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農家を超越した存在 「儲かる」と「面白い」の最高バランス経営【岩佐と紐解く戦略的農業#08】

連載企画:岩佐と紐解く戦略農業

私、株式会社GRAの岩佐大輝(いわさ・ひろき)とマイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が、いま注目している農業経営者を突撃し、戦略を紐解いていく連載企画。今回は山梨の有機農家、ファーマン代表の井上能孝(いのうえ・よしたか)さんを訪問し、ライフスタイルと経済合理性の両方を追求する農業について紐解いていく。

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【プロフィール】
■井上能孝さんプロフィール

株式会社ファーマン代表取締役
2001年に山梨県北杜市に移住し独立。有機野菜の栽培・加工から廃校を活用したボルダリングジムの運営など、活動は多岐にわたる。日本テレビ「有吉ゼミ」の人気コーナー「工藤阿須加の楽しい農業生活」での栽培指導もその一つ。農林水産業全体を視野に入れた事業を展開している。

■岩佐大輝さん

株式会社GRA代表取締役CEO
1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、日本および海外で複数の法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書は『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)ほか。

■横山拓哉

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。

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地域のみんなで一緒に仕事をする

岩佐:この施設は何でしょうか。

井上:クライミングジム「LOCK BOKU(ロクボク)」です。うちが廃校になった学校をまるっと借り受けていて、体育館でボルダリングを体験できるようになっています。「ボタニクス」という会社の伊藤剛史(いとう・たけし)社長と会ったその日に意気投合し、一緒にやらせてもらうことになりました。伊藤社長はオリンピックのボルダリング競技のルートを作ったこともあり、業界の中ではかなり有名な人なんです。

LOCK BOKU(ロクボク)施設

岩佐:プロの手が入っているんですね。

横山:なぜ農家がボルダリング事業を始めたのでしょうか。

井上:うちが借りている畑の地権者さんが、この学校に親子3代で通っていたそうなんです。もともと地域の人からも「何にも使われないのは寂しい」という声はずっと聞いていて。私は地域の人にかわいがってもらっていますので、「じゃあ、ここで何か面白いことができないか」と考えました。

岩佐:体育館の中に小屋がありますね。グローブやカラビナ、ザイルといったクライミングのグッズも売ってる。

横山:ドリンクもおしゃれ。

クライミング施設の隣にはグッズも販売している

井上:地元の「YETI GELATO」さんというジェラートを作っている会社の商品です。同じ北杜市のスタートアップや、何か事業を起こしてやりたいという方々と連携して、仲間の商品をなるべく扱うようにしています。北杜市は環境はもちろんですが、いろんな面白い人が集まりやすい地域特性があります。そこでシナジーを生めた方が面白いという発想で、みんなで一緒に仕事しています。

土地を活かしたライフスタイルとしての農業

井上:ここはグランピングを行う施設です。泊まるだけじゃなく、バーベキューをしたり、ピザを焼いたり、うちのシェフがコース料理を作ったりもします。目の前は、ほぼうちの畑で、収穫体験やトラクターの乗車体験、種まきもできます。アグリツーリズムとグランピングを合体させたようなイメージです。

グランピング施設には露店風呂も完備している

岩佐:井上さんはさまざまな事業を手掛けていますが、ビジネスポートフォリオとしてはそれぞれどのぐらいの割合ですか。

井上:農業生産での売上が約65%、次に観光や宿泊などツーリズム系の事業の売上が約20%、その他企業と提携する際の委託費やビニールハウスの建築の請負、農地造成などが約15%です。

岩佐:農地造成も請け負っているんですね。

井上:北杜市は新規就農者が多い土地ですし、耕作放棄地の面積もまあまああるんですよ。僕も実は耕作放棄地だったこの場所を開墾して畑に復旧させました。そういうノウハウがあったので、農家目線でビニールハウス建築したり、開墾したりすることもやっています。

岩佐:また八ヶ岳の南麓の眺めが、めちゃくちゃ奇麗ですね。

井上:ここからだと、南面に傾斜しているのがよく分かると思うんですけれども、これが北杜市の農業の縮図のようになっています。傾斜地で面積もそこまで大きくない。ただ、培地は火山灰土で冷涼な空気感です。例えば産地リレー栽培ができたり、多種多様なものが作れたりと、良くいえばオールマイティ。ちょっとネガティブに捉えるなら器用貧乏みたいな、そういう土地柄です。

