ステレオタイプな見方は真実を見失う
政府は2025年度版の農業白書(食料・農業・農村の動向)を今年5月29日に閣議決定した。巻頭特集は「米の安定供給に向けた対応」。注目すべきはそこでたっぷりと紙幅を割いた米騒動の原因分析だ。
その内容を紹介する前に、米価高騰の「犯人」についての世の中一般の受け止め方に触れておこう。
筆者は社会人や学生を相手に農業をテーマに講演することがしばしばある。その際強調するのは「転売ヤーの影響は微々たるもの」「農協が主導して米価を上げたわけではない」の2点。すると「意外」という反応が出る。
こうした勘違いの背景に何があるのかは明らかだ。起点はテレビをはじめとした一部のメディア。「識者」たちが声高にこうした説を唱えた。SNSがそれを増幅した。誰かを「悪玉」にして、批判の的にするわかりやすい構図だ。だがステレオタイプな見方は往々にして真実を見失う。

米価が上昇したのは事実だが…
この点に関し、メディアの勉強会で話をしたとき問題の根深さを知った。話し終えた後、テレビの関係者が「自分たちもたっぷり時間があればやりようはある。でも短い時間で伝えるのは難しい」と打ち明けたのだ。
それを何とかするのが責務ではないかと思った。だが出席者の1人は話に共感してくれてその後、生産者や研究者が対談する形で長尺の番組をつくってくれた。その内容はとても中立的なものだった。
では農業白書は騒動の原因をどう説明したのか。その内容に移ろう。
インバウンドと家計消費と歩留まりの低下
米価が高騰した主な要因について、白書は「生産量が需要量を下回っていた」と記した。当然だと思うかもしれないが、これは米価が急激に上昇した2024年夏ごろの説明と矛盾する。当時、農水省は「コメは足りている」と強調していたからだ。
理由は農水省が状況を見誤ったことにある。白書はこの点を率直に認めた。「需要のマイナス・トレンドの継続を前提として需要を見通していたこと等から、生産量が足りていると認識していました」。過去の延長で考えていたことが、判断ミスを招いたと公式に表明したのだ。
長年続いてきた需要のマイナス傾向にはさまざまな要因がある。大きいのは食生活の変化。高齢化と人口減少も重なり、コメ消費は右肩下がりが続いていた。

猛暑で精米歩留まりが低下した
2つの要因でトレンドに変化が生じた。1つはインバウンドの需要で、2023年と24年を合わせて約12万トンに達した。新型コロナでストップしていた人の移動が本格的に回復し、日本に来た外国人がコメをたくさん消費した。
家庭での購入量の前年比の増加分もこの2年間で約13万トンあった。米価の上昇より小麦製品の値上がりが先行していたため、「値ごろ感」から需要が増えた。続いてコメが足りなくなるとの不安が強まり、「買いだめ」が起きた。
重要なのは需要だけでなく、供給面でも予想外のことが起きたことだ。

















