マイナビ農業TOP > 農業ニュース > 農家を襲った事故 事故が起きる前後でしておくべき事とお金の話

農家を襲った事故 事故が起きる前後でしておくべき事とお金の話

農家を襲った事故 事故が起きる前後でしておくべき事とお金の話

皆さんは、普段まさか自分に事故が起きるとは思っていないと思います。今回お話を聞いたレンコン農家、笑福蓮根(しょうふくれんこん)の浅海普大朗(あさうみ・しんたろう)さんも同じでした。畑からの帰り道に、突如襲った事故。全身のケガにより動けなくなり、農作業ができない事態に。そして、収入が突然ゼロとなってしまいました。サラリーマンと違い個人事業主が多い農家が事故に遭ったとき、どうなってしまうのでしょうか。

twitter twitter twitter

「岩国れんこん」の栽培農家、新たな地で営農拡大

広島県沿岸部のほぼ中央に位置し、瀬戸内海の豊かな自然と温暖な気候に恵まれた竹原市。江戸時代に製塩や酒造りで栄えた豪商のお屋敷や由緒あるお寺が並ぶ町並みは「安芸(あき)の小京都」とも呼ばれています。
そんな、自然豊かな竹原市の中でも珍しいレンコン栽培を行う笑福蓮根。

浅海さんは、元々はブランドレンコンの「岩国れんこん」で有名な山口県岩国市でレンコン栽培をしていました。
その後、家庭の事情で広島県に引っ越し。会社員として働きながら農地を探していたところ、竹原市が一番親身になって探してくれたことがきっかけで、今の場所でのレンコン栽培が2021年から始まりました。岩国市出身ということもあり、岩国れんこんの種レンコンを譲り受けて栽培しています。一般にレンコンの穴は8つですが、岩国れんこんは穴が9つあるのが特徴です。白くやわらかな肉質で、独特のもっちりとした粘りとシャキシャキ感が楽しめます。
1.4ヘクタールでスタートした竹原市でのレンコン栽培は、2022年3月には3ヘクタールに規模を拡大。更に、浅海さんは勤めていた会社も辞め、本業としてレンコン栽培に集中し始めました。

突然起きた事故、その被害は

規模拡大をした矢先の4月。畑からの帰り道の浅海さんを、突如事故が襲いました。
4月11日、畑仕事が終わり、いつも通り帰宅する為に19時ごろ公道でトラクターを走らせていました。急に後ろから、時速80キロの車が突っ込んで来たのです。不注意でトラクターに気づかなかったとのことでした。

事故前

ぶつかってきた車のドライブレコーダー

事故直前

ぶつかる瞬間。オレンジの車体が浅海さんのトラクター

事故

ぶつかった直後

浅海さんはトラクターから体ごと投げ出され、地面に打ちつけられました。結果として、奇跡的に一命は取り留めました。しかし、右肩のひび、両足と腰、首の打撲、頭痛、吐き気と動けない状態に。更に、光を見ると頭痛や吐き気が強まることから、サングラスでの生活を余儀なくされたのです。それに加え、乗っていたトラクターは全損し、直すのにかかる見積もりは500万円以上でした。

事故後

破損したトラクター

事故から4カ月経ち、現在は手と足のしびれ、首と腰の痛みが続いており、握力は65キロあったものが22キロに。農作業は現在もほぼできていないと言います。
更に、事故が起きたタイミングが、まだ6アールしか植え付けできていない時だったので、残りの2.4ヘクタールは手つかずのままです。既に植えた6アールも雑草の管理など手をかけられていないので、収穫できるような状況ではありません。

雑草だらけ

雑草だらけのレンコン畑

お金の話では、事故相手の加入している保険会社が、トラクターの年式と稼働時間から補償金額を時価の51万円と提示。事故から2カ月後の6月17日に支払われた金額は62万円。内訳は、2カ月分の生活費の補償28万円、借りている畑の管理ができないため委託した草刈りなどの費用が34万円でした。
浅海さんは、子供が4人いるので6人家族ですが、補償された金額は1カ月あたり14万円という現状です。
金額については「まだ交渉中で確定ではないので、損をしないように正当な金額はいただきたい」と話す浅海さん。
(現在、トラクターの見積書などを提出することで補償金額は110万円に変更されています。また人身損害に関する治療費などは別途支払われています。)

