かんきつを襲う病原菌の正体

まずは、かんきつ類などを襲うかいよう病の概要とその特性、かんきつ以外にも病気が発生しやすい植物や発生しやすい季節などを見てみましょう。
病原菌の種類と主な特性
かんきつ類などを襲う病気はさまざまありますが、その中でも特に悩みの種となっているのが「カンキツかいよう病」を引き起こす細菌「Xanthomonas campestris pv. citri」です。
非常に小さい細菌で、葉や果実、枝などさまざまな部位に感染します。その名前の通り、感染部分がかいよう(人間で言うと、皮膚や粘膜が深いところまで欠損した状態)状になったり樹が弱って枯れたりする病気で、秋以降に感染すると発病せずに冬を越し、翌春に出てきた新しい枝や葉に感染・発病する厄介な細菌です。
かいよう病が発生しやすい植物
レモンをはじめとするかんきつ類や、トマト、キウイ、ウメなどに発生しやすい病気です。かんきつ農家にとって防除が欠かせない病害のひとつで、近年ではキウイへの感染拡大が懸念されており、農林水産省から防除対策マニュアルが出されています。
かいよう病の症状と影響
カンキツかいよう病
葉、果実、枝に褐色の病斑を形成します。病斑は最初盛り上がった濃緑色水浸状円形で、拡大すると頂部にザクロ状の亀裂を生じ、中央部から徐々にコルク化していきます。春葉の展葉期から発病し、夏葉・秋葉ではハモグリガの食害や風ずれなどの傷口から感染します。
トマトかいよう病
内部組織が侵されて茎や葉が萎凋(いしゅく)し枯れてしまう症状と、小葉が黒褐色に変色して枯れてしまう症状が見られます。苗床や幼苗ではあまり発病せず、ほ場に定植した後に発生することが多いです。種子伝染、接触伝染、土壌(罹病残渣)伝染はもちろん、芽かきなどの管理作業によって二次伝染することもあります。
キウイかいよう病
剪定作業や風雨などによって葉や枝の傷口から細菌が入り込み、葉の褐色斑点や新梢のちぢれ、枝幹部からの菌液や樹液の漏出などが見られます。病原性が強いとされる「Psa3系統」は黄色果実品種に被害が大きく、適切な防除をしないと樹木が枯れてしまう場合があります。
かいよう病が植物の成長を妨げ、収穫量の低下を招く原因になります。果実に発生すると見た目が著しく損なわれ、市場価値の低下につながるため、早期の防除が重要です。
かいよう病の人体への影響は?
人体への影響はなく感染した果実を食べても問題ありませんが、見た目や食感が悪いため、感染部分は取り除くようにしましょう。
発生時期とリスクの高い季節
春葉と夏葉・秋葉に感染が広がりやすいのですが、春葉への感染は病原菌が冬を越し、その活動が活発になる5月上旬から6月中旬に集中しています。果実への感染は落花直後から9月下旬まで続きます。強風を伴う台風が夏葉や果実の感染を助長する要因となり、秋も病原菌が活性化して病斑から大量の細菌が放出されます。
かいよう病感染・拡大のメカニズム
感染・拡大のメカニズムを理解することで、その対策を逆算して考えられます。ここではかいよう病がどのように発生し、被害が見えてくるのかを紹介していきます。
発生・拡大の仕組み
かいよう病の主な伝染経路は、水や風による病原菌の広がりによるものです。病斑から放出された細菌を雨風が周囲に拡散させ、傷口や気孔から植物の内部に侵入します。夏葉はハモグリガなどの食害跡が感染の入り口となるケースが多いため、害虫対策も重要です。
潜伏期間と発病のプロセス
冬の間は潜伏していたかいよう病の病原菌が春(気温が20~30℃の環境)になると活発に動き出して症状が現れます。感染初期には目立つ症状がない場合もあります。病原菌が組織内で増殖し、症状が顕著化することで被害が明らかになります。
天候と環境要因の影響
強風や夏季台風によって葉や果実がこすれ、傷が付くと病原菌の侵入・感染リスクが高まります。病原菌は湿度が高い環境を好むため、降雨が多い時期も注意が必要です。発病が多い5月上旬〜6月中旬は病害が急速に広がります。

