普段は愛のこもった牛の管理について執筆している筆者ですが、今回は経費削減について紹介したいと思います。お金は愛とは直接の関係はありません。
しかしお金は余裕を生むこともあるでしょう。余裕のない人がお金を節約すれば、牛にやさしくできるかもしれませんね。カウブラシを買ったり、家族でお寿司を食べたりできるかもしれませんよ!
免税軽油とは
免税軽油とは、「軽油引取税が免除された軽油」のことです。軽油には1リットルあたり32.1円の税金がかかっているのですが、法定の要件を満たすとこの「免税軽油」が使えるようになるのです。
農業の場合、農業用機械の燃料として使う軽油は免税の対象になります。免税の対象になるには都道府県への申請が必要。申請が通り「免税軽油使用者証」と「免税証」が交付されたら、免税証に記載された販売店で免税軽油を購入できます。
しかし、免税軽油の使用などに関しては報告書の提出が必要なので、ちょっと事務作業が煩雑です。そこで今回は、私が経営する朝霧メイプルファームでの免税軽油の運用方法を紹介します。
免税軽油を活用していない人はもちろん、普段の運用が少々煩雑だと思っている人にも参考になるような記事になっています。
免税軽油使用のメリット
軽油引取税の免税制度(以下、免税軽油制度)を利用する金銭的なメリットはどの程度あるのでしょうか? メイプルファームの免税軽油使用量は毎年7万リットルほどです。2020年の軽油引取税は1リットル当たり32.1円なので、224万円節約できたことになります。ちなみに、メイプルファームの規模は飼養頭数が450頭、草地面積40ヘクタールです。営農の規模によって軽油使用量は変わりますので参考程度ですが、その効果は非常に大きいと言っていいでしょう。
しかしすべての農家が免税軽油を利用しているかといえばそうではありません。私がSNSのアンケート機能を利用して個人的に調査したところ、62人の回答があり、39%が「免税軽油を利用していない」という結果になりました。利用していない人の26%が「この制度自体をよく知らない」と回答。こういう人々に届くよう、ぜひこの記事を広めてもらいたいです。
そして13%の人が「運用が大変そう」と回答しました。今回は基本的な免税軽油の仕組みに加え、運用が楽になる表計算ソフト、エクセルの活用法も併せてお伝えしたいと思います。
なお、免税の申請に関しては、軽油引取税は県の税金であるため、各県の自治体に問い合わせることになります。
基本的なことについては、所在地の県名と、免税軽油というワードでネット検索をするといいでしょう。申請についてはここでは割愛し、現場での免税軽油運用について解説していきます。
運用に必要なもの
免税軽油をスムーズに運用するには準備が大切。メイプルファームでは下記の3つのアイテムを活用しています。
・免税用ではない軽油タンク
・免税軽油用の計量器付きタンク
・給油記録ノート
免税用ではない軽油タンク
まずは軽油のタンクを免税用と、免税ではないもの用に分ける必要があります。免税軽油の使用が認められているものは、大ざっぱに言えば農作業に特化した重機についてのみです。道路を走行するダンプや、ディーゼル普通自動車などは免税軽油の対象になっていません。

免税軽油でないタンク。ダンプなどの給油に使われる
これはつまり国の食を守る農業が、優遇されているわけです。農作物を作るための作業に対して免税が認められているので、免税軽油を許可なく利用してはいけません。
免税軽油は申請の際に、利用する重機の所有の公的な証明が必要です。認められた重機に関してのみ、免税軽油を使うことができます。
よって、農場内のみでダンプを使う場合でも、免税軽油は利用する事はできません。
免税軽油用の計量器付きタンクと給油記録ノート
免税軽油制度を利用する場合、どの重機にどれだけ給油したかを記録します。すべての重機の給油量について報告する義務があるからです。そこで、タンクには「給油計量器」が必要となります。そしてその給油量を、ノートなどに記録しておきます。

免税軽油専用の給油タンク。メーター付きで給油量が分かる
運用の効率を上げるために!
ここからは実際の運用について役立つ情報をお話しします。
・重機に番号をペイント
・タンクそばにノートと一覧表
・エクセルの有効活用
必ずしも必要ではないかもしれませんが、重機に管理番号をペイントするといいでしょう。重機の番号は、免税軽油を申請する際に決まった番号があるのでそちらを利用します。

