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農業で大失敗をした人を取材! 失敗の理由は?【ゼロからはじめる独立農家#40】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

農業で大失敗をした人を取材! 失敗の理由は?【ゼロからはじめる独立農家#40】

ゼロから農業を始める時に多くの人が憧れる無農薬栽培。環境などを考えての志はいいのですが、現実は厳しい。そう言われても何がどう厳しいのかはほとんどの人が想像できないと思います。今回はその現実を経験者に包み隠さず話してもらいました。農業は始めるより継続が難しい。そのことを改めて感じる内容です。

■石川美里(いしかわ・みさと)さんプロフィール

1990年生まれ。小学校3年生から5年生までの3年間、父親の仕事の都合でインドのニューデリーに居住。生まれた国が違うことで生じる貧富の差にショックを受け、幼いながらも自分の人生を何かの役に立てたいと、社会課題解決を職にすることを志す。学生時代に東日本大震災が発生し、住んでいる場所が違うだけで人の生死が分かれること、そして何もできなかった自分に再び憤りを覚える。そんな時にボーダレス・ジャパンに出会い入社。「ビジネス」で社会課題を解決する方法と、そのインパクト・スピードを実感。さまざまな学びを受け、2017年にみらい畑株式会社を設立。

栽培は見よう見まね⁉

西田(筆者)

石川さんは無農薬栽培で農業をゼロからはじめて一度失敗されたと公言されています。今回はこれから農家を目指す人のためにその失敗談を話していただけるとのこと。まずは農家になったきっかけ、そして実際にスタートするまでの経緯をお願いします。
幼少期や東日本大震災の経験から社会に役に立つことがしたいと、ソーシャルビジネスを通じて社会課題の解決に取り組む、ボーダレス・ジャパンに入社しました。さまざまな社会課題がある中で日本の食糧の安全、農業の後継者不足、耕作放棄地拡大などの問題を知り、農家になれないかと考えました。

石川さん

西田(筆者)

農業を始めるには農地の取得や資金の問題もあり、農家になろうとすると周囲から止められるとよく聞きますが、石川さんの場合はどうだったのですか?
いろいろ探してたらボーダレス・ジャパン社長の田口から宮崎県新富町を紹介されて、現地視察のうえ移住を決めました。農業を始めるにあたっては周囲の人も農業の実情を知らないこともあり、「がんばって!」と送り出されました。農地は最初15アール借りました。社会課題を解決したいということもあり、無農薬栽培と最初から決めてました。

石川さん

宮崎県新富町の風景

西田(筆者)

農業技術はどこかで学ばれたのですか?
お借りした農地のお隣さんから教わりました。その人からは無農薬はやめといた方がいいと言われたのですが、なんとかなるだろうと見よう見まねでやりました。入植したのが10月の終わり。冬作からスタートしました。宮崎県といえど冬作もギリギリのタイミングだったので土づくりもあまりせず、とりあえずカブとニンジンの種まきをしました。

石川さん

西田(筆者)

知識なくいきなり無農薬栽培をやられたのですね。(しばし絶句)
それは大変だったでしょうね。それではご自身が失敗したと思われるまでの経緯を教えていただけますか?
1年目の冬作、カブとニンジンは土づくりもしてなかった割に育ちまして、思ったより収穫もありました。ただ出口である売り先をあまり準備してなくて、収穫してから飲食店に販売に行ったりしたのですが、それほどたくさんの量は売れなかったので地域の直売所に置かせてもらうことにしたんです。そこでは安くないと売れないということもあり、思ったほどの売り上げにはならなかったのですが、最初にしては上出来だと思いました。

地獄だったのは、1年目の春・夏作。前作が思った以上にうまくいったということもあり、新たにハウスも借りて宮崎県在来野菜の佐土原(さどわら)ナスに挑戦しました。佐土原ナスは大きくてやわらかく地元でも高値で取引されていてオイシックスなどでも人気。これだと思って畑の全面に800株定植しました。

暖かくなるにつれてアブラムシ、ヨトウムシでいっぱいに。化学農薬を使わずに牛乳や唐辛子を溶かしこんだ焼酎で対策したのですが効果もなく、ある日畑に行くとナス畑がアブラムシ、ヨトウムシのため枯れてきて一面暗黒世界。そこに大型台風。そうなるとかろうじて生き残っていた実も傷ついて売り物になりません。結局5カ月かけて育てた800株が8月でほぼ全滅。その夏の売上は30万円いきませんでした。

石川さん

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西田(筆者)

新規就農希望者には無農薬栽培でトマト、ミニトマト、イチゴはやるなと言っているのですが、ナスもその一つです。ナスは仕立ても難しいし、本当によくやりましたね。しかもナスだけを全面に。でも気持ちは分かります。計画時には豊作、害虫なし、雑草なしを想像しますからね。よく乗り切りましたね。

難易度の高いナス栽培

大変でしたが、初めての挑戦なので「次こそは」と思いました。2年目の秋・冬作は前年もニンジンがよくできたのでニンジンを中心に栽培。差別化のためにカラフルニンジンのいろいろな種類を育てました。

畑も増えて40アールに。栽培自体はうまくいき、無農薬でカラフルということで通常より高く買ってもらえたのですが、従業員を2人雇っていたので組織構成で赤字でした。

石川さん

西田(筆者)

