![]() |
森脇さやさん 岡山市出身。九州大学農学部卒業。都内IT企業で法人営業を経験後、ニュージーランドの複数のファームで農業を学び、帰国後、岡山県瀬戸内市へ移住。「ノーディグ農法No Dig(耕さない農業)」による野菜づくりを実践している。YouTubeで畑づくりや暮らしを発信するほか、オンライン講座やワークショップを通じて、家庭菜園から始められるノーディグ農法の普及活動にも取り組んでいる。 |
体力がなくても続けられる畑を求めて

畑を借りた直後の様子。4〜5年ほど耕作放棄地になっていた。
今回お話を伺ったさやさんは、岡山県の瀬戸内海に面した町で、約20アールの畑を一人で管理しています。もともとは在宅勤務の仕事をしながら、週末農業で野菜を生産・販売する兼業農家としてスタートしたそうです。ところが2年ほど続けるうちに、あることに気づいたと言います。
「農家さんって朝から晩までずっと畑に出て作業するのが一般的なのに対して、私は1日3時間ぐらい畑に出るともう体力の限界で。野菜の生産で生計を立てる農家を無理に目指すよりも、畑にいて楽しいとか、種から食べ物を作れる経験が生きる上での安心感につながっているとか、そういうことをより多くの人に伝えたいという気持ちのほうが強くなってきたんです」
現在は野菜の販売も続けながら、栽培講座や畑での体験ワークショップ、YouTubeチャンネルでの発信なども活動として新しく始めているそうです。
ノーディグ農法ってなんだ? 原則はたった2つ

ノーディグ農法を始めて一年目の様子
ノーディグ(No Dig)はイギリス英語で「耕さない」という意味。アメリカではノーティル(No till)と呼ばれますが、どちらも同じ「耕さない農業」を指します。農家向けというよりは、家庭菜園や小規模のオーガニック農家の間でヨーロッパやアメリカを中心に少しずつ広がっているそうです。
さやさんによると、原則はたった2つ。「できるだけ土をかき乱さないこと」と「土をむき出しにせず、有機物でカバーしてあげること」です。「土の中にはすでに自然界のネットワークができていて、ミミズや目に見えない微生物たちが暮らしています。そういった生き物たちが、野菜に必要な栄養素を作って届けてくれる。だから人間が外から肥料を入れなくても、生き物に活躍してもらうことで野菜を育てられるんです」と教えてくれました。これは日本で広まっている自然農法の考え方にも通じるところがあります。
ノーディグ農法の特徴は、土をカバーする有機物として堆肥を使うこと。通常、堆肥は土の中に混ぜ込んで使うことが多いですが、ノーディグ農法では5〜7センチほどの厚さで敷き詰めていき、そこに野菜を植えるという変わったやり方で栽培します。これは野菜に直接栄養をあげるためではなくて、土の中の生き物にエサを与える目的で有機物を供給するという発想のようです。
ノーディグ農法の始め方を聞いてみた

では実際に、どうやって耕さずに畝を作るのか、さやさんに教えていただきました。
まず、ノーディグ農法ではかまぼこ状に畝を立てたりせず、真っ平らな地面からスタートします。畝にしたい範囲を決めたら(さやさんは木枠を使っていますが、麻ひもでラインを引くだけでもOK)、草が生えたままの土の上に段ボールを敷いていきます。

「段ボールはだいたい炭素分でできているので、土の上に敷くと2か月前後で微生物がご飯として分解してくれて、目視できなくなります。その間に、下にあった雑草は光が遮断されて枯れてしまう。これから発芽しようとしていた草も生えてこなくなるんです」とのこと。
隙間から草が出ないよう、切り込みのあるところは二重三重に重ねるのがコツ。雨の少ない時期なら土とダンボールが密着しやすいようにジョウロで湿らせてあげるとよいそうです。ちなみに新聞紙や米袋などの薄い紙は雑草が枯れるより先に分解されてしまうため、段ボールの厚みがベストとのこと。

そして段ボールの上に、堆肥を5〜7センチの厚さでのせたら、もう完成。完熟した堆肥を使用しているのであれば、この段階ですぐに種をまいたり苗を植えたりしてOKだそうです。
クワを使って土を動かす作業は家庭菜園で一番の重労働ですが、ノーディグ農法ではその工程をまるごとカットできます。さやさんのように「体力に自信がない」という方でも始めやすいポイントですね。

