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土づくりと同じくらい大切な「水分管理」。肥料使用量減や収量アップにも一役

土づくりと同じくらい大切な「水分管理」。肥料使用量減や収量アップにも一役

農業生産の現場で何が大切かと聞かれたら、皆さんは何と答えるでしょうか。多くの方が「土づくり」という点では一致すると思いますが、「水やり」と答える方はそう多くはないでしょう。
今回は、水やりなどの水分管理方法を研究し、肥料使用量の低減や収量アップにつなげた株式会社果実堂に、実践している水管理のノウハウをお聞きしました。

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生育ステージに合った水分管理

水は植物にとって切っても切り離せない存在。水が無いと育つことすらできないことは言うまでもありません。

しかし、植物に適した水分量を尋ねられて、答えられる人はほとんどいないのではないでしょうか。大学農学部の履修科目としても、土壌学や生物化学、昆虫学や植物病理学などは存在しますが、農業における水の学問は存在しないため、無理もありません。

そうした中、「水は植物を形成する90%以上の割合を占めているのに、水について学ばないのはおかしくないか」と疑問を持ち、ベビーリーフ栽培で生育ステージにあった土壌の水分量の研究を開始したのが、株式会社果実堂で代表を務める高瀬貴文(たかせ・たかふみ)さんです。

一般的には「土が乾いてきたから水やりしよう」、「当分雨が降らないから多めに水やりしよう」といった具合に、その時々の畑を見て感覚で管理していると思います。しかし、高瀬さんは、こうした勘と経験に依存せず、成長に適した土壌の水分量を研究し、数値化しました。数値にすることによって適切な水分量を社内でも共有することができ、個人の感覚に左右されない農業をすることができます。

具体的に果実堂では、植物の根付近の土壌に含まれる水分量をA、B、C、D、E、Fの6段階に分け、理想の数値(植物が成長するのに適した値)をC、Dに設定。このC、Dの数値は管理する畑によって違いがあり、果実堂がある益城町の圃場(ほじょう)は火山灰土のため27%〜32%、また違う地域の沖積土の圃場では17%〜22%といった数値を維持するように潅水(かんすい)しているといいます。

また、農場を管理するメンバーは、手で土を握ったら1%以内の誤差で水分量を判断できるそうです(判断する方法は「土壌の水分量の見方について」にて後述)。畑で実際に土を握り、天候を考慮しながら、次に水やりするタイミングを見極めています。

規模が大きくなった現在は、スタッフが全ての畑を見るには時間がかかるため、土壌の水分量を測るセンサーを導入。ハウスに行かなくても、畑のデータを得ることが可能になったほか、水の遠隔潅水と組み合わせることで、約70ヘクタール、850棟のハウスを少人数でコントロールできるといいます。

水分管理によって起きる変化とは

これらの水分管理によって、作物の生育などにどのような変化や効果があらわれるのでしょうか。高瀬さんによると、大きく分けて三つの成果があったといいます。

植物の生育が早くなる

象徴的だったのが、成長スピードの上昇。周年栽培の野菜は回転数が上がるので、収量アップにもつながったそうです。

植物は乾燥状態になると成長が止まることがあります。適切な水分量を保つことで、乾燥状態に陥ることがなく、生育が止まらないとのこと。実際に同社で作るベビーリーフは、水管理をする前までは年間6回転だったものが、現在では14回転。これは発芽後だけでなく発芽前でも同様だといいます。

雑草の抑制

畑に雑草が生えにくくなることも効果として挙げられるそうです。

雑草は、野菜の成長が止まるような劣悪な環境でも繁殖し続ける厄介な存在。その種類もさまざまで、水田で発生する水生雑草、湿潤な環境で発生する湿生雑草、乾燥した畑に発生する乾生雑草などに大別されます。特に、畑で見られる乾生雑草は土壌が乾燥している状態の時が一番発生しやすいため、適切な水分量を保つことが、乾生雑草の発生を抑制することにもつながるといえます。

雑草が少なくなることで肥料の吸収率が上がり(乾燥状態の土壌を除く)、結果的に肥料の使用量を抑えられるメリットもあります。

生育の安定

植物の生育ムラが少なくなり、収穫の効率も上がるという成果もありました。

畑全体の水分量を管理することで、潅水のムラがなくなるため、生育のムラも少なくなります。これによりサイズのそろった野菜が育つため収穫もスムーズに進み、作業効率の上昇にもつながるのです。

上記の写真は、果実堂の関連会社である果実堂テクノロジーが水分管理の技術を提供しているコンサルティング先の農業法人の畑です。

ハウスでは大葉の栽培をしていますが、水分管理をする前の畑では大葉の背丈がそろわず、収穫量、作業効率が悪かったのが悩みでした。

しかし、水分管理の導入後は写真の通り、株の不ぞろいが無くなり、ほとんど同じ高さの株に。収穫効率が上がり、生産量が3割ほど増えたといいます。更に、目に見えて雑草の量も減っています。

農家がまねできる水分管理の方法

最後に高瀬さんに、農家自身がすぐに実践できる水分管理の方法を聞いてみました。

土壌の水分量の見方について

高瀬さん:水分割合を見るときのやり方は、根付近の土を取り、手のひらでギュッと包み、手を開いた時に何等分に割れるかで見ています。何等分に割れるのが適切かは土質によって変わってきます。

土壌の要素は、土の粒子や落ち葉といった「固相」、土壌中の水分である「液相」、土壌中の空気である「気相」の三つに大別され、これを土壌の三相といいます。適切な水分量は、固相である土の粒子の大きさによって変化します。粒子が小さく粘性が強いものは、空気と水が少ないです。逆に、軽い土は、空気と水を含みやすいといえます。

上記を意識して、自分の畑の適切な水分量を研究してみるといいかもしれません。

水やりのタイミングについて

高瀬さん:果実堂では、朝に1回だけ天候や現場をみて数日後を意識した潅水をしています。当日を意識した潅水だと気づいた時には遅くなり失敗になることも。また、発芽と生育ステージによっても適切な水分割合は変わってくるので意識することも大切です。今も当社では研究をしていて、毎年収量は増加しています。

確認した当日に乾燥していると気づいても遅いので、先を意識した水やりが必要です。

取材後記

初めて聞く水分管理の話は、そんなことが起こるの?! という驚きの連発でした。しかし、実際に果実堂以外でも水分管理によって変化している農家がいます。今後、水分管理が農業界に広まれば、農業の新しい常識となりうる可能性があると感じました。

取材協力

株式会社果実堂
果実堂|ベビーリーフ生産量日本一 (kajitsudo.com)

株式会社果実堂テクノロジー
株式会社果実堂テクノロジー (kajitsudotech.co.jp)

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