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「桃太郎トマト」はこうして生まれた 40年以上トマトを育種したプロが語る、品種改良の舞台裏

「桃太郎トマト」はこうして生まれた 40年以上トマトを育種したプロが語る、品種改良の舞台裏

1982年から2025年まで、タキイ種苗でトマトの育種に携わってきた畠中誠(はたなか・まこと)さん。新品種の開発を通じて栽培技術を磨き、普及の現場では多くの生産者とも向き合ってきた。そんな畠中さんに、トマトの品種改良の変遷と、育種が直面する課題、これからの可能性について聞いた。

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「桃太郎トマト」は、どうやって生まれた?

――1985年の発売以来、全国で広く栽培され、これまで32品種が開発されている桃太郎トマト。その原点となる品種は、どのようにして生まれたのでしょうか。

畠中:初代桃太郎トマトは、私が入社した当時から開発が進められていた品種で、私の先輩にあたる2人の育種家を中心に開発されました。
当時、開発で最初に目指したのは、甘いトマトではありませんでした。当時のトマトは軟らかく、流通の途中で傷みやすかった。そのため、青いうちに収穫して、流通しながら追熟させるのが一般的でした。
そこで目指したのが、硬くて、日持ちのするトマトです。完熟に近い状態で収穫しても、流通に耐えられる品種をつくろうとしたのです。

――桃太郎で評価されているおいしさは、育種の途中から加わったのでしょうか。

畠中:そうです。育種を進める中で、糖度の高い素材が見つかりました。そこで、硬さや日持ちの良さに加えて、甘さも兼ね備えたトマトを目指すことになりました。

――一つの新品種ができるまでには、どのくらいの時間がかかるのでしょうか。

畠中:育種は、とにかく時間がかかります。交配をして、植物を育て、良いものを選抜していく。その繰り返しです。一年生作物であれば年に1回、果菜類でも年2回程度しか経験できないので、10年近くかかります。当然、育種家として一人前になるまでにも長い年月が必要になります。
自分で育種計画を立て、どの遺伝資源を使い、どういう組み合わせで交配するかを判断できるようになるまでには、15年くらいは必要だと思います。

タキイ種苗在籍時の畠中さん

桃太郎シリーズとしての進化

――畠中さんはさまざまな品種を手がけられていますが、特に思い出に残っている品種はありますか。

畠中:やはり、桃太郎8ですね。初代桃太郎が出てから7~8年ほど後の品種ですが、初代桃太郎と比べて収量性が高く、当時問題になっていた土壌病害にも強くなりました。

――桃太郎から桃太郎8へと、育種では何を変えていったのでしょうか。

畠中:一つは、生産者にとってつくりやすい品種にすることです。
収量を安定させること、病気に強くすること、そしてさまざまな作型に対応できるようにすること。こうした「作型適用性を広げる」ということも、育種では重要なテーマになりました。
生産者が「この品種ならつくりたい」と思えることが大切です。たくさん採れて、販売面でも期待できて、そのうえ栽培もしやすい。そういう品種を目指してきました。

――栽培のしやすさも大きなテーマなのですね。

畠中:そうですね。トマトは、実は栽培が難しい作物です。特に大玉トマトは、栽培する人の技術によって収量に大きな差が出ます。
ですから、品種の能力だけでなく、実際にどう育つのかを知ることが重要です。私自身も育種をしながら栽培技術を身につけてきました。

桃太郎8

おいしさと流通課題のジレンマ

――現在のトマト育種では、どのような課題がありますか。

畠中:トマトには、収量や病気への強さ、栽培のしやすさだけでなく、硬さや日持ち、食感、糖度など、さまざまな要素が求められます。
特に流通を考えると、硬くて日持ちすることは重要です。ただ、店持ちを高めることと、おいしさを維持することを両立するのは簡単ではありません。

生産者にとっては収量やつくりやすさ、流通にとっては日持ち、そして消費者にとっては「おいしいかどうか」が重要です。育種では、そうしたさまざまな要求をどう両立させるかが難しいところです。

――では、これからのトマト育種に必要なものは何だと考えていますか。

畠中:収量を上げることや、病気(特にウイルス病)に強くすること、流通しやすくすることは、もちろん大切です。
でも、そこだけを追い求めてはいけないと思います。
硬くて、日持ちして、たくさん採れる。でも、おいしくない。そんな野菜ばかりになれば、消費者は「また食べたい」と思わなくなってしまいます。

やはり野菜は、「おいしいから、また食べたい」と思ってもらえることが大切です。
収量や流通性を高めることと、おいしさを両立させる。その難しさはありますが、そこを諦めてはいけないと思っています。

――最後に、今回の著書についても教えてください。

畠中:育種の仕事をする中で、トマトがどう育つのか、どんな栽培をすれば能力を引き出せるのかということも、長年考えてきました。
そうした育種や栽培の経験を、家庭菜園を楽しむ方にも分かりやすく伝えられればと思い、まとめました。生産者はもちろん、新規就農を目指す方や家庭菜園をされる方など幅広く手に取っていただきたいですね。

タキイ研究農場にて在職当時の畠中さん(2003年3月頃撮影)

 

 

畠中さんの著書「トマト・ミニトマトの栽培技術: 安定生産・収量アップをめざす
40年以上にわたりトマトの育種と栽培の現場を見てきた畠中さん。だからこそ語れる、トマトの品種特性を引き出すための知識が詰まった一冊だ。

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