップ 持続可能な農業を目指すブランドにJAが連携

生産者の手間を省き、買取価格もアップ 持続可能な農業を目指すブランドにJAが連携

51棟のビニールハウスでベビーリーフを栽培している山形県のヤマガタデザインアグリ。同社は生産だけではなく、販売などの商社機能も主要事業として展開している。商社事業で特に力を入れているのが、自社ブランド「SHONAI ROOTS(ショウナイルーツ)」である。地元生産者や地域JAなど、多くの事業体を巻きこんだ庄内地域のブランディングであり、同社の売り上げ1億2000万円(2021年度)の半分近くは他の生産者から仕入れた農産物が占める。同社取締役の田中草太(たなか・そうた)さんに詳しく話を聞いた。

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1日3000パック、100キロのベビーリーフを出荷

ヤマガタデザインアグリの本社兼作業場は、もともと全農山形が使用していた米倉庫である。国の備蓄米を保管しておくための建物だったが、近隣に最新の倉庫が建設され、遊休化するところを、同社が引き取って有効活用することになった。

ヤマガタデザインアグリ本社

ヤマガタデザインアグリが栽培しているベビーリーフはここでパック詰めされている。
計量、包装、金属探知を一貫して行える機械を導入し、スタッフ5~6人で分担作業をしている。機械を導入する前はスタッフが手作業で包装をしていて、1人1時間で45パックがやっとであったが、自動包装機を導入してからは1時間で最大1500パックが詰められるようになった。

出荷数は1日平均で3000パック前後、重量にして100キロ以上になる。
1パック当たり25~90グラムの間で7段階ほどの商品があり、一番発注が多いのは30グラムパック。ECサイト販売用に作った90グラム×14パックの商品も堅調に販売数を伸ばしている。

同社のベビーリーフは一般的なものよりもやや大きく生育させている。さらに、えぐみの元となる硝酸イオンの値が低く、糖度が高いことから食味もよく、消費者からの評判は上々だ。
また、抗酸化作用のあるビタミンCの値が高いため、スーパーで棚に陳列しても日持ちがいいと、小売店からの評価も高い。

ハウス1棟で約160キロ収穫できる

自社ブランド、ショウナイルーツ

ヤマガタデザインアグリは2019年に自社ブランド「SHONAI ROOTS(ショウナイルーツ)」を立ち上げた。自社生産のベビーリーフとミニトマトだけではなく、地域の生産者からも、ネギ、ダイコン、メロンなどの農産物を仕入れて販売している。

ショウナイルーツのブランディング

ショウナイルーツが扱うのは、有機栽培または特別栽培の基準を満たした農産物に限定している。

同社の農産物はすべて有機栽培基準(新設の農場以外は認証を取得)であるが、地域生産者には特別栽培まで間口を広げている。必ずしも有機JAS・特別栽培などの認証を取得している必要はなく、慣行栽培で使用される化学肥料・農薬(節減対象農薬)を基準値の50%以上削減し、かつ同社が指定する農薬を使用していなければ対象となる。

有機農業にハードルの高さを感じる生産者のために、特別栽培基準も含めることで参入しやすくし、少しずつ地域でレベルアップしていけるようにとの考えがある。

また持続可能な農業を目指す同社は、ショウナイルーツで扱う農産物の条件として、地域で調達できる有機資源を原料とする窒素肥料を使用していることも含めている。

同社は地場企業の未利用廃棄物を有機質資材として再利用する事業にも力を入れている。養豚農家と連携した完熟堆肥(たいひ)の製造や、キノコの廃菌床やもみ殻くん炭の活用に取り組み、それら資材は自社栽培で利用するだけではなく、ショウナイルーツで取引をする生産者にも施用を勧めている。今後はさらにカニ殻・エビ殻などの海産物、食品残渣(ざんさ)、下水処理汚泥を活用した肥料の開発・販売も進めていく計画だ。

ショウナイルーツのベビーリーフ

JAが販売・流通で連携

ショウナイルーツのもう一つの特徴として、地元JA(JA鶴岡、JA庄内たがわ)と販売・流通の面で連携している点が挙げられる。

農林水産省の資料によると、国内で有機JAS認証を受けている農産物は、農産物総生産量のうち、大豆が約0.6%、野菜が約0.5%、米・麦が0.1%程度など、わずかしかない(2019年)。一般論として、農産物の国内シェアの半数以上を占めるJAが取り扱う農産物の多くは慣行栽培によるものであり、有機栽培や特別栽培に取り組んでいる組合員の割合は少ないと考えられる。それら一部の農産物のために、付加価値を価格に上乗せして販売できる新たな販路を開拓することは難しいのが現状である。

