切り上げ剪定とは?

切り上げ剪定
2022年ごろのことだ。筆者が「切り上げ剪定」という言葉を初めて知ったのは、長崎県で柑橘を栽培している平田守さんの剪定方法を教わったのがきっかけだった。

筆者(左)、右はベテラン柑橘農家の平田守さん
「下がっている枝を切り、上へ伸びる枝を残す」という剪定方法であるが、その考え方は非常にシンプルであり、果樹栽培をはじめたばかりの筆者はとにかく驚いた。
切り上げ剪定というのは、学術的に定められた剪定用語というより、現場で使われている剪定技術の呼び方である。切り方そのものは前回の記事で紹介した「切り戻し剪定」、つまり不要な枝を分岐部分まで戻って取り除く方法を主体としているが、どの枝を切るかというと、下向きの枝を切るのだ。
前回の記事では「切り戻し」と「切り返し」の違いを解説した。「切り戻し」は、枝元から不要枝を取り除く剪定であり、「切り返し」とは、若い枝の途中を切って芽を動かす剪定である。切り方によって、その後の樹の反応が大きく異なる。ぜひまだ見られていない方は、先にそちらを読んでいただきたい。

「切り戻し」と「切り返し」の違いについて
切り上げ剪定について話を戻そう。下側に垂れた枝と上側に伸びた枝があった場合、切り上げ剪定を行うとすると、下側の枝を分岐部から取り除き、上側の枝を残すのである。つまり、剪定で下側の枝を落とし、枝を切り上げていくのである。
では、なぜ下向きの枝ではなく、上向きの枝をわざと残していくのか?次章で詳しく解説しよう。
上向きの枝を残す理由 「木の健康」と「安定生産」
果樹栽培において上向きの枝は、よく剪定される候補になりやすい。木が大きくなりすぎるという心配のほか、栄養成長が強くなりすぎて、果実がならないのではないかと懸念されるからだ。筆者も果樹栽培をはじめた最初のうちは上向きの枝を剪定して、下向きの枝ばかり残していた。こうすれば樹勢も落ち着き、実付きが良くなると考えていたが、実は上向きの枝を残した方が、木が健康的になって樹勢が落ち着き、安定的に果実生産ができるような状態になることがわかった。
上向きの枝と下向きの枝を切った時の反応の違い

図1 AとBで、切った時の反応の違いを考える
ここで、図1のような枝について、赤いAのラインと、青いBのラインで剪定をしたあとのその後の反応について少し考えてみたい。ぜひ、皆さんも記事を読みながら、その後の木の反応を想像してほしい。
Aのラインで切った場合
実は、Aの部分から上向きの枝を落とすと、この枝の周囲の枝が強勢化するか、徒長枝のようなものが発生する可能性が高い。上向きの枝に関しては、このような枝を中心に養水分の流れる態勢ができており、この枝の影響で周囲の枝の勢いが落ち着いている場合が多い。上向きの枝というのは、木全体の勢いを調整している大事な枝であることが多く、このような上向きの枝を急に切り落とすと、行き場を失った養水分を受けるように新たな徒長枝が発生しやすくなる。
少し極端な例になるが、例えば図1の上向きの枝全てを取り除いた場合、図2のようになる可能性が高い。

図2 上の枝全て(Cのライン)を切ると、余計にひどい様子になる
上向きの枝を全て除けようとすると、逆に勢いの強すぎる枝が多数出現して、その後手の付け所がわからなくなるような木になることが多い。木はこれまであった高さが一時的に失われると、その損失分を補うように、真上に育つ、勢いの良すぎる枝が発生しやすい。そうなると、果実生産どころではないような木になってしまう。
Bのラインで切った場合
では、逆に図1をBのラインで切った場合を考えてみたい。
Bの場合は、下向きの枝であり、木の高さが失われたわけではない。Bの枝を切ったからといって、光合成能力がそこまで落ちるわけでもなく、木全体の樹勢を調整するような役割も低い。このような枝に関しては剪定後、樹勢が強勢化することが少なく、落ち着きのある状態を維持しやすいのだ。
また、下向きの枝に関しては、日光が当たりにくい場合があり、枯れ枝になってしまったり、木全体の風通しを悪くしてしまう可能性がある。そのため筆者は、積極的に下向きの枝は剪定するようにしており、風通しの改善を図っている。風通しが良い木は健康的であり、病気も少なく、花も果実もつきやすい。
良い枝には良い果実がなる

