焼き鳥屋で食べたホワイトアスパラが原点

アスパラのおいしさから就農を決意した
飯畑さんは福島市出身。就農前は福島市内で飲食チェーンの役員を務めていた。飲食業にやりがいはあったが、「待つ商売」の限界も感じていたという。
「店舗を構えてお客さんを待つというスタイルに厳しさを感じました。営業をかけても企業の宴会は年に一回あるかないか。でも、目の前にある食材をつくる一次産業なら、自分で作ったものを全国に届けられると思ったんです」
転機は、焼き鳥屋でホワイトアスパラを注文し「アスパラっておいしい」と盛り上がったのがきっかけだ。
「本当にそれだけなんです。ただアスパラが好きで。でも、やるからには福島一、東北一、日本一を目指そうと」
就農前の準備期間には、書籍やYouTubeで知識を詰め込み、会津、宮城、新潟、宇都宮と各地のアスパラ産地を視察して回った。しかし訪ねた先の多くは経験と勘に頼る昔ながらの農業で、飯畑さんが思い描く姿とは違った。
最後に紹介されたのが、近隣市のベテラン農家だった。元型枠大工の職人で、畑に草一本生えていないほど几帳面。肥料や土壌の管理を数値で把握し、肥料メーカーと連携して土壌検査に基づく栽培を実践していた。「この人だ」と直感し、以来、現在に至るまで指導を受けている。
初期投資7000万円、助成金100万円。資金調達のリアル

法人化して農地を購入。現在は38棟のハウスで栽培している
2021年、飯畑さんは役員4人で株式会社Good field farmを設立した。1年目から法人化したのは、農地を借りるのではなく「買う」ためだ。ハウスを建てた後に地主とのトラブルが生じるリスクを避けたかった。
最初の圃場は福島市下飯坂。15棟のハウスを建て、費用総額は7000万円を超えた。しかし助成金はJAからの100万円のみ。「農業=助成金がたくさんもらえる」という甘い認識は、すぐに打ち砕かれた。
「逆に火がつきましたね」
資金の大部分は趣旨に賛同してくれた企業からの出資で賄った。就農3~4年目には圃場を追加し、現在は福島市内2カ所と川俣町1カ所の計3圃場を運営。ハウスは計38棟、面積は約1ヘクタールに拡大している。
「勘」を排除する。1棟ごとの数値管理が支える収穫量

土壌の分析結果を確認しながら栽培管理をしている
Good field farmの栽培管理は、徹底した「数値化」に支えられている。全棟をハウス栽培とし、肥料メーカーと連携して液肥で管理する。土壌検査は年3回。収穫前の12月、春収穫後の4~5月、そして夏から秋にかけて実施し、土壌中の養分バランスを確認する。日常的にはEC(電気伝導度)とpHを測定し、肥料濃度を調整している。
「ECが一番大事。要は土がどのくらいお腹が減っているかを測るようなもの。多すぎてもダメ、少なすぎてもダメ。腹八分目に調整するのが一番いいんです」
アスパラガスは一度定植すると20年近く同じ畑で栽培を続ける。植え付け前の土作りがすべてを左右するため、同社では10アール当たり50~60トンの堆肥を初期に投入している。

環境制御で「見える化」の農業に取り組む
ハウス1棟ごとに環境制御装置も設置した。同じ圃場内でも水はけや日当たりは異なる。5年間蓄積したデータを基に、棟ごとに液肥の量と水分を微調整することで、春から秋まで品質の均一化を図っている。
主力品種はゼンユウガリバー。穂先が引き締まり、太物が出やすくB品が少ない反面、水はけの悪い圃場では病気になりやすく、栽培の難易度は高い。福島県オリジナル品種のふくきたるのほか、パープルタワー(紫アスパラ)やホワイトアスパラも栽培する。
この管理体制があるからこそ、農業未経験者でも栽培を担える。現在、正社員(役員含む)8名と選果パート十数名が在籍するが、栽培担当の中には農業歴3年目のスタッフもいる。
「全部数値化してあるので、『この数値に抑えてね』と伝えるだけ。多かったら止める、少なかったら流す。だから畑を広げられるんです」
10アール当たりの収穫量は、最も成熟した圃場で5トン。福島県の平均が2トンに満たないなか、突出した数字といえる。
夏に出品しても金賞を取る。野菜ソムリエサミットの受賞戦略
2023年、飯畑さんは日本野菜ソムリエ協会が主催する品評会「野菜ソムリエサミット」の青果部門にアスパラガスを出品し、金賞を受賞した。翌2024年にも金賞を獲得し、2年連続の受賞となった。
ちなみに、1回目の2023年は、あえて夏に出品している。
「アスパラは春が一番おいしいのは当たり前。冬に溜め込んだ養分が一気に出てくるから、太くて甘いものがたくさん採れる。でも夏に金賞を取れたら、『うちのアスパラは年間通しておいしいですよ』と言い切れる」
ただ、夏になると事情が変わる。養分が徐々に消耗し、細い茎が増えてくる。ここで棟ごとの数値管理が効いてくる。液肥の濃度と水分量をデータに基づいて微調整し、春に近い品質を維持する。2024年には春のアスパラでも金賞を獲得。季節を問わない品質の高さを、第三者機関によって証明してみせた。
「自分で『おいしいですよ』と言うのは簡単。きちんとした機関からお墨付きをもらいたかったんです」
受賞後は大口の取引先が2件増えたという。
作る前から売り先を決める。飲食業仕込みの出口戦略

陸奥産の竜髭菜(アスパラガス)将軍
Good field farmは自社販売が約7割、市場が約3割という販路構成をとる。自社販売の内訳は、京都の業務用卸が約3割、直販が約2割、ネット販売が約2割、地域のスーパーが約2割。
販路開拓に着手したのは、栽培を始めるよりも前のことだった。
「ハウスを建てる前からスーパーに電話しました。『うちアスパラいっぱいあるんですけど』って。まだ作ってもいないのに」
飲食店時代の顧客だった大手スーパーの幹部に直接連絡を取り、出荷の打診を始めた。結果的にスーパーへの直接卸は物流コストの問題で断念し、市場経由や業務用卸にシフトしたが、「出口から逆算して入口を設計する」という思考は一貫している。
ブランド名「陸奥産の竜髭菜(アスパラガス)将軍」は、役員4名の会議で決めた。「日本一を目指すなら、名前も日本一にふさわしいものを」。伊達政宗案もあったが、最終的に「将軍」に落ち着いた。京都の業務用卸とつながったのも、このパッケージと名前がきっかけだったという。
飯畑さんが繰り返し強調するのは、価格交渉を自分で行うことの重要性。同社では10円単位で価格交渉を行っているという。ネット販売は全てギフト仕様で、就農1年目から農協平均以上の単価を実現した。
米にも参入。10年以内に農業売上1億円へ
2025年、Good field farmは稲作にも参入した。慣行直播による栽培で、「通常の米作りでは赤字だが、この方法ならどう計算しても黒になる」と判断した。
「アスパラと米を合わせて、農業の売り上げだけで1億円が目標です。農業を始めて10年以内に達成したい」
新規就農を考える人へのアドバイスを求めると、飯畑さんは「出口」という言葉を繰り返した。
「計画書を作ること。そして入り口より先に出口を考えること。作ったはいいけど、どこに売りましょうとなってからでは遅い。自分で値段を決めて、自分で売る。それを当たり前だと思わない農家が増えてほしいですね」

















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