私の計算だと加工のない露地野菜だと最低でも2~3ヘクタール必要ではないかと思ってます。でも40アールでも無農薬栽培は草取りや管理が大変なので人手が必要になりますね。無農薬だと小ぶりになりがちで収量も少なくなるので単純計算で通常の4~5倍の価格で売らないと経営できないと思いますが、そこまではつけられない。そのまさに体現ですね。
2年目の春・夏作はさらに畑が増えて合計1ヘクタールに。その時は害虫に強く無農薬で育てやすいズッキーニを60アール、残りは佐土原ナスに再チャレンジ。ズッキーニは受粉作業が必要で、また収穫が一日遅れると売り物にならないぐらい成長するので大変でした。その年は例年にない早めの梅雨と夏の豪雨。そうなると受粉もできず病気も広がり、みるみるダメに。ズッキーニだけで300万円の売上目標があったのですが結果的に100万円に。ナスも前年よりはできたのですが周囲の農家の半分以下の収量ということで大きな売り上げにはなりませんでした。この頃からやばいかもと思いました。

石川さん

西田(筆者)

それだけの面積のズッキーニ栽培は想像するだけで恐ろしい。本当によくやりましたね。話を聞いていると小農、無農薬栽培では多品目にするなどリスクの分散が大切だと改めて感じました。

補助金、新規就農支援金などはもらっていたのでしょうか?

補助金はもらってませんでした。ボーダレス・ジャパンから資金調達をしていて、そういった安心感もあったと思います。

3年目の秋・冬作はいちるの望みをかけて紅芯大根を1ヘクタール、6万本育てました。普通のダイコンでは高く売れないからということでの選択です。市場とは事前に買い取ってもらえるように話をして許諾してもらったのですが、完全な契約ではなかったため、珍しすぎて売れないということで当初思ってた金額より低い単価になり、引き取り量も減ってしまいました。

宮崎は暖かいのでそうこうしているうちに紅芯大根の芽が上がってきて、良いタイミングで対処できなかったので結果的には畑に2万本ほど放置の状態で終わりました。

いろいろな野菜を育て、販売もいろいろな方法を試した。それでも会社として黒字にならず、解決策が見つからない。社員もこの会社がどこに向かっているか分からないということで離れていく。もうダメだな、無農薬栽培は失敗したと思いました。

石川さん

西田(筆者)

栽培技術が足りなくて不作の時は栽培技術さえ上がれば、と希望も持てますが、その栽培が想像以上に大変なうえに、もしうまく栽培できて豊作でも買い手がいないとなると、未来が見えませんね。今だから言えますが、やってはいけないフルコースやられましたね。

あと農業は農地を借りるなど参入も難しいですが、農業をやめる、縮小するのも難しいですよね。農地を返却するのも大変ですし、プライドもある。また野菜は消費されるものなので全く売れないわけではない。でも続ければ続けるほどジリ貧になっていく。ある意味やめる勇気を持つのも難しいですね。

そんな中、失敗したと認識したのはすごいと思います。従業員もいなくなり、一人での再チャレンジとなったわけですが、浮上のきっかけは何だったのでしょう?

まさかの起死回生

3年目の秋・冬作で栽培した紅芯大根が市場だけでははけないので、いろいろなところに営業に行きました。ある結婚式場に行った時に社長さんがいらして、直接的にはそう言われなかったのですが、同情で買ってくれてるなというのが分かって悔しくて。選ばれるようになりたいと思いました。

ギフトになるような野菜を作りたいと考えました。その時にうちの得意なものにミニ野菜があるなと思って、でもそれだけでは弱い。そんな時にボーダレス・ジャパンのメンバーに相談したら「野菜って体にいいってイメージあるよね」と。そこからぬか床と無農薬栽培のミニ野菜のセットを思いつき販売しました。コロナ禍でおうち時間が増えた時期と重なり、ギフトではなくご自宅用に使う人が一気に増えました。

それから腸活ということで、サブスクでぬか漬け、塩糀漬けに最適なミニ野菜を定期でお届けする商品の開発につながり、それが今の柱になっています。

石川さん

西田(筆者)

今、6年目に入られたとのことですが、よくここまで耐えましたね。ある意味、就農準備金など生活費の補助がなかったからこそ、このままではダメだと失敗を認識したのかもしれません。無農薬栽培でなかったらここまで苦労することはなかったと思いますが、環境や食の未来へという思いがあったからこそ耐えられたのかもしれませんね。

現在、耕作放棄地を少しでも減らそうとクラウドファンディングに挑戦されてますが、まさにこういったことが根底にあり、心の支えになっていたのだと感じました。

最後にこれから農家を目指す人にひと言お願いします。

さまざまなベンチャー起業を見てきたボーダレス・ジャパンの先輩方からも農業は一番厳しいビジネスだと言われました。だからこそシッカリ計画を立てて、出口を大切に。そして無農薬だけでは売れる時代ではなくなってきています。何が自分の強みなのか、無農薬に縛られず自分のブランドは何か最初にジックリ考えてください。

無農薬栽培をやりたい人はその先のことを考えていると思います。手段にとらわれずそこを大切にしてほしいです。農業は苦しいけどこんなにチャレンジしがいのあるものはないと思います。その苦しさも仲間と一緒なら乗り越えられます。いい仲間探しもぜひ。

石川さん

石川さんが挑戦中のクラウドファンディング

西田(筆者)

今日はありがとうございました。経験したからこその言葉の重みを感じました。この記事を読んでいる農家を目指す人の多くはこんなヘマはしないと思うかもしれません。でもそう思っている時点ですでにあぶないです。それでも私や石川さんが何年もかかって分かった苦労の年数を少しでも短くしてもらえればと思います。

石川さんが現在挑戦中のクラウドファンディング(2023年1月11日まで)
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