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高糖度トマトの生産が期待できるフィルム農法「アイメック」は生産現場でこう使われていた!

斉藤 勝司

ライター:

連載企画:農業テクノロジー最前線

高糖度トマトの生産が期待できるフィルム農法「アイメック」は生産現場でこう使われていた!

新規就農者でも高糖度の質の高いトマトを生産できるとされるフィルム農法「アイメック」。どのような栽培技術なのかについては、これを開発したメビオール株式会社への取材をもとにすでに紹介しましたが、埼玉県熊谷市に拠点を置く株式会社栗原弁天堂では、2019年からアイメックを取り入れてトマトの生産を始めたといいます。初年度からどのようなトマトが生産されているのでしょうか。生産現場に向かい、取材してみると、触れ込み通りに高糖度のトマトが生産されており、その甘さを生かして加工品の開発にも乗り出そうとしていました。

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儲かる農業のビジネスモデルを確立したい

トマトの生産では、かん水を制限することによって糖度を高めることができます。ただし、植物を水分ストレスにさらすため、不用意に行うと、樹勢を弱めて、ひどい場合は枯らしてしまうことさえありました。そのため糖度を高めるためのかん水制限は難しいと言われてきたのですが、メビオール株式会社が開発したフィルム農法「アイメック」は、親水性ポリマーでできたフィルムを介して必要最低限の水を与えられるため、新規就農者でも高糖度トマトを生産できると言われています。そこで、アイメックの実力を確認するため、トマトの生産を始めたばかりという、埼玉県熊谷市の株式会社栗原弁天堂を訪ねました。
同社は農薬を中心とした農業資材の卸売販売を営む会社で、農業生産法人ではありません。取り扱う資材については詳しく知っていても、農業全般を熟知しているわけではなかったため、より深く農業のことを理解しようと、2019年から農業生産に取り組むことにしたといいます。同社企画室室長の藤田賢治(ふじた・けんじ)さん(上写真の中央)がこう説明してくれました。
「農業資材の卸売販売の充実が主目的であっても、農業生産に取り組むのですから、儲かる農業というビジネスモデルを確立して、縮小の一途をたどっていると言われる日本の農業に少しでも貢献したいと考えていました。そこで、いかなる作物を、どのように生産するかを検討していたところ、埼玉県の農林振興センターの元職員で、現在、弊社で技術顧問をしている渡辺一義(わたなべ・かずよし)(上写真の右)が就農初年度から高糖度トマトの生産が期待できるアイメックを紹介してくれたので、アイメックを取り入れ、トマト生産に乗り出すことにしました」

アイメックを取り入れてトマトを生産する栗原弁天堂のハウス

糖度だけでなく収量も得るためのかん水テクニック

16アールあるというハウスに入ると、約5300株の中玉トマト品種「フルティカ」が整然と植えられていて、真っ赤に実ったトマトが収穫されていました。糖度10%以上の果実は少なくなく、「新規就農者でも高糖度トマトを生産できる」という触れ込み通りに、初年度から高品質なトマトが収穫されていました(下写真)。ただし、藤田さんたちが目指す“儲かる農業”を実現するには糖度の向上だけでなく、収量も増やしていかなければなりません。
「つい糖度の向上ばかりを狙ってかん水量を絞ってしまうのですが、それでは収量は減ってしまいます。糖度に加えて、ある程度の収量も確保しようとすると、フィルムを介したかん水だけでなく、直接、根に水を与えることも必要ですが、何分、初年度なのでかん水量の調節は手探りでしたから、メビオールさんの支援は大変助かりました」(藤田さん)

栗原弁天堂のハウスで進むトマトの収穫作業

通常、フルティカの糖度は7~8%とされるが、条件が悪い中でも9.7%の高糖度のトマトが収穫されていた

アイメックによるトマト生産では、根から微細な根毛が伸びて、フィルムにびっしりと張り付くことで、必要最低限の水分が供給されます(下写真)。ただし、糖度を高めるだけでなく、収量も確保しようとすると、フィルム任せのかん水だけでは難しいようです。その点でフィルムを販売するだけに留まらず、生産をサポートするメビオールの支援体制が生かされたようです。栗原弁天堂のトマト生産を支援してきたメビオール事業開発部主任研究員の三浦茂樹(みうら・しげき)さん(上写真の左)が続けます。
「水分ストレスでしおれてしまっては光合成に支障をきたしてしまいます。アイメックはフィルムを介して水を供給するほかに、直接、根に水を与えられるので、水が必要な時期には充分に与えることができます。根がフィルムに活着した時、花が咲き始めた時などは充分な水が必要ですから、トマトの状態を見て、必要なかん水量をご案内しました」

フィルムをめくると根毛がびっしり張り付いていた

高糖度トマトだからこそ狙えるブランディング

初年度のトマト生産は、ハウスの整備が遅れたため、定植が行えたのは2019年2月でした。通常、冬春トマトの作型では9月頃に定植を行い、年末から収穫を始め、翌年の6月頃まで収穫が続けられます。この年は5月下旬から収穫できるようになり、6月下旬に取材した時点でも、トマトは健全で収穫は続けられそうでしたが、気温が上昇すると果実が軟らかくなり、出荷は難しくなってしまいます。そのため初年度の収穫はわずか1カ月間余りでしたが、それでも藤田さんは手ごたえを感じているといいます。藤田さんがこう続けます。
「せっかく良質な高糖度のトマトを生産できるのですから、いかに付加価値を付けて販売するのかが、これからの課題といえるでしょう。高糖度の良さを認めてくださる卸売業者などの販路の開拓を進めるのはもちろんのこと、ブランディングも考えています。幅広い消費者に訴求できるよう加工品の展開も検討しており、すでに高糖度という良さを活かしたアイスクリームの試作を進めています」
生鮮食品としてのトマト、そして、そのトマトから作られる加工品の本格的な生産は次の作期以降になりますが、アイメックだからこそ収穫できる高糖度トマトを生かすことで、栗原弁天堂が目指す儲かる農業のビジネスモデルが確立できそうです。

高糖度であることを生かして作られたトマトアイスクリームの試作品

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