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【緊急アンケートの結果】コスト高騰による農家の現状、課題解決のためには

【緊急アンケートの結果】コスト高騰による農家の現状、課題解決のためには

公益社団法人日本農業法人は、2022年の11月19日から12月2日まで「第2回 農業におけるコスト高騰緊急アンケート」を実施。現状の経費や販売価格、今後の方針などについて460の農業経営体から回答を集めた。農業生産現場では、コスト高騰によって農業経営にどのような影響があったのか。

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97.2%が「経費が高くなった」と回答

「アンケートの回答先の概要」

回答先460のうち、1億円以上の売り上げがあると回答した農業経営体は、52.1%。業種は、 稲作が32.4% 、野菜が32.0%、畜産が18.9%、果樹が5.7%だ。

「生産に係る経費の変化」

経費については、97.2%が2022年10月と比べて上昇したと回答しており、そのうち1.3倍以上上昇したとの回答は、63.5%に及んだ。

どうする、販売価格

農業経営体は、経費が上昇したことにより販売価格を値上げしているのだろうか。

「販売価格の状況」

グラフを見ると、回答先のうち45%が価格を値上げしている一方で、経費上昇分を価格に転嫁していない経営体が55%もいることがわかる。97.2%の経営体が経費が上がっていると回答したにもかかわらず、価格を値上げしているのは半分にも満たないということだ。

価格の値上げができなかった理由は、「無条件委託販売としているため」が74経営体と最多。次いで「年間契約(事前契約)であり、期中改定ができない」が60経営体と続く。また、63経営体が、「集出荷団体(生産者から青果物の販売委託を受けて青果物を出荷する総合農協、専門農協及び有志で組織する任意組合)」に対して、値上げを受け入れないと感じている。

生産者が売値や出荷時期などの条件を出荷先にゆだねているため、生産者の意向を十分に価格に反映できていないと考えられる。

「価格改定に関わる状況」

値上げができなかった経営体の回答では、価格改定していない期間は「3年前」からが最も多く33.2%。次に「おおむね1年前」からが28.5%という結果だった。

また、販売先を「変更したくない」との回答が63.6%で最多である一方、「販売先を変更したい」と考える経営体が15.0%いる。販売先の変更を希望する経営体のうち、22.2%が農協以外の集出荷団体への変更を希望している。農協系統に販売している農業経営体のうち70%が値上げできなかったことが、この結果につながっている。

販売価格の値上げができた理由は

「値上げができた理由」

販売価格を値上げできた理由は、1番多いのが「取引先との交渉によりコスト高騰の理解を得られた」というもので、142経営体がこのように答えている。2番目に多かったのは、44経営体が回答した「消費者への直接販売のため、自社の裁量で販売価格を決めることができた」という理由だ。

経費上昇分の価格転嫁に向けた努力についての回答は、「日頃から交渉相手と情報を密に共有している」が101経営体、「値上げ交渉時に客観的な数値や資料により具体的に交渉している」が94経営体だ。

取引相手への客観的・具体的な事実に基づく情報の提供が価格転嫁に向けたカギと考えられる。

課題は山積み

「値上率に関する状況」

値上げ自体はできても、課題は多く残る。販売価格を値上げした経営体のうち、50.2%が「5%以上~10%未満」の値上げ率だった。これを含め、「10%未満」と回答した経営体は85.9%。販売価格を値上げするも、コスト上昇分のカバー率は「0%~5%未満」にとどまっている経営体が24.6%と最多である。また、コスト上昇分の全てをカバーできていない経営体が88.9%となっており、約9割が販売価格の値上げが不十分な状況であるといえる。

「利益率の現状と理想」

コストが高騰する中、「黒字」経営の経営体は36.8%で、そのうち利益率が「0%超~5%未満」が21.1%を占める。一方で、48.5%の経営体が「赤字」である。「利益率0%」を含めると、58.7%が利益を確保できていない。このままでは、離農者や荒廃農地の増加は免れない。

現状打破のためには

値上げしたいが実現困難な状況にある農業経営体は多い。適正な販売価格を形成するには公的な制度や仕組みが必要だ。今回のアンケートでは、フランスのエガリム法のような農産物の生産コストに基づく適正な価格形成を促す法整備や、市場のセリ機能の検証、相対取引における値下げ圧力の監視、規制が必要だという意見も寄せられた。

既存の品目の生産拡大、新たな品目の生産に取り組むなど、農家の積極的な動きも重要になってくるだろう。しかし、労働力、資金の不足により対応できない農業経営体も少なくない。これらの問題は、自治体の支援や補助金制度などを利用すれば解決する場合もある。まずは、問い合わせてみることが大切だ。

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コスト高騰によるマイナスをカバーするために、円安長期化を逆手にとって輸出に力を入れることでプラスを生み出そうという農家は多い。今回のアンケートでは、輸出に積極的な意向を示した経営体が53.2%と半数以上だった。取り組みたいが、実行する方法が分からないということであれば、農林水産省の輸出・国際局輸出支援課への相談や、輸出に成功している農家の事例を参考にするとよいだろう。

コスト高騰によって厳しい経営状況が続く現状を変えるには、新たな施策を積極的に講ずる必要がありそうだ。

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引用元:公益社団法人日本農業法人 第2回 農業におけるコスト高騰緊急アンケートより

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