農家がとれる対策とは。事故が起きる前と後

事故が起きる前に確認すべきこと

任意保険の検討を
トラクターのような農耕作業用の小型特殊自動車は、自賠責保険に加入することができません。事故に遭うだけでなく、自分が事故を起こしてしまうケースも想定し、任意保険に入っておくことが望ましいでしょう。農機の販売店やJAで相談してみましょう。

収入保険や生命保険も選択肢に入れる
収入保険は、農家がもしもの時の為に積み立てをしておき、何かあった場合に自分で選んだ割合を補償してもらえる保険です。補償の対象になる要因は幅広く、自然災害、鳥獣害、事故など多岐にわたります。
「もしも起きてしまった時のリスクを考えて、加入の選択肢に入れてほしい。加入してなかったからこそ、考えておくべきだった」と浅海さんは言います。

関連記事
2019年スタート! 農業収入を補てんする「収入保険」 第1回収入保険とは?
2019年スタート! 農業収入を補てんする「収入保険」 第1回収入保険とは?
2019年からスタートする「収入保険」は、チャレンジする農業者を支援する新しい保険制度。これまでの生産品目によって異なる補償ではなく、農業者ごとの収入減を補てんすることが最大のポイントです。新たな作物の導入や販路の拡大など…
2019年スタート! 今から始める「収入保険」準備 第2回収入保険制度の基準収入と補てん金額
2019年スタート! 今から始める「収入保険」準備 第2回収入保険制度の基準収入と補てん金額
2019年からスタートする「収入保険」は、チャレンジする農業者を支援する新しい保険制度。これまでの生産品目によって異なる補償ではなく、農業者ごとの収入減を補てんすることが最大のポイントです。新たな作物の導入や販路の拡大など…

お金の動きは通帳などに記録を残しておく
農産物を直接販売するなど、現金で取引をする農家も少なくはありません。手間になるからと記録を残さないでいると、もしもの時に前年度の収入を示すことができません。自動車保険や収入保険などで、休業や収入減に対する補償を請求する際には、収入を証明する必要があります。何かが起きてからでは遅いのです。

確定申告をする
個人事業主の農家は、手間になるからとどんぶり勘定にしてしまうことが少なくありません。こちらも通帳に記録を残すのと同じで、自分の収入を証明するものになるので、申告漏れが起きないように細かい点まで気をつけましょう。

関連記事
【農家の確定申告】青色申告のメリットと決算書の書き方を知ろう
【農家の確定申告】青色申告のメリットと決算書の書き方を知ろう
個人事業主が青色申告をする際、青色申告決算書が必要になります。 決算書は、1年分の収入と経費の詳細を細かく分類します。前年と今年の経営成績を比較することができるので、来年の経営計画に役立てることができます。確定申告を事務…
【農家の確定申告】忘れたら追徴課税!? 注意したい収入の記入方法
【農家の確定申告】忘れたら追徴課税!? 注意したい収入の記入方法
青色申告をする際に必要な決算書。収入と支出を整理して記入するため、お金の流れが見える化でき、経営計画を立てる上で役立ちます。税理士である筆者が決算書の書き方を解説する2回目は、収入と給与について。農産物販売以外の収入があ…
関連記事
【農家の確定申告】忘れたら追徴課税!? 注意したい収入の記入方法
【農家の確定申告】忘れたら追徴課税!? 注意したい収入の記入方法
青色申告をする際に必要な決算書。収入と支出を整理して記入するため、お金の流れが見える化でき、経営計画を立てる上で役立ちます。税理士である筆者が決算書の書き方を解説する2回目は、収入と給与について。農産物販売以外の収入があ…
【農家の確定申告】減価償却の落とし穴
【農家の確定申告】減価償却の落とし穴
青色申告をする際に必要な決算書。収入と経費を整理して記入するため、お金の流れが見える化でき、経営計画を立てる上で役立ちます。青色申告を事務作業で終わらせないために、税理士である筆者が決算書の書き方を解説する3回目は減価償…
インタビュー時

