有機栽培を選んだのは「格好いい」と思ったから
齊藤さんは35歳。さいたま市で0.7ヘクタールの畑を借りて、約40品目の野菜を農薬や化学肥料を使わずに育てている。多品目は、病害虫や天候の影響で出荷量が大きく減るのが目的。無農薬栽培の定石だ。
主な品目はサトイモやジャガイモ、ニンジン、ケール、モロヘイヤなど。珍しいところでいうと、ポップコーン用のトウモロコシも育てている。販路はスーパーの地場野菜コーナーや飲食店、農協の直売所などだ。
農業をやってみたいと思うようになったのは、マルシェの運営に携わり、農家と交流したことがきっかけだ。もともと「食べ物の大切さや食の安全」に関心があったが、彼らと接して自分も農家になろうと心を決めた。
有機栽培を選んだのは、それを実践している先輩農家と接して「格好いい」と思ったからだ。「農薬を使っていない」というフレーズが魅力的に響いたという。農業大学校で栽培技術を学び、2024年5月に就農した。

ジャガイモのノーザンルピー
あらかじめ触れておくと、いまは慣行栽培をしている農家とも付き合いがあり、彼らの営農のスタイルも「格好いい」と思うようになった。「びしっと草が生えていない畑の美しさもわかるようになった」と話す。
それでも、就農時に選んだ農薬や化学肥料を使わないというやり方はこれからも続けていこうと思っている。ただし有機JASの認証を取ったり、「栽培期間中農薬不使用」という表記を使ったりしようとは思っていない。
理由を聞くと、齊藤さんは「自分はあまのじゃくな性格だから」と答えた。その言葉が意味するものを、じっくり語ってもらった。

齊藤昇平さん
「何がいいものか」は人によって違う
齊藤さんは慎重に言葉を選びながら次のように語った。「(農薬を使っていないことを表記するのは)武器にもなるし、危うさもあると思う。聖なるもの的な、特別なものというイメージがつき過ぎるのを避けたい」
農薬を使わず育てることに意味がないと考えているわけではない。化学的なものへの何かしらの疑問もある。だがそうしたことを「人に伝えるべきかというと、それも違うと思う」。だからあえて表記しようとは思わない。
根底にあるのは、「安全や安心」への謙虚な姿勢だ。「病は気からという言葉があるように、自分がいいと思うものを食べるのが一番」。そう考えるから、農薬不使用と表記して「特別なもの」とアピールする気にならない。
より大切にしているのは、作物を入れた袋に貼るラベルで何を伝えるかだ。農薬を使っていないことを表記すれば、一定の消費者に訴える効果があることはわかっている。だがそれよりも優先したいことが他にある。
「見せたいのはうちのロゴやキャラクター、食べ方。それを伝えようと思うと、農薬を使っていないことを書くスペースがもったいなくなる」。伝えたい情報の順位を考えると、栽培方法に関する言葉は脱落するのだ。

ポップコーンの作り方を表記したトウモロコシのラベル

















