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ベランダ菜園から始まった女性農家の15年 直売所で直面した「壁」を乗り越えて地域を支える“担い手”になるまで

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

ベランダ菜園から始まった女性農家の15年 直売所で直面した「壁」を乗り越えて地域を支える“担い手”になるまで

農業は地域密着型の仕事といわれるが、どこまで地域と関わるかは人それぞれだ。神戸市で15年前に就農した森本聖子(もりもと・しょうこ)さんは時間をかけて地域にとけこみ、担い手としてさまざまな役割を果たすようになった。

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ベランダ菜園を機に農業の世界へ

「以前この地域は新規就農者が少なくて、1日畑にいても誰とも会わないことが多かった。それがいまは就農者がこの近くを通って畑に行く姿を見かけるようになった」。森本さんはしみじみそう話す。

この変化には森本さんが少なからず貢献している。そのことは後述しよう。

森本さんは46歳。もともと旅行会社に勤めていたが、ベランダで趣味で野菜を育てたことをきっかけに農業に興味を持ち、県が運営する農業学校での研修などを経て就農した。2011年のことだ。

就農場所は実家のある神戸市の市街地から車で30分ほど走ったところにある北区淡河町。山あいに畑が点在している地域で、「風景が気に入ったからここで就農することにした」という。

栽培面積は40アール。年間を通して50~60種類の野菜を育てている。2025年からは仲間とコメを作り始めた。田んぼの面積は1ヘクタールからスタートし、26年は3ヘクタール、27年は5ヘクタールに広がる見通しだ。

さまざまな野菜

森本聖子さんが育てたさまざまな野菜

栽培と配達の両立のむずかしさ

では森本さんの取り組みがより地域に密着していくプロセスを振り返ってみよう。販路の変化がそのことを映す。

最初は地元の農協の直売所に出荷してみた。ところが出してみてわかったのは、ベテラン農家との違い。「野菜の立派さや大きさが違う。自分は中途半端な出来で、中途半端な量」。質も量も差があることに気づいた。

それでも売ろうと思えば思い切って値段を下げるしかない。「この戦いをずっと続けることはできない」と痛感した。

作戦を変え、選んだ先は市街地の飲食店。マルシェにも出店した。都市近郊という立地を生かしたわけだが、このやり方にも難しさがあった。週に何度も飲食店に配達しながら、栽培にも力を入れるのは無理があると考え始めた。

そこで改めて知ったのが直売所の意義だ。畑から遠くない場所に出荷先があることが、農家にとっていかに恩恵が大きいかに気づいたのだ。就農から5~6年たったときのことだ。

少しずつ直売所への出荷を増やし、飲食店やマルシェと並ぶ販路の柱に育てた。飲食店向けには西洋野菜がメインだったが、直売所は珍しい野菜ばかりでは売りにくい。それに合わせ、食卓の定番の普通の野菜も増やしていった。

ベテラン農家との腕の差を感じたから、はじめは飲食店向けにシフトした。いまはどう思っているのだろう。そう聞くと、「イチゴやトマト、ダイコン、キャベツ、セロリは得意になった」と話した。

イチゴ

イチゴは得意な品目の1つ

新規就農者に「先生と呼ばないでほしい」

地域を担う農家の道を着実に歩んでいる。そしてその貢献は、新規就農の後押しや地域の活動への参加という形で広がりを見せている。

まず就農支援から説明しよう。神戸市には短い時間の研修で農地を借りることを可能にする制度がある。「マイクロファーマーズスクール」という名前の民間の講習機関の取り組みをモデルにしてできた制度だ。

マイクロファーマーズスクールの拠点は森本さんが就農した地域にある。森本さんはそこで実習と座学の講師を務めている。すでに神戸市の制度を利用しながら100人近くが受講し、淡河町を中心に20人以上が農地を借りた。就農のタイプは専業、兼業ともにある。

彼らのうち何人かは、あえて回り道をして森本さんの作業場の近くを通って自分の畑に向かう。これが冒頭で紹介した森本さんの言葉の意味だ。1日誰とも会わなかったころとは大きく様変わりした。

栽培技術などに関して、いまも相談を受けることがある。彼らには「絶対に先生と呼ばないでほしい」と話している。自分が地域で特別な立場の人であるかのように周囲に思われないようにするためだ。草刈りや池の溝の掃除など地域の活動にも参加するよう呼びかけている。

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