春芽に着果してる(平田さんの柑橘)
果樹栽培をする際には、やはり果実を生産するための良い枝を作る必要がある。これは日頃の剪定の積み重ねが重要で、不要な枝を取り除き、有用な枝を残しつつ、木全体の樹勢をコントロールする必要がある。
平田さんは口癖のように「弱い枝には弱い花がきて、強い枝には強い花がくる」と口にしていた。筆者も多くの果樹を育てているが、本当にその通りだと思うし、しっかりと果実生産を可能にする強い枝をとにかく作ることを意識している。
柑橘では枝や花の状態と、その後の結実・果実品質に関係があることがわかっている。例えば、ウンシュウミカンの場合、葉を伴わない「直花」から生じた果実では生理落果率が高いが、葉を伴う「有葉花」では生理落果率が低い。さらに有葉花由来の果実は直花由来のものより大きく、糖度も高く、酸含量が低い傾向がある。
平田さんが切り上げ剪定を実施している木では、葉を伴う「有葉花」が見事に多く見られ、果実もとにかく美味しい。他のみかんが食べられなくなるほどだ。
下枝を切るのに、なぜ樹高を低く維持できるのか?
木を低くしたいのであれば、上の枝を切った方が早いのでは?と思う人もいるだろう。
ところが、果樹はそう単純ではない。樹高を下げようとして上部の枝を途中から強く切り詰めると、その剪定の刺激によって切断部付近から強い新梢が何本も発生することがある。つまり、低くしようとして上を切ったのに、翌年もっと強い枝が上へ伸びてくるのだ。
平田さんの柑橘では、残された上向きの枝に果実が着果すると、その重さによって枝が徐々に下側へ倒れてくる。果実も胸の高さ以下になり、収穫もしやすくなる。そして翌年、さらに上向きの若い枝へ更新する。

びっしりと実る果実
「上を切って低くする」のではなく、「枝を更新しながら結果的に高さを維持する」という発想である。
筆者自身もこの考え方をマンゴーやアボカド、ホワイトサポテなどの熱帯果樹へ応用している。沖縄県では台風対策の意味でも低樹高管理は重要なので、筆者にとって切り上げ剪定は非常に興味深い技術の一つとなっている。
盃状形の低い樹形を作る際も切り上げ剪定が重要

ビワの剪定、樹形作りについて荒牧貞幸先生から教えていただく
平田さんにご紹介いただき、長崎農大で果樹栽培の指導を行っている荒牧貞幸先生にビワの剪定についても詳しく教えていただいた。
荒牧先生が学校で扱う品目は中晩柑、みかん、レモン、ビワ、ブドウ、スモモ、モモ、ナシ、イチジク、ウメ、柿、ブルーベリー、マンゴーなどと幅広い。果樹栽培歴は30年と筋金入りだ。
さて、ビワの剪定も面白い。柑橘やマンゴー、その他多くの果樹と同様の点が多くある。ビワの剪定も基本的には「切り上げ剪定」である。分岐部の下側の枝を切り、上方向に伸びる枝を下側へ誘引して、ハウスでは盃状の樹形を作る。露地栽培など高さを出しても良い場合は、上記画像のような主幹形で作ることもある。

図3 盃状形と主幹形のイラスト。ハウス栽培のビワは左の盃状形を作る

どこで切り上げても良い
ビワも切り上げ剪定で、分枝部の下向きの枝を剪定する。ビワの場合は、弓形状に枝が発生しやすく少々迷うこともあるが、荒牧先生は「理屈がわかればどこで切っても良いよ」という。図3は、切り上げ剪定をするときの候補を示しているが、ハウスのスペースを考えて、①~④は自由に切って良いという。スペースを広く使える場合には、③か④で切っても良い。ただし、上向きの枝は残すようにしている。
果樹剪定には「絶対にここを切れ」ということはないが「ここを切ったらこうなりやすい」はあるため、理屈を理解して、目的の樹形を目指す。
また、剪定と同時に、先端の芽を一つにする作業も行っていく。
将来的に混み合わないように、芽かきをするのだが、こちらも強い芽を残す。

先端の芽を一つに絞る
強い芽を残すことによって、強い太い枝が出る。この太い枝の方が、ビワの果実が太り、良質な果実ができるという。
まとめ
剪定は、果樹栽培の中でも特に難しい作業の一つである。木の前に立っても「どの枝を切ればいいのかわからない」と手が止まってしまう人も多いだろう。そのようなときに、切り上げ剪定のように「上向きの枝を残し、下向きの枝を切る」という一つの方針があると、剪定はぐっとやりやすくなる。
この剪定だと、木全体の樹勢を大きく乱しにくく、古くなった下枝を整理しながら、若く勢いのある枝へ更新していけるため、非常に使いやすい剪定方法だと筆者は感じている。
柑橘やビワだけでなく、筆者はマンゴーやアボカド、ホワイトサポテなど、さまざまな果樹にもこの考え方を応用している。樹高を抑えながら樹勢を維持し、良質な果実を生産するための枝を残していける点でも、とても便利な考え方である。
剪定は最初から完璧を目指すと難しいが、まずは下向きの枝を切り、上向きの枝を生かすというシンプルなルールから始めてみると、木の反応も観察しやすくなる。切ったあとにどの枝が伸び、どのように果実がつくのかを見ていけば、少しずつ剪定の理屈も見えてくるはずだ。切り上げ剪定は、剪定に迷っている人にこそ、一度試してもらいたい方法である。

















