失敗も覚悟、未経験者だけでイチゴ栽培に参入した社長の決断
近い将来の事業環境の潮目に備え、入間ケーブルテレビは、次の事業の柱として農業への新規参入を決めた。
局を立ち上げ、現在はICTVスマイル農場社長を務める荻野喜美雄さんは、農業事業のテーマに「化石燃料を使わない」「天候に左右されない」「誰でもできる」の3つを打ち出した。
これらを実践して2030年までのSDGs達成にも貢献する。
2017年にインフラとなる太陽光発電事業を開始し、本業の消費電力量の2倍相当の発電が可能になり、その余剰電力で農業をする算段だ。
2018年には東松山市にLEDを利用した植物工場を建設。
1日2500株のレタスを生産し、焼肉チェーン、量販店、直売を販路に安定供給している。
次に選んだのは、需要と収益性が見込まれるイチゴ高設栽培だ。
2022年、本社に隣接する用地に井戸を掘り、延べ面積600㎡の5連棟ハウスを建設。育苗から栽培を開始した。
ハウス暖房の燃料は重油が一般的だが、設備を改造して電力利用を貫いた。農場長の西澤洋子さんは本業で渉外企画や総務に従事。農場スタッフとして新たに正社員とパート社員を雇用したが、それぞれ元医療事務と元サービス業で、農業経験のない3人でイチゴを栽培する。「私が重視するのは、誰でもできる農業」と荻野社長は強調する。
「実験農場だから失敗していい」と農場長に伝え、「収穫ゼロも覚悟していた」と言うが、2023年1月に直売を開始すると「甘くておいしい」との評判が広まり、週4日の販売日は客足が絶えず、遠方から車で1時間かけて買いに来る人もいるほどだ。
栽培管理のプロとワンチーム 農業でも地域を笑顔にする
全員が素人のイチゴ栽培を初年度から成功させた背景には、肥料メーカーの株式会社ジャットによる栽培指導があった。
同社が開発した「ジャット式いちご高設栽培システム」は、培養土量の多さや排水性の良さで栽培に入りやすく深堀りもできることが特長だが、生産者に支持される理由としてはアフターフォローに力を入れ、豊富な知見で現場を支えてきた実績も大きい。
ICTVスマイル農場でも、蜂が訪花しない、実が硬くならない、糖度が乗らない、ヘタが変色するなど課題の連続だったが、その都度、営業担当の大谷邦洋さんに問い合わせ、時には写真を送るなどして即座にアドバイスをもらって度重なるピンチを切り抜けてきた。
荻野社長と西澤農場長から全幅の信頼を寄せられているジャットの営業担当・大谷さん
「事業のために設備投資をしてきましたが、苗を植えれば収穫できるわけではありません。経験のない者がイチゴを栽培するには良きアドバイザーが必要です」と荻野社長も信頼を寄せる。
共に目指すのは、糖度の高さによる差異化。次年度も秀品率の向上、新品種の導入などチャレンジは続く。視察を受け入れて技術をオープンにし、今後は栽培データをAIの活用などに役立て、異業種からの農業参入を促していく。
「ジャットがとても頼もしいので正直記事にしてほしくない」と微笑むICTVスマイル農場 荻野喜美雄社長
「地域を笑顔にする」が経営理念。
農場を拠点に生産者による軽トラ市の開催、農業の魅力発信などを行い、地元の飲料メーカーとはイチゴコーラ、茶園とは狭山紅茶のフレーバーティーの開発を進めている。
2023年8月には、イチゴ農場の向かいにトマト農場を開設すると共に、更に1億円を投じて加工所を設立し、農産加工を受託して6次産業化や食品ロス削減にも寄与する。社内では農業事業を希望する社員が増え、若手が従事したい仕事になっていることは最も喜ばしい成果の一つだと言えるだろう。
ジャットでは、全国各地で見学会やレクチャーを行っている。イチゴ栽培や農業への新規参入について相談したい自治体やJAの担当者は、一度連絡してみてはいかがだろうか。
関東近県でのジャット式いちご高設栽培収量プラン（10aあたりの収量プラン。ジャット調べ）
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