インタビュー時の浅海さん

事故が起きた後の話

弁護士はすぐに立てる
個人では分からない事が多いので弁護士を立てるべきです。サラリーマンに比べて農家はお金の動きが複雑になるので、専門家に依頼して相談をすることをオススメします。

損をしないように交渉をする
提示された金額が本当に適正なのかを判断するためにも、損をしないように計算をしてから交渉を行うべきです。普段から自分の畑にかかるコストと畑から得られる利益を計算しておくことで、適正ではない場合に違和感を持つことができ、交渉をしやすくなります。

関連記事
【第5回】安心して働ける農業法人に! 公的保険制度を理解する
【第5回】安心して働ける農業法人に! 公的保険制度を理解する
これまで、農業法人の設立から資産の移転までの流れを解説してきました。今回のテーマは、農業法人設立後に加入が必要となる「公的保険制度」。農業法人は他業種の法人と比較して家族以外の雇用が少ないため、公的保険制度に目を向ける…
レンコン畑

浅海さんと笑福蓮根のレンコン畑

今回の浅海さんの事故は被害者側だったので、収入保険などに加入していなくても、加害者が加入していた保険からある程度の補償を受け取ることができました。浅海さんは、もし自分が加害者側で何も入っていなかったら考えるだけで恐ろしい、と話します。
皆さんも自分には関係ないと考えるのではなく、リスクを考えて普段から行動しておかないといけません。後悔してからでは遅いのです。

関連記事
【動画つき】死亡事故のリスクが潜む、トラクターの危険を体感!
【動画つき】死亡事故のリスクが潜む、トラクターの危険を体感!
農林水産省によると、2017年の農作業の事故による死亡者数は304人。前年より8人減少したものの、依然として多くの方が亡くなっているのが現状です。中でも、農業機械作業による死亡者数は211人で全体のおよそ70%を占めています。なぜ事…
実践しやすく効果バツグン! 農家直伝の事故対策
実践しやすく効果バツグン! 農家直伝の事故対策
危ないと注意していても起こってしまう農作業事故やヒヤリハット体験。農業現場で事故件数が減らない理由の一つには、農家にとって事故対策は手間のかかることで、しかも作業効率が落ちる、収益につながらない……など農業経営のメリット…
関連記事
近年の賠償事故の傾向は? リスクを知って不測の事態に備えよう
近年の賠償事故の傾向は? リスクを知って不測の事態に備えよう
農作業には危険も伴い、実際に高額な賠償金を負担しなければならない場合には、農業経営が大きく傾く可能性もあります。農家の皆さまに、安心・安全な農業経営をしてほしい! という願いを込めて、私たち共栄火災が、保険会社の目線か…
メーカーに聞く「トラクターによる農作業事故は、なぜ多いのか」
メーカーに聞く「トラクターによる農作業事故は、なぜ多いのか」
農林水産省が公表している「農作業事故」の調査報告によると、農業での死亡事故の割合は、建設業などの他産業と比較しても大きく上回っています。農作業事故は、なぜ多いのか? 死亡事故が最も多いトラクターの話を中心に、「事故の要因…

あわせて読みたい記事5選

関連キーワード

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE

関連記事

タイアップ企画

公式SNS

「個人情報の取り扱いについて」の同意

2023年4月3日に「個人情報の取り扱いについて」が改訂されました。
マイナビ農業をご利用いただくには「個人情報の取り扱いについて」の内容をご確認いただき、同意いただく必要がございます。

■変更内容
個人情報の利用目的の以下の項目を追加
(7)行動履歴を会員情報と紐づけて分析した上で以下に活用。

内容に同意してサービスを利用する