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「農政に素早すぎる意思決定はふさわしくない」~生源寺眞一氏インタビュー~

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

「農政に素早すぎる意思決定はふさわしくない」~生源寺眞一氏インタビュー~

これまでたくさんの農業経営者や農林水産省の官僚と接してきたが、その多くが尊敬の気持ちを込めて名前を挙げる研究者がいる。元東京大学農学部長の生源寺眞一(しょうげんじ・しんいち)さんだ。このほど福島大学教授を定年退職したのを機に、日本の農業と農政の課題についてインタビューした。

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徐々に悪い方向に向かった農政

生源寺さんは1951年生まれ。専門は農業経済学。東大農学部を卒業した後、農林水産省の北海道農業試験場研究員などを経て、1996年に東大教授に就任した。さらに東大農学部長、福島大学食農学類長などを歴任した後、2023年3月末に同大教授を退職し、日本農業研究所の研究員になった。

研究活動に加え、さまざまな形で農政にも関わってきた。コメ政策の見直しを議論した農水省の「生産調整に関する研究会」の座長や、食料・農業・農村政策審議会の会長を務めた。農業者との交流も多く、ある大手農業法人のトップは「生源寺さんと話すと、いつもヒントをもらえる」と話す。

ではインタビューの内容に移ろう。

――21世紀に入ってからの農政をどう評価していますか。

2000年12月31日夜から2001年1月1日にかけて、新しい世紀を迎えるための講演会が東大で開かれました。当時の東大総長だった蓮實重彦(はすみ・しげひこ)さんがそこで話した内容が印象に残っています。「日本人はこの10年間、(社会が)どうあるべきかを考えてきた」という内容だったと思います。

これとの対比で、「高度成長から安定成長の時代、日本人は何も考えず突っ走ってきた」とも話していました。当時私は東大教授でしたが、この話を聞きながら農業のことを考えていました。蓮見さんの言葉に「農村や農業、食料の価値をもう一度見つめ直そう」という意味も込められていると感じたのです。

実際の農政はその後21世紀に入って、揺れに揺れました。とくに2012年に自公政権が復活してから、アベノミクスの名のもとに農政も成長路線を追求しました。エンジンをフルに回転させましたが、結果的にはかなり空回りしました。いまふり返ると、だんだん良くない方向へと向かっていったように思います。

画像1)生源寺真一

生源寺真一さん(2014年撮影、食料・農業・農村審議会の会長を務めていたころ)

官邸主導の農政への疑問

――どんなときに良くない方向に向かっていると感じましたか。

まずかけ声を上げて、何となくアピールし、それを政策につなげていくようなときです。例えば、政府は2013年に農業と農村の所得を10年で倍増させる目標を決定しました。本来は政策や制度をきちんと点検したうえで、新しいものを生み出すべきなのに、そういう進め方をしない。所得倍増の目標はその象徴です。

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