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みどり戦略の具体化が進む、農家に投資を促す機械や設備を認定

吉田 忠則

ライター:

みどり戦略の具体化が進む、農家に投資を促す機械や設備を認定

あまりに遠い先の目標なので、発表当時は多くの農家がリアリティーを感じられなかったのではないだろうか。「みどりの食料システム戦略」(以下みどり戦略)のことだ。だが農林水産省はその後、さまざまな具体策を打ち出し、目標の実現を目指す姿勢を鮮明にしている。みどり戦略の現状を点検した。

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投資促進税制の対象設備を認定

みどり戦略は農水省が2021年5月に決定した。脱炭素や生物多様性の維持を求める国際潮流に合わせ、環境調和型の農業を実現するのが狙いだ。

2050年までに化学農薬と化学肥料の使用量をそれぞれ50%と30%減らすのが柱。有機農業の取り組み面積を耕地全体の25%となる100万ヘクタールまで高める目標も掲げたことで、農家の間に戸惑いの声が広がった。2020年で2.5万ヘクタールという実態と、あまりにかけ離れていたからだ。

ところが農水省はその後、現実の農業経営に関係する政策をさまざまに打ち出した。「基盤確立事業」の実施計画の認定もその1つだ。対象は機械や資材メーカー。1月19日時点で、23の計画が認定を受けている。

例えば、施肥や水やりを自動化して化学肥料の削減につなげるルートレック・ネットワークス(川崎市)の装置の販売強化や、クボタによる可変施肥田植え機の普及の取り組みなどが認定を受けた。トラックに堆肥(たいひ)を積み込むデリカ(長野県松本市)の機械の生産強化なども対象だ。

こうした設備を農家が買うと、「みどり投資促進税制」(※)の適用を受けることができる。減価償却費を初年度に多めに計上し、課税所得を減らす特別償却などがその内容だ。税金の納付額が減り、資金繰りに余裕ができる効果がある。その結果、メーカーは設備の販売促進につながるメリットがある。

基盤確立事業実施計画の認定状況及びみどり投資促進税制の対象機械について

2030年の中間目標を決定

みどり戦略を農家が自分ごととして考えにくかったのは、目標年次が2050年という先のことだったからだ。農水省は人工知能(AI)やドローンを普及させ、目標の達成を可能にする方針なども打ち出していたが、農家がいつどうやって導入するのかを考えるための手がかりは少なかった。

多くの農家が日々の営農とみどり戦略を結びつけて考えるのは難しいと思っている中で、農水省は2022年6月に新たな目標を発表した。2030年までに化学農薬と化学肥料をそれぞれ10%と20%減らす目標を掲げたのだ。同じ時期までに有機農業の面積を2017年の約2.7倍である6.3万ヘクタールに増やすことも決めた。

30年近く先のことと違い、10年以内の実現を目指す目標となると、政策としてのリアリティーが格段に高まる。目標を達成するため、農水省がさらに政策メニューを増やしていくのは間違いない。農家や農業団体はそれを活用し、栽培方法を見直すかどうかを考えることが必要になる。

自治体が次々に基本計画

2022年7月にはみどりの食料システム法が施行され、みどり戦略は法律にもとづく政策に格上げされた。これを受け、滋賀県や長崎県、北海道などの自治体が環境調和型農業を後押しするための基本計画を次々に発表した。

この間、農家にとって驚きだったことは他にもある。ウクライナ危機をきっかけにした肥料高騰対策とみどり戦略を農水省がリンクさせたのだ。具体的には、肥料代の増加分への公的な補助について、化学肥料の使用量を減らしたり、堆肥の利用を増やしたりする計画を立てることを条件にした。

とはいえ、いま明らかになっている施策だけで、農水省が掲げた目標を実現できる保証はない。とくに有機農業の面積を25%に高める目標に関しては、まだほとんど道筋がついていない状態だ。非現実的に見える数値目標の是非についても、農家や農業団体が十分に納得しているとは言いがたい。

だからこそ、農水省がこれからどんな施策を発表し、環境調和型の農業へと誘導していくかは現場の営農にとって大きな意味を持つ。みどり戦略と直接銘打っていなくても、他の政策に影響がおよぶのは肥料対策で見た通りだ。施策の課題を点検することを含め、行方を注視する必要があるだろう。

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