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「日本一のブドウ名人」と呼ばれる男が語る、ブドウ栽培の秘訣と情報収集

少年B

ライター:

「日本一のブドウ名人」と呼ばれる男が語る、ブドウ栽培の秘訣と情報収集

数多くのブドウ農家が「あの人が日本一だよ」と口を揃える、ブドウ名人の飯塚芳幸さん。数々の賞を獲得し、高級百貨店やフルーツ専門店で「飯塚さんのぶどう」コーナーが設けられるほどの実力者です。

そんな飯塚さんのブドウ栽培技術を、ブドウマニアライターの少年Bが3回に渡ってお聞きします。本記事はその第2回目です。

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品種の選定や情報交換の大切さ

──飯塚さんのブドウ作りは、まずは水はけの改善から始まったということですね。

株式会社マルタっていう、九州の柑橘農家から始まった農家集団の会社と出会って、研修で教えてもらったことだね。土壌中の科学性、物理性、それから微生物性の3つ全部がうまくいかないと、良いブドウはならないよっていうことがわかったわけね。窒素中心の土作りじゃダメだと。

で、科学性とか物理性っていうのはすぐにでも対応できるんだよね。pHだとかECだとかは土壌分析して調べればすぐ出るわけで。例えばpHが低ければ石灰を入れなさいとかね、対応がすぐできるけど、微生物性ってのは目に見えないんだよね。

──微生物性というのは聞いたことがなかったです。

土壌の中の微生物の働きだとか、微生物が作り出す栄養素とか。実はそういうものが果実のうまみと連動してるんだと。微生物が繁殖していくと、当然死骸も放出されていくわけだよね。

そうすると、そのタンパク質とかが土壌中に放出されてくるんで、それを今度は根が吸うんですよ。でも、そのそういうものを吸える根っていうのは、もうゴボウ根(ゴボウの根のように細長い草木の根)では駄目なんだと。本当にもっと細かい毛細根でしかそういったアミノ酸だとか、ミネラルだとかは吸えないんで。

──だから、土作りが大事になってくるんですね。

そう。だから要は、ブドウの木が毛細根をしっかり作れるような地作り。それと合わせて、微生物が共生できるような土作り。それをマルタに教えてもらったんだよね。

──土作り以外の点では、どのようなことを勉強されたんですか?

あとはJ.V.C.に入ったことも大きかったかな。俺はね、J.V.C.の最初期からの会員なんですよ。

──J.V.C.とはいったい……?

全国のぶどう農家の集まりだね。それまでは県の試験場から普及センター、各地域の農協の指導員さんと、いわゆる縦で情報が入ってきていたんだけど、横の繋がりってものがなかった。今はインターネットがあるけど、昔はそんなのないからね。

──県を超えた、全国での繋がりができたと。

そう。山梨とか愛知とか。岡山は後から入ってきたんだけど、そういった各県の農家の技術とか、生産者の考え方とか、売り方とか。そういったものを教えてもらったんだよね。

──植える品種についてもそこで知ったものがあったんでしょうか。

入って何年かしてからかな、俺をJ.V.C.に誘ってくれた「植原葡萄研究所」で、ロザリオビアンコってブドウが生まれてね。まだ名前がついていなかったころに食べさせてもらってさ、うまかったんだよそれが!

「ロザリオビアンコがうまかった!」と笑顔になる飯塚さん

もう、目からウロコだよね。当時の長野は巨峰、ナイヤガラ、デラウェア、ベーリーAぐらいしか知らんだからさ。あの時のロザリオのうまさ! すぐに苗を用意してもらってね。あと赤嶺とルビーオクヤマと、欧州系のブドウを植えることになったんだよ。

──巨峰から転換して。

「これからはこういうブドウが主流になっていくな」とつくづく感じて。長野県はもう猪突猛進に巨峰だけを作っていたから、その中にいたら気付かなかったかもしれない。 栽培法はもちろん大事だけど、品種の選び方も大事 なんだよね。品種によっても栽培の方法は違うしさ。

──そういった経験があって、飯塚さんは「日本一のブドウ農家」と言われるようになったんですね。

やっぱり、マルタで学んだことを生かしながら土壌改良を続けて、ちょっとずつ改善されていったことと、J.V.Cで各地の技術を学べたことが大きいよね。そういった色んな情報をミックスしながら、それこそブドウの木がどんどん大きくなっていくように、どんどん知識を吸収していったわけ。

上から教えてもらうだけでは、知らなかったことがいっぱいあったんだよね。自分なりに情報を求めて動き始めて、それがわかった。だから、 自分から情報を取りに行こうとすることは大事だな と、つくづく思うね。

飯塚流・ブドウ栽培の秘訣

──飯塚さんは多くの研修生を受け入れていますが、土壌は各農家ごとにまったく違いますよね。その土作りの技術は共通するものなのでしょうか。

例えば火山灰土だとか、あるいは砂地だとか、うちみたいな粘土だとか。土の性質によって、ブドウの生育は全然違うよね。っていうのは、根っこの張り方が違うから。ブドウの根っこってのはある程度空気がなきゃ駄目だから、空気と栄養のあるところだったらどこまでも入ってっちゃう。

