なぜ今、日本市場に参入するのか
今回の意思決定の大きなきっかけとなったのが、東京都羽村市に設立した研究開発施設オープンイノベーションセンターの存在だ。研究の一環として栽培したイチゴを日本の食品関係者に提供したところ、「この品質のものをオールシーズン百発百中で出せるなら今すぐにでも欲しい」と予想以上の評価を得た。通常のイチゴは、同じ品種であっても生産者や時期によって味が変わる。しかし同社の植物工場では、環境条件を精密に制御することで、年間を通じて同一品質のいちごを安定供給できるという点が決定的な差別化になった。「日本はもともと高品質なイチゴが数多く流通しており、一見すると新規参入の余地は少ないように見えました。しかし、食品関係者や市場関係者と対話を重ねるなかで、マーケットに出せば喜んでくれる方がたくさんいるのだと実感を得ることができました」と古賀氏は振り返る。

Oishii Farm CEOの古賀大貴さん
もう一つの大きな手応えが、供給の空白に対するニーズだった。一般的なイチゴは冬から春にかけて収穫され、流通は12月から4月頃に集中する。それ以外の時期は市場にほとんど出回らない。一方、Oishii Farmの植物工場では年間を通じた生産が可能だ。
「夏場に供給できるのであればぜひ欲しい、という声も非常に多いです」(古賀氏)
この品質の再現性と安定供給の両立こそが、従来のイチゴとの決定的な違いとなっている。

米国のOishii Farm植物工場
オープンイノベーションが生んだもう一つの成果
同社のオープンイノベーションセンターも8月5日に開所式を迎え、本格稼働が始まった。日本での研究拠点の立ち上げは、技術面でも大きな進展をもたらした。これまで同社は、米国で自社チームによる農場建設を行ってきたが、日本では外部企業と連携して施設を構築。その結果、開発・建設のプロセスが体系化されたという。「外部の会社と組みながらできたことで、設計の標準化や 建設プロセスの体系化 、他地域への展開ノウハウの蓄積 の一歩となりました。今後、他国で同じような農場をつくる際にも、どういう体制でどう作るかという指示ができる状態になってきました」と古賀氏は話す。
今回の日本市場参入の裏には、「品質」だけでなく、「供給の在り方」そのものを見直す意図がある。ただし、それは既存の国産イチゴの価値を揺るがしたり、シェアを奪ったりすることを目的としたものではない。農業従事者の減少によって将来の日本の供給量の落ち込みが避けられないという現実を見据え、その不足を補完する新たな選択肢としての位置づけだ。
同社が目指すのは、競争ではなく共存。そして、外部環境に左右されない生産体制を通じて、食料の安定供給を支えるインフラの一翼を担うことにある。


