岩佐:この土地だからこそできることを良さとして、しかもこういう風景の中でライフスタイルと共に農業をやるのは、めっちゃ格好良いし新しいスタイルですよね。

圃場に隣接するグランピング施設

「有機農産物の小さな農協」を目指す

井上:ここは僕らの本業となる、農業生産を行うための拠点施設です。貯蔵庫や選果場があります。

岩佐:ニンニクの良い香りがしますね。この有機JASのニンニクは、どれぐらいの金額で販売されているんですか。

広々としたファーマンの貯蔵庫

井上:小売で大体398円です。他県のブランドニンニクはおそらく198円ぐらいですから、1.5倍〜2倍ぐらいの単価設定になっています。

岩佐:昨日いただきましたが、それぐらいの価値は十分にありましたよね。

井上:北杜市には、80軒以上の小さな有機農家がいます。このうち、年間の売上高が1000万円以上の人は15%に満たないんですよ。そういう人々は大手との取引が難しいじゃないですか。なので、うちが帳合先(卸業者)となって、うちに持ってくれば全部一緒に共同体となって販売できる、いわば有機農産物の小さな農協みたいなことがやりたくて、約3年前からスタートさせました。

横山:今、年間の売上はどれぐらいですか。

井上:向こうとこっちと合わせて1.3億円ぐらいですが、まだまだです。僕らはここの建物もまだ建てたばっかりで、2030年までに先ほどの「小さな農協」の実現を目標にしています。そのためには、もうちょっと機械設備や商流などをまとめて、もう少し大きな売上高を持つ。中山間地だけれども、有機農産物に関しては僕らがプライスメーカーになれるように、目指しています。

経済合理性も忘れない

岩佐:井上さんは、どちらかというとライフスタイル的な農業に近いと思います。どこまで経営的なKPIを定めていますか。

井上:数値目標ももちますし、営業利益がどれぐらい出るのかも必ず落とし込むようにしています。それを社員全体に共有し、最低限のルールは設けますが、ゴールを達成するまでの手法は社員に考えてもらっています。あと僕らは今年から、ニンニクとカボチャの輪作にチャレンジしているんです。

岩佐:おお、輪作ですか。

井上:ニンニクは、ずっと作り続けていると連作障害が出てくるんです。そこを解消して、反当たりの売上をどうにか伸ばせないかと考えたときに、カボチャだと10アール当たり、うちの上限で3トン取れます。1キロ当たりの単価が350円〜400円ぐらいで、かなり高いんですけれども、そうするとカボチャの方が売上金額としては大きくなっちゃうんですよね。

岩佐:そうですね。

井上:ここの単価をもっと減らしていって、まずはとにかく市況に流せるような量を抱える。かつ輪作をやることによって、経営面積2ヘクタールの農家でも売上1000万円を達成ができる。その売上構成比のうち約3割をファーマンに出してもらえれば、キャッシュが一気に入ってきます。仮に9月に350万が入ってくるとなると、気持ちにゆとりができるじゃないですか。

岩佐:ボーナスみたいな。

井上:そうです。独立した有機農家のボーナス的な立ち位置を担えたらいいなと思って、一緒にやろうと声を掛けています。

まとめ

横山:岩佐さん、では今日の「まとめ」をお願いします。

岩佐:井上さん、素晴らしかったですね。ファーマンの農業戦略のポイントは次の三つだと思いました。

ファーマンの農業戦略のポイント
ビジョンと哲学を明確に持つ 「農業」をフックにして、世界観やライフスタイルの提案にまで広げ、楽しそうにビジョンを追いかけている。そこに人が集まってくる。
経済合理性も追求する ライフスタイル的な農業をやるだけではなく、数字の緻密さも持ち合わせて経済合理性も追求する。
「有機農業=清貧」のイメージからの脱却 清く貧しい有機農業から脱却し「かっこいい」ライフスタイルとしての有機農業に取り組むことで、次世代に続いていく農業に。

岩佐:井上さんは生き方もセンスも格好良いですね。もちろん井上さんのようなセンスが最初からある人は居ないと思います。それを身に付けるには、やっぱり井上さんみたいな人と触れ合うこと。皆さんもぜひファーマンに1度来てみると、いろんな気づきがあると思います。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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