だから、ある程度作土(作物生産を行う上で施肥などの影響を与える土の層。作土層とも呼ばれる)が浅い方が、ブドウは作りやすいんですよ。作土が深いと根っこがどんどん下に行っちゃうから、自分の思うような施肥管理とか樹勢管理ができなくなっちゃう。

──なるほど。

土や作り方によって、木の反応が全然違うんだよ。特に地中に根を張るっていう形になると、ブドウが好きなように張っちゃうわけだよね。それを張らせないようにするためにはどうすればいいか。

だから最近流行し始めてるのは遮根シートを敷いて、上に土を盛って、そこにブドウを植える根域制限栽培。特に広島なんかは県が一生懸命、研究をしてるんだよね。

──ブドウの植え方についてはいかがですか。

木は大きくなっていくから、きちんと栽植距離をあけていくこと。狭いところにギュッと閉じ込めちゃうと、絶対ろくなもんできないから。

長野県ってのは元々、長梢剪定(ちょうしょうせんてい)のX字型自然形整枝(※1)を中心としてたの。いわゆる巨峰の栽培方式でずっとやってきた産地なんだよね。

ところが、シャインマスカットやナガノパープルといった短梢剪定(たんしょうせんてい ※2)に向く品種が増えてきて、短梢がメインになってきてるんだよ。

※1 X字型自然形整枝
長梢剪定と呼ばれるもののひとつ。大木化しやすく、日本のブドウ栽培に適した整枝方法とされ、多くの産地で取り入れられている。しかし樹形が複雑である上に、樹勢に応じてせん定量が変わるため、適正なせん定を行うには熟練した高度な技術が必要とされる。

※2 短梢剪定
枝を短く切って整える剪定方式で、一文字整枝、H型整枝、WH型整枝などの方法がある。長年の経験と勘に頼る長梢剪定と違い、切る枝の箇所が決まっているため、マニュアル化がしやすく、初心者でも取り組めることが特徴。また、剪定にかかる作業時間が長梢剪定に比べて少ない。

──はい。

短梢はマニュアル化ができてるから、Iターンでやってきた若い子なんかは、98%ぐらいが短梢栽培で。昔からの生産者は年を取ってきて、栽培ができなくなってきちゃって。そこで知識の断絶が起こってるよね。継承できる人がどんどんいなくなってるから、若い人たちに、X字型自然系の理論や理屈を話しても、わからねぇだよ。

──確かに、「長梢選定は難しい」「覚えるのに10年かかる」などと聞いたことがあります。

短梢選定の栽培マニュアルは、岡山のピオーネのやり方をモデルにして、長野県では「H形で、主幹の総延長は28m以下の距離で栽植しなさい」という指導でみんな増えてるわけだ。ただ、ものすごく狭いの。それは。

木がお互いにバッティングすると、全部オール短梢で切らなきゃいけないじゃん。伸びていく余地がないわけだから、そうすっと、もう地下の根っこの量と地上の枝の面積とが、全部狂ってきちゃうわけ。

──バランスが崩れてしまうというわけですね。

そう、だから枝がガンガン強く出る。強く出た枝ってのは体を作りたがるわけだから、いい実がならない。トマトの交配と同じですよ。いい種を獲るためには、適正な樹勢管理をして、体じゃなくて実を作るように仕向けていかなきゃいけないわけ。

取材は7月末。徐々にブドウに色が入っていく。畑が明るいのも特徴だ

そのためには、上と下のバランスが大事なんだよ。だから、栽植距離をもう1回見直さなきゃいけない。

──そこで前回お話しいただいた営農指導員時代の経験が生きてきたんですね! 栽植距離を見直すということは、途中の木を切って……。

でもさ、途中の木を切ってそこに枝を出しなさいって言っても、農家は切れねえよな。切ればそこが空いちゃうから。

──収入も下がってしまいますしね。

だから、いつまでもその狭いところで作るしかない。そうすっとね、今度はいろんな障害が出てくるわけ。シャインの開花異常とか縮果症だとか、生理障害ってやつだね。

これも結局、強い枝の管理をしなきゃいけない。縮果症なんかは根っこの水分吸収と葉の蒸散のバランスが崩れているから起きるわけでね。現状で言うと、根っこに対して、枝の方がちっちゃすぎるわけ。もう少し樹冠を広げてやらないといけない。そのためには栽植距離をもっと離すべきなんだよ。

適正樹勢だと葉がろうと状になり、受光態勢もよくなるため、葉の枚数の割に地面が明るくなるという

栽植距離をもっと離すべきだという飯塚さん。次回はシャインマスカットの開花異常対策や、うまくいかない人に向けての品種選定についてをお聞きします。

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