常識にとらわれない栽培実験
この春、家庭菜園雑誌「やさい畑」(家の光協会)で10年にわたって連載していた「めざせ大発見 畑の探求者」が終わった。この連載は、野菜の生態や原産地などの環境をヒントに、これまでの常識にとらわれない野菜作りを実際に試して検証し、その方法を紹介したもので、自分で言うのもなんだがなかなか人気があった。隔月発行なので年6回×10年で、トータル60。加えて雑誌で紹介できなかったネタも含めるとおそらく100はやったのではないかと思う。連載ではその中で形になったものだけを紹介している。塩ビ管でスイカを育てたり、ネギに海水をかけたり、かきとったジャガイモの芽を植えてみたりといった過激な実験もあるので、成功率は必ずしもよいとは言えない。

ジャガイモのかいた芽を植え付ける「芽挿し栽培」
でも、ときに予想を超える生育を見せてくれたりもして、私自身面白がって実験してきた。連載は惜しまれながら(と思いたい)終わってしまったが、昨年、記事の中から20本をピックアップして一冊の本にまとめることができた。タイトルは「家庭菜園の超裏ワザ」(家の光協会)。その一部を紹介しよう。
ナスの水苔植え
ナスの原産地はインド東部の熱帯地域。気温が高く、雨が多い地域だ。そのためナスは高温多湿を好み、梅雨が明けて気温が上がる頃、次々に実をつける。しかし近年の夏は猛暑が当たり前で、とても乾燥しやすく、その結果、葉からの蒸散が増え、「水で育つ」とも言われるナスには過酷な環境だ。
ナスは水が不足すると一気に生育が悪くなり、実もかたくなって食味が落ちる。そのため水もちのいい畑が求められるが、一方で水はけが悪いと根が酸素不足になりそれもよくない。水はけと水もちのバランスがいい土でなくてはいけないのだ。そこで、ナスが好む土壌環境を人工的に構築しようと試みたのが、この「水苔植え」だ。高い保水力と通気性を持つ園芸用の乾燥水苔でナスの根鉢を包むことで、夏の乾燥を抑え収量アップにつなげる狙いである。

ナスの根を水苔で包み酷暑を乗り切る「ナスの水苔植え」
実験では普通に栽培したナスと比較し、生育の様子と収量を記録した。いずれも5月中旬に苗を植えつけ、7月中旬に収穫がスタート。その差は梅雨が明けて暑さが厳しくなると顕著に表れ、8月に入って普通植えの収量が激減した一方で、水苔植えは草勢が衰えることなく収量も右肩上がりに増えていった。9月になって暑さが一段落すると普通植えが盛り返してきたが、水苔植えも堅調を維持。10月には普通植えの生育が落ちていく中で、水苔植えはさらに収量を上げていった。その結果、普通植えが1株平均約85個に対し、水苔植えは1株平均120個というプロ農家なみの収量を実現したのである。

水苔植えのナスは晩秋まで実をつけ、その数は120個にもなった
ミニトマトのエレベーター栽培
近年、フルーツトマトなどと呼ばれる高糖度トマトが高値で販売されている。糖度の高い品種を選ぶことに加えて、意図的に水分・養分を制限する「絞り栽培」という方法で適度なストレスを与え、濃厚な甘さを引き出しているのだ。高糖度であるフルーツトマトの多くは大規模な施設でコンピューター制御の灌水(かんすい)装置などを用いた養液栽培で作られる。天候の影響が避けられない露地栽培では、安定した生産は難しいとされている。
しかし、方法は何かあるはずだ。要は、雨や土壌水分の影響を少なくして水分の供給を抑えられるかどうかである。そこで思い至ったのが、栽培の場を地面ではなく空中に移す方法だ。塩ビ管(塩化ビニール管)を立てて鉢代わりに使い、苗を地上高く持ち上げる栽培で、塩ビ管が林立する光景を高層建築に見立て、根から上へ水分を吸い上げる様子をエレベーターになぞらえて「エレベーター栽培」と名づけた。語感もいい。
土が露出するのは管の上部のみで、雨の影響はわずか。さらに管の長さだけ地表面との高低差が生まれ、強力な排水・乾燥効果が期待できる。極度な水分抑制で枯れてしまうことも心配されたが、甘やかしていては甘い実はとれない。厳しい環境でこそ、高糖度トマトは実を結ぶはずだ。