かんきつ農園での基本的な防除対策
かいよう病原菌の感染を未然に防ぐためには、予防的な栽培管理がとても重要です。基本的な防除対策を徹底することで病害リスクを大きく減らせます。
病気を予防する栽培管理方法
・風による葉や果実のすり傷を防止するための防風垣や防風ネットの設置
・感染箇所の早期除去と風通しを改善する剪定作業
・翌年の春葉に感染させないための落ち葉や剪定枝の適切な処理
・剪定バサミの消毒や手袋など、器具や人への病原菌の付着による伝染防止を徹底
耐病品種の活用と樹勢管理
かいよう病やほかの病害の発生リスクを抑えるためには、耐病性の高い品種を選ぶことが効果的です。また、剪定などによる樹勢管理を徹底し、抵抗性が低い品種では特に慎重に防除を行います。
かいよう病にかかりやすいかんきつ類
・グレープフルーツ
・ネーブル
・レモン
・伊予柑
かいよう病に強いかんきつ類
・ゆず
・きんかん
・日向夏
・ポンカン
・ハッサク
かいよう病に強い品種の例
・璃の香(農研機構が開発したレモンの新品種)
・瑞季(広島県立総合技術研究所農業技術センターが開発したかんきつの新品種)
適切な薬剤散布のタイミング
感染してからの対応が難しいかいよう病は、適切な予防が重要です。多くのかんきつ農園では春先の新梢・新葉の展開時期を中心に殺菌剤を散布しています。
春葉の主な感染時期(5月上旬〜6月中旬)と、果実の感染期間(落花直後〜9月下旬)の重点的な薬剤散布が推奨されています。
強風予報時には事前に薬剤を散布することで、傷口や気孔から病原菌が侵入するのを防げます。
かんきつ農園で用いられる薬剤の例
展葉初期(4月中旬~5月上旬)にはコサイド3000 (クレフノン加用)、フジドーLフロアブル(クレフノン加用)、IC ボルドー66D(アビオンE加用)などを散布します。この時期にボルドー液を使用すると新芽に石灰による薬害が発生しますが、アビオンEを加用すると薬害が軽減されます。
生育期には、コサイド 3000(クレフノン加用)、フジドーLフロアブル(クレフノン加用)などを散布します。

天候に応じた対策の工夫
かいよう病は天候に応じた対策が不可欠で、特に20~30℃程度の発病適温期には注意が必要です。新葉の展葉期や夏季の台風時に対策を徹底しましょう。雨が多い季節も病原菌が広がる可能性が高いため、予防的な薬剤散布や剪定を行うなどの工夫が重要です。
家庭菜園での防除策
かんきつ類は常緑で鑑賞性が高く、色鮮やかでおいしい果実ができるため家庭菜園でも人気の作物です。その一方で「かいよう病」や「黒点病」「そうか病」など細菌による病気にかかりやすく、予防的な薬剤散布や感染対策が重要です。
家庭菜園での栽培管理
・育てている作物をしっかり見守り、発病した枝や葉をすぐに取り除く
・剪定バサミの消毒や手袋など、器具や人への病原菌の付着防止
・強風によって葉や果実に傷が付かないよう、風対策やかんきつ類のトゲを除去
・5月〜6月の予防的な薬剤散布
・ハモグリガが発生したら駆除を徹底する
家庭菜園でおすすめの薬剤
住友化学園芸 殺菌剤 サンボルドー

2gの小袋に入っているので計量がしやすいのが魅力です。天然成分の塩基性塩化銅が主成分のため、有機農産物やオーガニック栽培でも使えます。
かんきつに使用する場合、銅の薬害(スターメラノーズと呼ばれる星型の黒い斑点)が生じるおそれがあるので、筆者は炭酸カルシウム水和剤を加用しています。
サンガーデン 薬害軽減剤 クレフノン
ボルドー液やコサイドでの薬害を軽減するための炭酸カルシウム水和剤です。炭酸カルシウムを主成分とし、さまざまな用途に使われます。
日本農薬 殺菌剤 Zボルドー水和剤 500g
ある程度の規模感の菜園なら、コストパフォーマンスに優れたこちらの殺菌剤がおすすめです。有機農産物栽培でも使用でき、耐性菌出現リスクが低いのが特徴です。
三井化学アグロ コサイド3000
有効成分から放出される銅イオンが糸状菌由来の病害だけでなく、細菌性病害にも優れた予防効果を示します。有機JAS規格適合資材です。
かいよう病対策は、予防が何より大切

「かいよう病」は、かんきつ類を育てている人にはよく知られている病気だと思いますが、改めて発生のメカニズムや特徴を振り返ると予防がなにより大切だということが分かります。かいよう病は発生してからの対応がなかなか難しく、主要な防除薬剤も今のところ「ボルドー」や「コサイド」などの無機銅剤(殺菌剤)を予防的に使うしかないようです。その一方で、かんきつには銅の薬害(スターメラノーズと呼ばれる星型の黒い斑点)が生じるおそれがあるため、炭酸カルシウム水和剤を加用するなど工夫も必要です。正しい知識と的確な予防策を講じることで、大切な作物を病害から守ってあげたいですね。





















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