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コロナ情勢に活路見いだし、売り上げ倍増。花農家を倒産の危機から救った新たな作物とは

コロナ情勢に活路見いだし、売り上げ倍増。花農家を倒産の危機から救った新たな作物とは

コロナウイルスの感染拡大によって大きく変化した世の中。農業界においても、倒産の危機に追い込まれた農家や販売先の変更を余儀なくされた農家が少なくありません。そうした中、コロナ禍を乗り切るために経営を大きく方向転換し、売り上げをコロナ前の倍にまで増やした生産者がいます。株式会社クラベル・ジャパン代表の平田憲市朗(ひらた・けんいちろう)さんに話を聞きました。

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コロナによって倒産の危機へ

佐賀県唐津市でカーネーションと唐辛子を栽培している株式会社クラベル・ジャパン。カーネーションは40種類もの品種を約50アールのハウスで年間約80万本生産。唐辛子はホットパラソルという品種をメインに、ハウスと露地で年間約15トン生産しており、双方とも国内トップクラスの生産量を誇ります。

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同社が育てるカーネーション

同社は元々、平田花園という屋号で70年以上にわたってカーネーションを専門に育ててきた歴史があります。

北海道から沖縄まで、日本全国で平田花園のカーネーションが取り扱われてきたといい、特に世界で平田さんしか作れない色のカーネーションは、1本8000円という他では類を見ない破格の価格で取引されるなど、花き農家として確固たる地位を築いていました。2019年度末時点では、先代から経営を継ぐ前に比べて1輪当たりの販売単価が上昇し、売り上げも倍増するなど、経営は順調だったといいます。

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平田花園のカーネーションの一部(同社提供)

そんな中、世界を突如として襲った新型コロナウイルス。感染拡大によって多くの人や企業が影響を受けました。同社もその一つです。

平田さんは当時について、こう振り返ります。

「日本でコロナが流行し、初めて緊急事態宣言が発令された春先は例年、卒業式や入学式、母の日も控えていたタイミングで、一年間で最も売り上げが立つ時期でした。そうした時期にパンデミックが起こったことで、結婚式やお葬式などでも自粛が目立ち、お花が使われる場面がめっきりなくなってしまいました。数字的なところでは、3月の売り上げが前年比80%減、4月は40%減と、従業員への給料も払えない状態で倒産の危機に追い込まれていました」

倒産の危機を乗り越えたカギは新たな農産物

コロナによって大きく売り上げを落とした株式会社クラベル・ジャパン。これまでの販売先としては市場向けの出荷が大半を占めていたこともあり、自粛ムードが長く続いたことによって需要が見通せない状況が続きました。

そんな状況を打開するべく、カーネーション畑を1坪ずつ貸し出し、消費者が好きな色の花を栽培し収穫できるオーナー制度を始めるなど、家庭向けへの販売にもかじを切りました。新たな顧客を順調に獲得できていたものの、元々の売上高にまで経営が回復するには至りませんでした。

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カーネーション畑

唐辛子との出会い

カーネーションは強い日差しや暑さ、湿度に弱く、夏場の栽培ができないため、この時期はハーバリウムやドライフラワーなどの加工品を販売していました。

年間を通して安定した仕事を作り出すため、新たな夏の収入の柱を探していたところ、ある飲み会の席で唐辛子の栽培について話を聞いたといいます。興味を持った平田さんは、すぐに近くの唐辛子農家へ見学に行ったそうです。

調べてみると、唐辛子栽培は収益性と収穫効率が良いことがわかり、2019年に1アールの畑で実験的に栽培を開始しました。国内で多く使われる輸入の乾燥唐辛子に比べ、ホットパラソルという品種の唐辛子は辛さが強かったこともあり、当時出荷していた市場のお客さんからは評判が上々だったといいます。

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唐津ピリカラ協会の唐辛子(ホットパラソル)

コロナ禍によって経営が大きく揺らいだ2020年、平田さんは危機を乗り越えるために一つの大きな決断をしました。1アールの畑で実験栽培していた唐辛子を、50倍となる50アールに規模拡大することにしたのです。

通常は売り先を決めてから栽培開始するのが一般的ですが、それすら決まっていない中での大規模栽培は無謀ともいえる大きな決断でした。しかし、こう決めた背景にはコロナによって起きた円安や海外品の物価高、海外からの輸送船問題などにより、輸入品ではなく国産品に注目が集まっていることがあったといい、国内で唐辛子を大規模生産しているライバル農家も少なかったことから勝算を持っていたと話します。

栽培面積を増やした当初から輸入量が減っていたこともあり、市場向けの唐辛子が順調に売れていきました。さらに、生産規模を持って唐辛子を栽培している農家も少なかったことから、オリンピックの選手村で使わせて欲しいといった声もあったそうです。その後、百貨店やスーパーなどさまざまな所から問い合わせがあり、契約販売の数も増えていったといいます。

アフターコロナの農業

「現在は、カーネーションの売り上げもコロナ前に比べて増えています」と平田さん。その背景には、これまでカーネーションの輸入量が多かったコロンビアで品目の転換や廃業した農家が相次いだことに加え、国内でもコロナによって多くのカーネーション農家がやめてしまったことがあげられます。

実際に、株式会社クラベル・ジャパンのある佐賀県でも、平田さんが就農した当時に30人いた生産者は現在、4人にまで減っており、供給できる生産者自体が減ったことで1生産者当たりの需要が増えているそうです。

唐辛子は、生だけでなく冷凍させたもの、乾燥させたもの、粉末にしたものなど、さまざまな用途で使われています。「赤唐辛子を使った一味」、「青唐辛子を使った一味」、「赤青の唐辛子と自社で作る山椒、佐賀県内の素材を使った七味」の加工品は、いずれも月に計2000〜3000本売れる人気商品に。生産が追いついておらず3カ月待ちの状態だといいます。

唐辛子全体の売り上げは、カーネーションに迫る勢いで増えており、二つの柱を合計したクラベル・ジャパン全体の売り上げは、コロナ前に比べて倍になるまでに増えているそうです。

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そんな平田さんに、コロナをきっかけに需要は増えたものの、収束した後に価格の安い輸入唐辛子が入ってきたらどうするかと、疑問をぶつけてみました。

「前提として、コロナが無かったらここまで栽培することはなかったと思う。ただ、香辛料の世界の動きとして、コロナや戦争によって輸入品が安定的に入ってこない可能性が生じてきた。その中で、多少高くても国産で原料調達をしたいと考える企業が増えてきたのは確かだね。だからこそ、コロナ前のように安さがモノをいう価値観には、必ずしもならないと考えているよ。味や辛さでも負けない自信があるからね」(平田さん)

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取材時の平田さん

コロナによって生産者の負担が増えた農業界ですが、視点を変えると悪い事ばかりではなく、香辛料の世界のように良い変化もあると思います。ピンチだからこそ新しいチャンスが見えてくることもあるといえるでしょう。香辛料の原料という新しい農業の可能性が見えた取材でもありました。

取材協力

株式会社クラベル・ジャパン

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