そこでJA鶴岡とJA庄内たがわは、有機栽培と特別栽培に特化したショウナイルーツの販路を活用すべく、そうした一部の農産物をヤマガタデザインアグリに高単価で販売する形を取った。
JAとしては、有機・特別栽培を推進するというよりは、自社で取り組むことの難しい部分をヤマガタデザインアグリに任せることで連携したと言える。

一方のヤマガタデザインアグリとしては、JAがもともと持っている組合員や決済機能といった大きなネットワークや仕組みを活用できるメリットがある。

生産者の所得向上、新規就農者の定着といった地域が抱える課題への共通認識から、それぞれの強みを生かして補完していくことで合意したのだ。

ヤマガタデザインアグリ取締役の田中草太さん

生産者の手間を省き、買い取り価格もアップする

ヤマガタデザインアグリが本格的に農産物の生産販売を開始した2019年度の売り上げは1500万円程度だった。それが、翌2020年度には倍の3000万円、2021年度は3倍超の5200万円となった。さらに、地域農産物の仕入れ販売を行う商社事業も合わせると、2021年度の売り上げは1億2000万円にもなる。

同社の商社事業は、利益を上げることは当然だが、ビジネスで地域課題を解決するという目的もある。地域課題とは、一つは前述のように品質のいい農産物を高く販売することであり、もう一つは生産者が行っているよけいな手間を省くことである。

農林水産省の調査によると、生産者の労働時間の中で出荷調整や包装・搬出などの作業が全体に占める割合はけっして小さくない

調整、包装・搬出などの作業が大きな割合を占める(出典:農林水産省「野菜の生産・消費動向レポート」、赤枠は筆者追記)

「包装・搬出などの作業環境は当社が作るので、生産者さんにはできるだけ栽培に集中していただきたい」(田中さん)との考えから、地域の生産者はコンテナなどでバラのままヤマガタデザインアグリに納品できるようにした。

作業の手間が省けるだけではなく、買い取り価格でも生産者のメリットは大きい。ショウナイルーツで販売する生産者からも「満足いただけているのではないか」と、田中さんは言う。

収穫したベビーリーフは作業場でパック詰めされる(画像提供:ヤマガタデザインアグリ)

同社が一括して販売することに関しては、販売先にとってもメリットがある。有機・特別栽培の農産物はとりまとめて販売する会社が少ないため、多くは個人との契約となり、発注や精算などの手間がかかる。それが同社が取引窓口になることで一本化できるため、仕入れ業者にとっても業務の効率化につながる

「パッケージの発送や発注の仕方など、生産者さんごとに異なる対応をしなければならなかったので、一本化によって手間が省けて助かると、喜んでいただけています」(田中さん)

どんな生産者に声をかけていったのか

2022年6月時点で、ヤマガタデザインアグリの販売先は40社以上ある。そのうちネットスーパー、仲卸、生協、地元のスーパーが主要販売先となる。仲卸業者の先にある小売店などを含めると、100軒ほどの店舗・ECショップでショウナイルーツの商品が購入できる。

「農業部門を開始して、最初の売り先は地元の直売所でした。直売所のご理解を得て、1日10パックくらい販売させてもらうという感じでした」と田中さん。その後、生産技術や施設の増設などを進めながら、地元のスーパーに置いてもらえるよう地道に営業まわりをして販路を探していった。

ターニングポイントとなったのが、大手ネットスーパーとの取引が決まったことだった。現在ではヤマガタデザインアグリの大きな販売先となっている。

初めは田中さんの大学時代の友人がそのネットスーパーに勤めていたことが商談のきっかけだった。「そこで扱う商品は、栽培基準、規格、品質などが非常に厳格で、われわれもかなり鍛えられました。友人の紹介がきっかけとはいえ、信頼を得られるように努力しましたね」

一般的に有機栽培や特別栽培に取り組む生産者は、大きなロットを求める卸業者などと取引をするには量が不足し、独自の販路を開拓する時間も持てないため、地元の直売所で販売することになる。

直売所に並ぶ農産物は、販売価格が安めに設定される傾向にある。有機栽培の米・野菜であっても、会員同士の目も気になるせいか、他の会員と同じか、少し高いくらいの価格設定をしてしまう。

同社は徐々にそのような生産者からも声をかけられるようになり、ショウナイルーツで扱う品目の増加につながっていった。

販売事業担当の田中さんだが、立ち上げ当初は現場で生産に携わっていた

「有機食品の消費者ニーズは年々高まっています。にもかかわらず生産者さんが減っている。需要と供給のギャップが広がっている状態です。そういう意味では、今後も適正価格で提示できる状況がしばらくは続くと考えています」
そう話す田中さんは、いい農産物を作っている生産者をまわり、販売価格の適正化に取り組んできた。自社商品のブランド化ではなく、地域のブランディングこそがショウナイルーツの目的であり、強みだからである。

次回記事では、JAや生産者など、地域内での連携がなぜうまくいったのかを解説する。

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