堆肥の周りの段ボールはそのままでもOK。このときはウッドチップで覆っている
雑草についても、最初の1年はかなり生えにくく管理が楽だそうです。ただし、まったく生えないわけではありません。
「段ボールが抑えられるのは主に一年草の雑草です。スギナのような宿根草は地下茎が残っているので、段ボールが弱ってくるタイミングで少しずつ出てきます。ただ、出てきたら取る、を続けていると地下茎もどんどん弱って、半年から1年ぐらいで出てこなくなりますね。風で飛んできた種が堆肥の上で発芽することもありますが、堆肥は柔らかいので、レーキや草削りで表面をカリカリと動かすだけで簡単に除草できます」
雑草対策が楽な点もノーディグ農法のうれしいポイントですね。
最大の難点は「堆肥の量と質」

堆肥を敷いた後の状態。畝間はバークチップを敷いている。
いいことずくめに聞こえるノーディグ農法ですが、もちろん課題もあります。さやさんがはっきり「最大のデメリット」と言うのが、堆肥を大量に必要とするところ。1年目は5~7センチほどの厚さを敷き詰められるほどの量が必要ですし、2年目以降も少しずつ土が減っていくので、新たに2センチほど追加していくことが必要となります。
「特に初年度はある程度しっかりした量が必要なのが、ノーディグの難しいところです。私はホームセンターでバーク堆肥や腐葉土を購入したり、山の側溝に溜まってふかふかの腐葉土になった落ち葉を地域の溝掃除の一環としてもらったり、近所のキノコ農家さんから廃菌床をいただいて1年以上発酵させてから使ったりと、いろいろ工夫しました」
まず最初に堆肥の量を確保するというところでつまずく方も多いようです。
「うまくいっていない方の写真を見せてもらうと、堆肥の量が少ないことがほとんどです。最初はふかふかで分厚くのったと思っても、雨で徐々にかさが減って、数週間で土が見えるくらいになってしまう。そうなると草がわーっと生えてきます。それから、段ボールに抵抗があって使わずに始める方も、やっぱり草刈りに追われることになってつまずきやすいですね」
そして量と並んで大事なのが質。ここには失敗談もあるそうです。
「ホームセンターの牛ふん堆肥には未完熟のものも多くて、匂いやガスが出ている状態のまま畝にのせてしまったら、作物が黄色く枯れていったことがありました。堆肥の量と質がノーディグの肝なのですが、ここでつまずいて『ノーディグダメじゃん』となる方が多いのかなと思います」
もし購入した堆肥の質が不安なら、一度家で寝かせて発酵を進めてから使うと安心です。落ち葉や枯れ草が手に入りやすい地方なら、山積みにして生ゴミなどを加えれば自分で堆肥を作ることもできます。さやさんも今はコンポストベイ(堆肥置き場)を畑に作り、近所の庭木の落ち葉をもらって堆肥を自作しているそうで、「そこまでいって自分でサイクルができてくると、本当にいい農法だなと思います」とのことでした。
なお、日本にも一般社団法人日本ノーディグ協会が新潟に設立されていて、オーガニック堆肥や、すぐ始められる「ノーディグセット」も販売されているそうです。材料が手に入りにくい方はこうしたところを利用するのも一つの手ですね。
ノーディグ農法は野菜づくり初心者にオススメ!
新たに野菜づくりを始める人にありがちなのが、野菜はうまく育たないのに雑草ばかりが元気で、草刈りが追いつかなくて心が折れるというものです。その点、ノーディグ農法は良質な堆肥を大量に使うことで、野菜が一年目から育ちやすく、雑草も生えてきにくいというのはとてもうれしいポイントです。
大量の堆肥が必要になる初年度は準備が大変なところもありますが、最初だけ頑張れば後は繰り返し耕すなどの重労働が少ないのも魅力的ですし、続けていくハードルが低い点もありがたいですね。土を耕す体力に自信がない方や草刈りに疲れてしまった方にとって、心強い選択肢になると思います。ぜひ参考にしてもらえたら幸いです。
さやさんは岡山県でノーディグ栽培の講座やワークショップを開催しながら、YouTubeやインスタグラムでも発信をされています。気になる方はぜひチェックしてみてください。



















読者の声を投稿する
読者の声を投稿するにはログインしてください。