塩ビ管で水分を絞り高糖度を実現した「ミニトマトのエレベーター栽培」
塩ビ管は地上高40センチ、60センチ、80センチ、100センチ、120センチの5本。品種はミニトマトの「ミニキャロル」(サカタのタネ)。公式ホームページによると「普通の栽培で(糖度が)8度、水分を抑えた栽培では10度を超えることも」とあるが、経験上、家庭菜園レベルで普通に栽培して8度を超えるのは難しい。
エレベーター栽培の結果は、100センチと120センチの塩ビ管でそれぞれ平均糖度10.0度と9.0度を実現。最高値は11.1度を記録した。狙い通り地上から高く立ち上げることで、「絞り」に成功したのである。

高層株では高糖度を実現
トウモロコシのキセニア栽培
最後にもうひとつ、夏野菜の裏ワザを紹介しよう。トウモロコシのキセニア栽培だ。キセニアとは、果実や種子の性質に花粉の持つ優性の影響が表れる現象をいう。被子植物であるトウモロコシの場合、胚乳に影響が表れる。粒が白色種の雌穂に黄色種の花粉が受粉すると、色的には黄色が優性なため、キセニアが発現した粒は黄色くなる(もともとの白色に黄色が混じる)。反対に黄色種の雌穂に白色種の花粉が受粉した場合は、白色は劣性なので、キセニアが発現しても粒は白くならず黄色いままだ。キセニアは粒の色だけでなく、甘みの減少など、食味にも影響を及ぼす。つまり品質の劣化である。そのため通常、トウモロコシの栽培では近くに異なる品種を育ててはいけないとされている。

白色種の雌穂に黄色種の花粉がつくと、白の粒に黄色が混ざる
ところが以前、家庭菜園を始めたばかりの友人が、それを知らずに品種の異なるトウモロコシを隣り合った畝で育ててしまった。どちらも黄色い粒の品種だったので見た目の変化はなかったが、食味はどうかと食べてみたところ、思ったほど悪くない。それどころかむしろ甘みが増しているように感じたのである。
なまじの知識で「キセニア=品質の劣化」という固定観念ができ、私自身、トウモロコシの栽培は1品種を徹底していた。しかし考えてみれば、キセニアで品質劣化が懸念されるのは、飼料用のデントコーンやポップコーンに使われる爆裂種とスイートコーンが交雑した場合だろう。スイートコーン同士のキセニアについては、どこまで品質に影響が出るのかはっきりとはわからない。
そこで、意図的にキセニアを発現させ糖度と食味を検証してみた。先に述べたようにスイートコーンの黄色種と白色種を同じ畝で同時に栽培することで、キセニアの発現が目で見てわかる。結果は普通栽培に比べてキセニア果の糖度がアップ。中には20度を超える高糖度を示したものもあった。

白色種に黄色種の粒が混じったキセニア株。もともと黄色に白の粒が混じったバイカラー種ではない
仮説を立て、実験し、科学的に検証する
このように実験では、仮説を立て、それに基づいて実験を行い、生育や収量のデータをとって、私がわかる範囲でなるべく科学的に検証・考察している。ただし本来、植物の生育は光、水、温度、土壌環境、養分といった多くの要因に制御されるもので、単一の要因で劇的に変化することはあまりない。そういう意味では私の実験も、必ずしもそのやり方だけが結果の要因とは言い切れないし、そもそも糖度や収量はもともと品種が持っているポテンシャルを超えることは難しい。それはわかっている。でも、普通に栽培していてそのポテンシャルを引き出せていなかったとしたら、こんなちょっと風変わりな実験を試してみる価値はある。それで狙い通りに野菜が育ったら面白いじゃないか。
裏ワザ栽培の詳しい方法や結果については、拙著「家庭菜園の超裏ワザ」をご覧ください。ちょっと過激でユニークな20のワザを紹介しています。ぜひ手に取ってみてください。

「家庭菜園の超裏ワザ」(家の光協会)
撮影:阪口克
















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