重機ごとに番号がふられている
そして、ノートに給油量を記入する際、重機名ではなく、この番号を記入するようにします。
ノートのそばに一覧表を貼っておけば、だれでも迷うことなく記入することが可能です。

タンクそばに貼ってある給油一覧表
エクセルの有効活用
ここからが本題といっても過言ではありません。免税軽油の運用で一番煩雑なのはその報告義務にあると思います。
ここは強調しておきたいところですが、報告は当然です。免税軽油を不正利用する事は決して許されません。数年に一度監査が来ます。国民の皆様の血税を、農家は善良だと信じてくれているから“利用させていただけている”のです。もし不正利用が明るみに出れば、バッシングは避けられず、この制度そのものがなくなってしまうでしょう。
免税軽油制度がこの先もずっとあるとは限りません。この記事をあなたが読んでいる時点でなくなっているかもしれません。そうならないように正しく申請していきましょう。
ここからの話は各自治体によって報告の仕方が変わるので、一つの例として示していきたいと思います。
私の住む静岡県では、毎月免税軽油の使用状況を表にして記入し、報告する必要があります。その項目は以下の通りです。
・使用した重機の稼働時間
・稼働日数
・1時間当たりの燃料使用量
・合計給油量
・合計使用量
これらの数値のほとんどをその都度計算するのは大変です。そこでメイプルファームでは毎月提出する報告書「使用状況明細表」と同じフォーマットでエクセルのファイルを自作し、数字を入力するだけで、自動で計算できるようにしています。
実際の運用紹介
免税軽油の報告書は毎月作成しています。ここからは具体的にどのように報告業務を進めているのか順を追って説明していきます。
①重機のアワーメーターを調べる
毎月の月初めに、重機のアワーメーターを調べます。農業を営む人なら説明は不要でしょうが、すべての重機には稼働した時間を示すアワーメーターが付いています。それを調べることで、月間の稼働時間が分かりますので、免税軽油利用のすべての重機を調べます。
その値をエクセルのファイルに入力し、月末にも値を調べて入力することで、月初と月末の差分、つまり月間の稼働時間が自動で表示されるようになっています。
②給油の伝票を集計する
免税軽油は、その軽油を購入するガソリンスタンドを指定する必要があります。メイプルファームではスタンドに依頼して、牧場の軽油タンクまで配達してもらっています。そのとき受け取った伝票をもとに自作したエクセルファイルに入力していきます。
ちなみに免税軽油は「免税券」を発行してもらい、給油の際に券と交換することになっています。
③給油記録ノートの給油量を集計する
ガソリンスタンドの配達員により牧場内のタンクに配達してもらった軽油は、従業員が各自で重機に給油します。その際に、どの重機にどれだけ給油したのかをノートに記入することをマニュアル化しています。その数字をエクセルファイルに転記します。

ノートの記録を転記する
④免税軽油使用状況明細表の作成
以上の数値をファイルに入力するだけで、報告する数字が自動で出そろうようになっています。これらの数字を所定の用紙に記入すれば、免税軽油使用状況明細表の完成です。

本来提出する様式に合わせ、自作した使用状況表。色をつけたところが自動計算
A:月初めのアワーメーターと月末のアワーメーターの差によって、月の稼働時間が分かる
B:給油量を稼働時間で割ったもの(C÷A)
C:その月の給油量総計
D:すべての重機の給油量総計
E:ガソリンスタンドが農場に配達した軽油の総計
確かなことは言えませんが、自治体によっては自作のエクセルファイルが要件を満たしていれば、ファイルをそのまま印刷したものを受け取ってもらえるかもしれません。
責任は負いませんが、相談する価値はあるでしょう。
日々の作業はなるべく省力化を
免税軽油は利用すれば農場運営のコストを大きく減らすことができます。しかしその業務はできる限り省力化を目指すべきです。なぜならどのように作業したとしても得られる利益(免税額)に変わりはないからです。そうであるならば作業時間の短縮が生産性を上げる一番の道のりであることは間違いありません。
報告業務に表計算ソフトを使って自動計算を行うことは、活用している人にとってみればごく当たり前のことかもしれません。
この発想がなかったという人は、ぜひ自分で入力用のファイルを作ってみてください。面倒なのは最初だけです。
時間的余裕と経済的余裕があれば、月一のお寿司どころか、焼肉だって毎月行けるかもしれませんよ!
※ 情報は2021年4月1日時点のものです。